前回の記事「大停電をきっかけに、「住まいの照明」を考える。」でもお伝えしたように、先日の大停電は、「今の自分たちの暮らしでは何が大事で、どういった備えをしたらいいのか」に気づく大きなきっかけになりました。
さらに、私たちReplanのスタッフも含め多くの道民は(あるいは道民でなくても)、「これが真冬でなくてよかった…」と思ったのではないでしょうか。多くの暖房機器は、今や電化製品です。たとえ燃料がガスや灯油であっても、電源がないことには動かない、といったものが多くあります。あの停電が冬に起こったら…と考えると、ちょっと怖いですね。
とはいえ、家づくりを「もしものとき」ありきで考えてしまっては、本末転倒です。そこで今回は、省エネな自分たちらしい家を考えたら、結果として「もしものとき」にも強い家になった、そんな住まいの実例をご紹介したいと思います。
高い住宅性能が鍵。
薪ストーブ1台で暖かい家
■新冠町・Aさん宅
■夫婦40代、子ども2人
家づくりをはじめる前は、暖房は床暖房などの一般的なもので、予算的な余裕があれば薪ストーブを入れたいと考えていたAさんご夫妻。ところが実際の家づくりで提案されたのは、薪ストーブ1台で十分に暖かく快適に暮らせるシンプルで効率的なプランでした。「暖房が薪ストーブだけと聞いたときには驚きましたが、断熱・気密の性能を十分に確保するということだったので、信頼してお任せしました」とご主人。実際、リビングの大開口部付近はもちろん、薪ストーブから離れた場所にある子ども部屋までも暖かいといいます。
建物の性能が高ければ、少ないエネルギーで快適な暮らしができます。そしてメインの暖房が電源の要らない薪ストーブであれば、停電時でも安心して過ごすことができますね。
・Aさん宅の「もしもに備える」工夫ポイント
- 暖房計画:暖房は薪ストーブのみ。高性能な建物でエネルギーを効率化
- 陽射しの管理:冬はリビング窓から暖かい陽射しを取り込み、夏は庭側の林で遮る
- 蓄熱利用:土間コンクリートが冬の薪ストーブの暖気や夏の夜間の冷気を蓄えて、一年を通して室内を快適に保つ
- 換気計画:空間の高低差や天井の勾配をつけることで自然な空気の流れをつくる
■設計/一級建築士事務所アーキラボ・ティアンドエム
■施工/積和建設札幌(株)
停電や断水でも心強い
シンプルライフを叶える平屋
■札幌市・Kさん宅
■夫婦40代
断熱・気密性能はしっかり確保した上で、暮らしを楽しむための仕掛けとして、薪ストーブや大きな庭の菜園がつくられたKさんの住まい。約27坪のコンパクトな長方形の間取りには、空気の流れを考え機械に頼りすぎない換気の仕組みだったり、生活動線をシンプルにして効率化を図る工夫などが散りばめられています。
札幌の家づくりでは雪の処理方法も大切ですが、道路から家までのアプローチを短くすることで、融雪システムを入れる必要もなく手間を省けます。菜園の陽当たりを意識してかけた片流れの屋根を生かして雨水を貯水タンクに集め、菜園の水やりに有効利用する仕組みも。タンクの水は、今回のような災害時には生活用水として役立ちます。
省エネなつくりや、趣味的に使おうと設置した薪ストーブ、家庭菜園のための雨水タンクなど「思い描く暮らしを、どう快適に楽しむか」を考えてつくられたKさんの家は、結果的に、停電や断水などの非常時にも強い家になったといえるでしょう。
・Kさん宅の「もしもに備える」工夫ポイント
- 間取り・プラン:シンプルな生活動線と手間のかかりにくい暖房・換気方式を採用
- 暖房計画:薪ストーブ+メインに床下放熱器による暖房として手間を少なく
- 換気・通風計画:家の中を通り抜けるよう、風の流れを意識した窓の配置計画
- 雪処理の工夫:道路までの距離を短くし、除雪の手間を省いたアプローチ空間
■設計/(株)エスエーデザインオフィス一級建築士事務所
■施工/岩田住宅商事(株)
このように、家づくりの際のひと工夫があれば、平常時から力むことなく省エネな暮らしができますし、もし冬に停電や断水、ガス管の破断が起きても、家族の最低限の暮らしを守ることができます。
家は、何十年も続くであろう家族の日常生活の場。家づくりでは、日々の暮らしを心地よく過ごすためにどうしたらいいかを考えるのが第一ですが、同時に「その住まいが非常時にどう機能するか」という視点も重要です。特に冬の寒さが厳しい北海道や東北では、エネルギー源や水が供給されないと切実な問題につながるでしょう。今回の大停電を教訓に、改めて、家づくりや住まいにおける「もしもの備え」について考えてみる必要がありそうです。
(文/Replan編集部)
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・大停電をきっかけに、「住まいの照明」を考える。