「停電時の味方、石油ストーブ。使うときの注意点とは?」「LDKをシェルター化!冬の停電でも凍えない家づくりの工夫」と2回にわたり、北海道立総合研究機構(以下、道総研)の建築研究本部長で北方建築総合研究所所長の鈴木大隆さんに伺ったお話を交えながら、冬場の停電時の「もしもの備え」についてお伝えしてきましたが、今回はその最終回です。
不安な心に明かりを灯す。
災害時における電気の重要性
「大きな災害で停電になったとき、何よりもまず必要なのは何だと思いますか?」という鈴木さんの問いかけに、「…暖房?…携帯の充電?…」と私たち。「違うんです。一番は、明かり。照明が大事なんです」。
2004年に起こった新潟県の中越地震後、被災した各市町村が取りまとめた住民アンケートの集計によると、避難当日に困ったこととして一番多かったのが「電気が止まったこと」でした。
鈴木さんをはじめ道総研建築研究本部の皆さんは、新潟県の中越地震や東日本大震災、熊本地震、そして今回の北海道胆振東部地震でも調査や応急危険度判定、復旧・復興支援のために現地に赴いて、多くの被災者の生の声を耳にしています。その経験から「突然の大きな災害で不安な中、明かりっていうのは人に大きな安心感を与えるものなんですね。明かりがないと、夜は真っ暗で何も見えません。余震が続く中、何も見えない家の中では余計に不安が募ります。かといって避難所にも居づらくて、車の中で寝ることになる。車だとラジオも聴けるし、携帯の充電もできますから」と話します。
そこで、「非常時でも最低限の電力を自給できる家づくりの仕組み」として鈴木さんが提案するのが、小規模な太陽光発電システムと蓄電システムの設置です。日々発電する電力は自宅で消費して、足りない分を電力会社から購入。これなら万が一のとき、発電・蓄電した電気を、照明や携帯の充電など最低限必要なことに利用できます。
まずは身近な、できることから。
「最小限のオフグリッド」を実践した住まい
「最小限のオフグリッド」ともいえるこの方法を、昨年建築した住宅ですでに実践していたのが札幌市在住の建築家、櫻井百子さんです。
建築における、エネルギーや環境の問題にも積極的に取り組んでいる櫻井さんは、ご実家の新築にあたり「身近な小さなところから始めて、徐々にオフグリッドにシフトしていく暮らし」の第一歩として、0.1kWの太陽光発電パネルを2枚設置。
発電した電力を床下に設置した蓄電池に溜め、インバーターで家庭用電力に変換させて、携帯端末の充電やラジオの電源など少ない電力で動く電化製品用の電気を自給する仕組みを取り入れました。「冬に停電になっても、これでペレットストーブの電源が取れるので安心」と櫻井さんはいいます。
今回の北海道の大地震では幸いにも、ブラックアウト当日の夕方には電気が復旧したご実家ですが、お母さんは停電時、櫻井さんから預かっていた高価なお肉のギフトセット(!)を守るべく、何よりも先に冷蔵庫を自家発電のコンセントに接続。「買い替えたばかりの最新式の冷蔵庫だったこともあるのか、小さな電力でも氷が作れるくらいしっかり動いたみたい。でもいざとなると、人の動きってわからないものですね」と櫻井さんは笑います。
櫻井さんのご実家では、自家発電した電気を照明にはつないでいませんが、コンセント式のフロアスタンドなどは灯せるとのこと。大地震の翌日も晴れて十分に充電できており、わずか0.2kWの太陽光発電パネルの設置でも、非常時にはとても心強い存在といえるでしょう。ただそれなりにイニシャルコストはかかるので、「損得というよりは、いざというときの安心感への投資と考えたほうがいいですね」。
ちなみに櫻井さんのご実家の場合は、能力が12V/200W・リサイクルバッテリー搭載で20万円+取り付け工事費。個人で独立型太陽光発電の普及活動をしている早川寿保さん(イオテクノロジー)のワークショップ参加が条件での販売・設置でした。太陽光発電パネルとバッテリーは直列でつなげば増設可能なので、お金に余裕ができたときに増やしたい分だけ増やせるそうです。
今回、「もしもの備え」について道総研でお話を伺う中で、鈴木さんがもらした「被災した人たちにとって、照明の明かりは『希望』でもあるんだよね」という言葉がとても印象的でした。
電気の生み出し方や消費のしかたについては、さまざまな方法や議論がありますが、今の私たちの暮らしに欠かせないものであるのは確かです。櫻井さんがいうように「身近なところから」始められることを家づくりに取り入れて、「非常時にも強い、日常の住まい」を考えていきたいですね。
(文/Replan編集部)
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