GAZE fotographica(旧BLAKISTON)で開催された「621の仕事展」へ。

621(ロクニーイチ)は学生時代の同級生だった3人、デザイナーの植木祐介氏と祐川諭氏、職人の藤原誠氏からなるユニット。大学卒業後にそれぞれが別々のインテリア設計事務所や家具メーカーでキャリアを積んだあと、独立を機に再度集結。札幌を拠点に、家具やプロダクト・インテリアのデザインから制作までを一貫して手がけている。

左から祐川氏、藤原氏、植木氏

これまで、建築設計事務所やデザイン事務所からの什器やオーダー家具の発注をメインに受けながらアイデアや技術を磨き、オリジナル家具の制作にも取り組みはじめている。「オーダーもオリジナルもそれぞれに面白いと思っています。建築家の方から受ける要望は難しいものも多いですが、そこになんとか僕ららしさをプラスしたいと思うし、その結果オリジナルにつながるような技術が生まれたりもするので、どちらもやりながら少しずつオリジナルを増やしたいですね(祐川)」。

オーダーでつくるものはクライアントの要望を満たしたりそこでの使われ方を満たすことに終始するが、オリジナルはそれに普遍性を加えて誰にとっても良いものにしたいという思いがあるそう。今回メインで展示された初めてのオリジナルチェア01_dcは、「日仏食堂さらもじ」というレストランからのオーダーでつくった家具がもとになっており、試作を重ねながら数多くの人に受け入れられるかたちを目指していったもの。

01_dcの試作プロセスを展示。アームの丸みなど微妙な違いがわかる

札幌でも人気の「brasserie coron with LE CREUSET」の店内家具を手がけるなど、飲食店の仕事を数多くこなしている彼ら。「飲食店の仕事は開店日の関係などで、スピードとデザインのバランスが問われます。特に什器や家具は工事の工程では最後のほうに現場に入るので、日が迫っていてもクオリティを保つための工夫が必要になります。その点、うちは藤原が現場で作業ができるので、最終的な調整などがしやすい体制ではありますね(祐川)」。

素材の加工行程も展示。曲げ木加工はさまざまなプロダクトで使用している

3人でデザインから制作まで完結することの利点として、試してみたいと思ったことを気軽に言い合える関係性についても言及する彼ら。「自分に無理させることって難しいですけど、藤原には無理が言える(笑)。近い存在だから『これってどう?』と言いやすいし、それを面白がってやってみてくれるから、できるんじゃないかと思って言ってしまいますね(植木)」。できることできないことからではなく、どうやって自分たちらしく形にするかを起点に仕事を組み立てていく姿勢が発注者側からも信頼を得ているのではないだろうか。

「やりたいことが自分たちのサイズで実現可能かどうか、掘り下げていくことに面白みを感じます。素材についてもこれでなくてはならない、というこだわりはありません。家具というものの性質上、木を使うことが多いですが、要望やコンセプトを満たすものであれば新しい素材も使っていきたいと思っています」と藤原氏が言うように、3Dプリンターで生成した樹脂の部品を木の椅子に使っていたり、モルテックスやウレタンチップを木と組み合わせたりと、派手ではないが他ではあまり目にしたことのないようなものがそこここに見受けられる。

BLAKISTONとのコラボレーションで今回の展示用につくりあげたスツール。木とウレタンチップの組み合わせが不思議な存在感を放つ

今回の展示は「自己紹介がしたかった」という彼らの言葉のとおり、これまで手がけてきた家具、インテリアプロダクト、展示什器、小物などさまざまなものが並ぶが、作品についての説明は必要最小限に留められており、つくったモノの紹介というよりは621の世界観の紹介といった雰囲気。「つくりたいと思ったものをいかにシンプルに精度高くつくるか」そんな彼らの思考がにじみ出るような空間となっていた。

あまり表に名前が出ることのない621の作品たちだが、これから知らず知らず触れる機会が増えそうな予感がした。

◎621(ロクニーイチ)
https://621design.com/

(文/Replan編集部)