放射によるスムーズな放熱が涼しさを呼ぶ

人体に限らずエネルギーをもつ物体はすべて、電磁波の放射によりエネルギーを放出しています。表面温度6,000℃の太陽のように高温な物体からは可視光や近赤外線が放出されますが、人体や室内の物体のように低温の物体からは遠赤外線が放出されています。図9のサーモ画像を見ると、人体後ろのスクリーンの温度が少し上昇していることが分かります。人体から放出される遠赤外線により、スクリーンが加熱されたのです。

図9 あなたにもモノを熱くする力がある!?
図9 あなたにもモノを熱くする力がある!?
本連載でなんども触れているように、人体は代謝熱を主に「対流」(→空気)と「放射」(→周辺物)の2ルートで常時放出しなければいけません。サーモカメラで見ると、人体後ろのスクリーンの温度が上昇しているのは、この放射による放熱がスクリーンに吸収されたためです

通常の室内環境では、対流と放射がそれぞれ半分ずつ放熱を担っています。放射による放熱がスムーズに行われることも、涼しい環境の必要条件なのです。

周りが熱いと放射で加熱される

もしも体の周りを取り囲む物体の温度が高いと、そこからは大量の遠赤外線が放出され、体を加熱します。たとえば、夏の炎天下の中で道路を歩いていると暑さでクラクラしますが、これは気温が高いだけでなく、高温になったアスファルトからの放射による加熱が大きな要因です(図10)。

図10 放射地獄にご用心
図10 放射地獄にご用心
アスファルトの道路は日射熱を吸収しやすく、その表面温度は晴天には簡単に60℃以上に上昇します。高温の道路表面からは遠赤外線が大量に放射されるため、人体は強力に加熱されてしまいます

室内にいても、開けた窓から強い熱を感じることがあります。窓の外側のウッドデッキなどは素材が木なので熱伝導率が低く、表面温度が高くなりがちです。高温になった表面からの放射は、人体を強力に加熱するので非常に不快になります。これがいわゆる「照り返し」です。

窓を開けて通風させるためには、この照り返し防止が重要です。屋外を緑化するなどして、表面温度を下げることが有効です(図11)。

図11 照り返しにもご用心
図11 照り返しにもご用心
屋外のウッドデッキは日射で表面温度が上がりやすく、放射による「照り返し」の原因となります。建物の周りを緑地で覆うと表面温度が下がるので、照り返しの緩和につながります

天井からの放射熱には要注意

放射による加熱は、屋外に限ったことではありません。家の中でも、特に天井面からの放射熱は大きな問題です。

前述の通り、夏の昼には直上から日射が降り注ぐため、屋根は強烈に加熱されます。屋根の断熱・遮熱が十分でない場合は、室内側の天井温度が非常に高くなってしまうのです。高温になった天井からは人体に向かって強力な放射熱が放出され、人体からの放射による冷却が機能しなくなり、非常に暑さを感じることになります(図12)。さらに天井からの放射熱は暑さに最も敏感な頭部を目がけて照射されるため、さらに不快に感じてしまうのです。

図12 夏の敵は頭上から攻めてくる
図12 夏の敵は頭上から攻めてくる
夏は昼に直上から日射が降り注ぎ屋根の温度が上昇するため、断熱が不足している場合には天井の温度が上昇します。加熱された天井からの放射は、特に暑さにデリケートな頭部を直撃してしまいます。断熱の不足は夏の暑さの原因にもなるのです

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