温熱感の差は夫婦ゲンカの元?
ここまでは、PMVモデルに基づいた温熱バランス・温熱感について主に見てきました。PMVモデルは長い時間をかけて検証されてきたモデルであり、人体と快適性の理解に非常に有効です。一方で完全に代謝熱と放熱がバランスしたPMVゼロの状態でも不満者が5%いるように、温熱環境には個人差があるのは事実です。
ある家電メーカーが実施した調査では、「パートナーに対してイラッとすること」の3位として、「エアコンの温度設定(50.7%)」が上げられていました(図11)。前述のとおり、各自の着衣量でも放熱量はある程度調整できますが、あまり極端なことはできません。各自の快適性を追求すると最後には各自がバラバラに個室で好きなようにエアコンを設定するのがベスト、という状態に行き着いてしまいそうです。
テレビがリビングの王様から陥落し、今や各自がスマホやタブレットで好きなものを楽しんでいます。娯楽と同じように、温熱環境もバラバラになってしまうのでしょうか?
暖房も家族みんなでの体験の時代に?
最近の研究では、「押し付けられた環境」では不満が多いということが分かっています。「自分で調整した環境」に対しては満足度があがるのです。自分で選んだほど、自分がかかわったほど、その環境への満足感が高くなるのは自然なことかもしれません。
最近では薪ストーブが静かなブームだそうです。薪ストーブを使うには、ご近所から適当な木を分けてもらい、家族みんなで汗をかきながら薪割りをして、時間をかけてしっかり乾燥させた薪が必要です。火付けも大変だし、燃え方も変化し続けます。薪ストーブはエアコンに比べれば手間がずっとかかります。こうしたレトロな暖房が復活するその背景には、失われつつある家族みんなでの体験のシェアを復活させたい、という思いがあるのかもしれませんね。
今回は「いごこちの科学」のまさにコアなテーマとして、人間の熱バランスと、主に冬期におけるいごこちのよい空間について見てきました。皆さんも日々の生活の中を見返して、感覚と物理の関係について理解を深めてみてはいかがでしょうか。一方で、温熱環境や温熱感はなかなか複雑な問題です。この連載の中でも、また取り上げてみたいと思います。
※次回のテーマは<電力自由化! 電気の歴史を振り返ってみよう>です。
【バックナンバー】
vol.001/断熱・気密の次の注目ポイント!蓄熱大研究
vol.002/暖房の歴史と科学
vol.003/太陽エネルギー活用、そのファイナルアンサーは?
vol.004/「湯水のごとく」なんてとんでもない!給湯こそ省エネ・健康のカギ
vol.005/私たちの家のミライ
vol.006/窓の進化
vol.007/断熱・気密はなぜ必要なのか?
vol.008/冬のいごこちを考える
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