さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
本連載ではこれまで、窓や壁についてのトレンドについてお話ししてきました。熱をより逃がしにくい高断熱な窓や壁は、暖冷房の省エネに有効なだけでなく、室内を快適にするのにも大いに役立ちます。
そもそも人間はどんな温熱環境を欲しがっているのでしょうか。人間の「温熱感」「快適性」に基づいて、冬のいごこちを一緒に考えてみましょう。
メタボ熱で体のコア温度を一定に
我々人類は、「恒温動物」の一種です。体内で「代謝熱」を常に発生させることで、低温の環境でも体温を維持し活動を続けることができます。代謝は今流に言えば「メタボ」です。生物が生命を維持するために体内で行っている「化学反応」のことを指しています。この反応が加齢とともにうまく進まなくなるのが、かの恐ろしい「メタボリックシンドローム」です。
熱を捨てるのが人間のノルマ
ハ虫類などの「変温動物」は、体内で代謝熱を発生させることがほとんどできません。そのため、外界の温度が下がると体温も下がってしまい、ついには活動できなくなってしまいます(図1)。
人類が地球上の多様な気候で活動できているのは、この恒温動物であるためコア温度を維持できるからです。一方でこの大きなメリットと引き換えに、人類は2つの大きな「ノルマ」を背負っています。一つには代謝熱を常時発生させるためのエネルギー源である食料が大量に必要なこと、もう一つは代謝熱を常に捨てなければならない、ということです。体の中で生産される代謝熱と皮膚表面からの放熱量をバランスさせることが、人間の生存には不可欠なのです。
体の中の温度分布は周辺環境で変化する
しかし、この熱バランスを成立させるのはそんなに簡単ではありません。周りの環境によって放熱量は変化しがちであり、特に寒い時は、放熱量が過大になります。人間の体も、ある程度はこうした外部環境に対応する能力をもっています(図2)。
体のコアの温度は37℃を維持する必要がありますが、手足の温度はもっと下げても大丈夫。そこで寒い時には体表面や手足への血流を絞ることで温度を下げます。こうして体表面からの熱ロスを減らすことで、全体の熱バランスを維持しているのです。
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