北海道の新築住宅も最近はかなり高性能化してきているようです。断熱材も厚くなり、トリプルガラスのサッシが普通に使われていますが、熱交換換気システムの普及は少し遅れているようです。北海道の高性能住宅をリードしている人たちが、なぜか熱交換換気よりも第3種換気やパッシブ換気にこだわっているのです。住宅の高性能化が進むと熱交換換気の住宅は、第3種換気やパッシブ換気の住宅に比べて暖房費が半分以下になります。

高断熱・高気密住宅が始まった頃は第3種換気が採用されていた

私が在来木造住宅構法を改良し、コストの安いグラスウールを使っても高性能な住宅を実現できる工法を提案して、高断熱・高気密住宅が始まりました。気密性能が大幅に向上したことで、逆に電気を使う24時間換気が必要になり、省エネ住宅で室内空気を清浄に保つために電気が必要というのは、矛盾のような気もしました。当時の住宅の換気の熱損失はとても大きく、住宅全体の25~30%ぐらいにもなり、せめて熱交換換気システムを採用したかったのです。

しかし、当時の熱交換換気システムはファンのモーターが交流式だったので消費電力が大きく、第3種換気に比べるとファンを2台使うため、電気代が2倍かかるものでした。60~80Wのファンが24時間運転すると、1日で1kWhもの電気を使います。さらに、内部での空気漏れも多く、そのために一部の排気が逆流したり、それが原因となり内部で結露が起きたりカビが生えたりで、とても使う気にはなれませんでした。  

当時の高断熱住宅はまだ断熱水準が今より低く、目標性能も低かったので、他の部位の断熱性能を強化して性能を上げることができました。私が電気を使わないパッシブ換気の研究を始めたのもこの頃です。

Q1.0住宅の提案にはどうしても熱交換換気が必要になった

私が高断熱住宅を提案して10年ほど経ち、国は次世代省エネ基準を制定しました(1999年)。北海道の基準は私たちの主張も取り入れられ、高断熱住宅が実現しました。しかし、青森以南の日本全体ではその断熱レベルはとても低く、私たちが考える高断熱住宅からは程遠いものでした。

そこで、一層高性能住宅を広めるために、次世代省エネ基準住宅の半分以下で全室暖房を実現するQ1.0住宅を提案し始めました(2005年)。暖房エネルギーを大幅に削減するためには、熱交換換気はとても重要でした。当時はまだトリプルガラスのサッシが一般的ではなく、外壁の断熱厚さをなんとか200㎜程度に抑えるには熱交換換気は欠かせないものでした。熱交換換気だけで20~25%も暖房エネルギーが減るのです。

日本製の熱交換換気システムにあまり良いものがなかったせいもあり、当初は直流モーターにより消費電力が小さく熱交換効率の良いドイツ製の製品を採用してみました。なんとダクトの太さが150φと太く天井裏に入りきらないのです。その後、熱交換効率が低くてもいいので、ローコストで施工しやすい国産のシステムに切り替えました。

熱交換換気システムの原理と構成

24時間換気は気密性能の高い高断熱住宅で室内の空気を清浄に保つために、新鮮な外気を一定量取り入れ、同じだけ排気します。この排気はいろいろな汚染成分とともに暖房の熱と水蒸気を含んでいます。この熱と水蒸気を回収して、汚染空気だけを排気するのが熱交換換気です。ビル空調では大きな装置を使っていましたが、今から40年ほど前、三菱電機がロスナイという熱交換エレメントを開発して特許を取りました。それが図1です。

図1 熱交換換気エレメントの構成(ロスナイ)

図のように段ボールを縦横に交互に重ねた形状をしています。段ボールには直角に2方向に穴が空いています。この穴の一つの方向には冷たく新鮮な外気を通し、もう一つの方向には暖かく湿った室内空気を通します。これらの空気は段ボールの紙で隔てられていますが、熱や水蒸気はこの段ボールを通り抜け、冷たく乾いた外気に熱と水蒸気を移動させるのです。

このロスナイエレメントはとてもコンパクトなことから、世界中に広まりました。このロスナイエレメントを金属やプラスチックでつくると、水蒸気を回収せずに熱だけを回収します(顕熱回収型)。紙や水蒸気を通すプラスチックでつくると熱と水蒸気を回収するのです(全熱回収型)。ヨーロッパの住宅では湿気を排出する目的で顕熱型が使われ、日本の住宅では乾燥を防ぐために全熱型が使われています。  

このロスナイエレメントには、実は大きな欠点があります。それは図2の上の丸印の部分です。

図2 全熱交換ロスナイエレメントの内部の空気性状

この付近で、冷たい外気と暖かい室内の空気がいきなり交差するのです。暖かい空気は冷たい空気とすれ違い、そのときに結露が生じてしまいます。寒冷地ではこの結露が凍り付きやがては空気が通らなくなります。これを防ぐためにヨーロッパでは電気ヒータを使ったりしていましたが、さすがに今では熱交換をやめて室内の空気の排気だけにして、凍結を溶かし乾燥させる仕組みになっています。こうすると効率が大幅に下がってしまいます。  

この欠点を改良したのが図3の菱形六角形のエレメントです。

図3 ロスナイエレメントを改良した対向流型熱交換エレメント

ロスナイの特許に触れるため、この改良型はロスナイの特許が切れた20年ほど前から一斉に出てきました。図のように結露が起きにくくなりました。この形を対向流型と呼びます。この部分を長くとれば熱交換効率が高くなりますが、同時に装置も大きくなります。