さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
「夏を旨とすべし」とは、家づくりで古くから言われてきた格言です。夏を快適に過ごすため、日本の家では日射遮蔽と通風が重視されてきましたが、「冷房を快適に使える家」というテーマは実は未解決なのです。多くの地域で記録的に暑かった2016年の夏。科学の視点から、夏の快適をもう一度考えてみましょう。
冷房費は大したことないけど夏の室内は暑くて不快!?
住宅の省エネというと「冷房の節約」がまっ先に挙げられます。たしかにたくさんの人が昼間に働き、内部発熱が大きいオフィスでは冷房の省エネは重要ですが、住宅では実は冷房のエネルギー消費量やコストはたいして大きくありません。
図1は、東日本大震災前後で「どの用途が一番エネルギーを使っていると思うか」を聞いた結果です。震災前は「冷房が一番」と答える人が多かったのですが、最近では「暖房が一番」と答える人が増加しています。開放的な間取りが増え長時間暖房をつけて暖房費が増えたせいかもしれません。
では冷房の問題は解決したのでしょうか。ここ5年以内(2010年〜2015年くらい)に家を買った人へのアンケートをみると、図2に示す「夏の暑さ」については「以前の家」と「現在の家」であまり差がなく、特に「西日が入る」「建物上部に熱がこもる」が大きな不満になっています。どうやら冷房の課題は、冷房費の削減はともかくとして、冷房しても暑いという不快の問題が重要そうです。以下では二大不満の「西日」と「上部への熱のこもり」の解決を見ていきましょう。
最大の敵は「朝日」と「西日」。太陽の軌道をよく理解しよう
夏の強烈な太陽を効果的に遮蔽することは、冷房の省エネと快適性確保において最も重要なことです。しかし「太陽は南にあるもの」というイメージのためか、日射の遮蔽というと南面ばかりが重視されがちです。しかし、本当に恐ろしいのは東・西の方位なのです。
図3に、建物の外壁を撮影したサーモカメラの画像を示します。15時ごろの撮影ですが、日が当たり温度が高くなっているのは、南面ではなく西面であることが一目瞭然です。
なぜこれほど西側の温度が高くなるのか。それは太陽の軌道が原因です。太陽というと、「東から上り西に沈む」というイメージがありますが、それは春分秋分の話です。
東京における8月の太陽軌道を再現したのが図4です。朝5時の「日の出」は真南から東向きに117度(真東からさらに27度北)、夕方18時の「日の入り」は真南から西向きに106度(真西からさらに16度北)となっています。夏には「北東から上り北西に沈む」のが正解なのです。
太陽が南中する12時の太陽位置は72度と非常に高く、ほぼ真上にきます。このため、南の窓からは意外に日射が入り込みません。庇を少し出しておけば簡単に防げます。逆に、朝8時にはほぼ真東、夕方16時にはほぼ真西から、太陽高度30度くらいの低い角度で強烈な日射が入るため、夏は東・西面こそ、一番気を付けるべきなのです。
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