平屋建て住宅が人気だという。高齢者が平屋建てを望むのは理解できますが、若い世代に人気があるそうです。将来の準備としてというのはあまりにも用意周到すぎますし、やはりそのデザイン性の高さが人気の原因でしょう。平面も自由で、天井の高さを自由に設定でき、豊かな変化のある空間が可能になります。しかしその結果、平屋建て住宅は床面積あたりで考えるととても高価になり、省エネ性能でも普通より厚い断熱が必要になる贅沢住宅です。

平屋建て、中2階建て、一部2階建て、総2階建ての検討対象住宅

この連載の第4回で「シンプルな家~平屋」と題して、シンプルな形状で家をつくることがコストダウンへの第一歩であり、平屋建て住宅でもシンプルな計画が大事で、さらにいえば平屋よりも中2階建てがいろいろな生活の変化を受け止めるのに有利だということを述べました。

そして第18回では、「Q1.0住宅を計画する上での思わぬ落とし穴」と題して、平屋建て住宅でも複雑な平面形状の設計や天井を高くすると、予想より遥かに暖房費のかかる家になってしまうことをデータで説明しました。  

今回は、平屋建て、中2階建て、一部2階建てと総2階建ての住宅を、実際の設計図をもとに、データでいろいろ比べてみたいと思います。図1から図6に比較検討する住宅の図面を示します。

●平屋建て住宅(図1~3)

図1は、ほぼ最小限住宅の平屋建て住宅です。

図1 平屋建て住宅1(14坪)

このような小さい住宅は、坪単価は高くなりますが、住宅価格は小さく抑えられ、予算の少ない若い人たちにとって住宅が建てやすくなるメリットはあります。しかし、予備のスペースがなく、家族構成の変化には対応できません。このプランは某ハウスメーカーのプランをお借りしました。  

図3の中2階建て住宅の1階のみで建てればもう少し大きな平屋建て住宅になり、図1に比べて和室3畳と書斎コーナーが取れ、全体的にゆとりが生まれます。  

図2は、かなり大きな平屋建て住宅です。

図2 平屋建て住宅3(29.25坪)

公社型プランと呼ばれ、北海道などでは敷地が広かった頃、火山灰ブロック造の住宅として多く建設されました。普通は4間✕6間の24坪ですが、これはもう少し広げた住宅になっています。実は、私が室蘭時代に住んでいた住宅です。この状態で数年暮らし、子どもたちが大きくなって、小屋裏三角屋根形式で増築し、同時に断熱改修を行いました。平屋建て住宅の方が構造的に強度を出しやすく、また強度の小さな火山灰ブロック造でも十分な耐震性能が得られたようです。  

これらの平屋建て住宅は、いずれもシンプルな長方形のプランです。L型やコの字プランとすると外壁面積が大幅に増え、コストも増え、熱性能を上げるのにも大きなコストがかかることになります。

●小屋裏中2階建て住宅(図3)

図3は、新住協で設計監修を行った仙台に立つ住宅です。

図3 平屋建て住宅2(21坪:この図の1階のみ)
    小屋裏中2階建て住宅(29.25坪)

女性の一人暮らしで、平屋建てを希望されましたが、東京から親戚が大勢で泊まりに来ることがあるとのことから、小屋裏中2階建てで計画されました。平屋建て住宅からコストアップを抑えるために、以下の図面と写真のように1階の階高を極力小さくして、小屋裏の2階も最小限の天井高さにしてあります。

小屋裏中2階建て住宅の矩計図と外観写真(コストを抑えるため階高を最小にした)

この設計でリビングや寝室は吹き抜けとなり、とても開放感のある設計になっています。若い人が建てる場合でも、2階は子ども部屋や予備室として使うことができ、ライフスタイルの変化に柔軟に対応しながら平屋の暮らしをすることができます。

●一部2階建て住宅(図4)

他の住宅より少し大きいのですが、省エネ基準の解説書に使われる120㎡の住宅です。

図4 一部2階建てモデルプラン(36.25坪)

一部2階建て住宅といっても2階部分がかなり大きく、総2階建て住宅に近い構成です。

●総2階建て住宅(図5~6)

総2階建て住宅としては、2.5間✕6間の細長い長方形のプランと、4間✕4間の正方形プランを用意しました。

図5 総2階建て住宅(2.5間×6間 30坪)
図6 総2階建て住宅(4間×4間 32坪)

正方形プランは、床面積あたりの外壁面積が4角形としては最小になります。これに対して、細長の長方形プランでは若干床面積あたりの外壁面積が増えます。また、図2~4のプランでは南面の幅が広く、南面窓面積が大きく、ここから入る日射熱により暖房負荷が小さくなるのですが、この細長プランでは南面の面積はかなり小さくなり、このプランは南東や南西に向いた幅の狭い敷地に建てられることも多いため、東面に大きな開口部を設けています。  

これらの住宅について、外皮の部位面積や熱損失について比較します。