建設時CO2は木造が最小

オイルショック以降、暖冷房や給湯・照明家電など、住宅を使う「運用時」のエネルギー消費を減らす努力が続けられてきました。断熱・気密や高効率設備による省エネ、そして太陽光発電などの再エネ活用が重要なことは、この連載でも繰り返し取り上げてきたとおりです。

さらに近年は脱炭素化の時代ということで、「建設時」も含めた建物寿命トータルでのCO2削減が求められるようになりました。 住宅の建材製造時に排出されるCO2の量を、図3に示しました。

鉄骨造では鉄や鋼板、RC造ではコンクリートが大量のCO2を排出する一方で、木造は圧倒的にCO2排出量が少ないことが分かります。さらに木は成長する際に大気中のCO2を吸収して炭素を固定化する能力があるため、CO2削減に大きな効果が期待できます。

国土交通省は、ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)の上位として、LCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)を推進しています(図4)。

図4 住宅寿命全体のCO₂がマイナスのLCCM住宅
国交省が推進するライフ・サイクル・カーボン・マイナス住宅は、運用時はもちろん建設・廃棄時も含めた建築寿命全体のCO₂を削減するとともに、それを賄えるだけの大容量の太陽光発電を搭載しています。ZEHを超えた高性能住宅であり、そのほとんどは木造です。

運用時はもちろん建設時や廃棄時を含めた建物寿命全体のCO2排出量を計算し、それを賄えるだけの太陽光発電を搭載した住宅です。LCCM住宅では、太陽光発電の容量を通常のZEHの5kWから9kW程度に増やすとともに、建設・廃棄のCO2を減らすために長寿命化や低CO2コンクリートの採用が推奨されています。そしてもちろん、木造が一番有利な構造となっています。

木造は地震が起きても大丈夫?

木造は、脱炭素時代の主役となる構法として期待されています。住宅に限らず大規模な非住宅建築物においても、構造や内装に木材が利用できるように2022年に建築基準法が大きく改正されました。  

このように木造に大きな期待が集まっていますが、地震などの災害には耐えられるのか、心配になるかもしれません。被災地からの報道では、完全に倒壊してしまっている木造住宅を頻繁に見かけますから、不安になるのも無理はありません。

木造は構造計算不要?4号特例の大誤解

木造住宅は少ない部材で自由な間取りに対応できる優れた構法です。一方で、地震に耐えるためには、適切に構造計算を行って必要な強度を確保しなければなりません。耐震設計が必要なのはどんな構造でも当然なのですが、ここに大きな落とし穴がありました。  

家を新築したり増改築をする場合には、建築主事等が法律に適合していることをチェックする「建築確認」が必須です。当然、構造は建築基準法の規定を確保しなければなりません。ところが、2階建て以下で床面積が500㎡以下の木造住宅は、建築確認の際に構造の審査をパスできることになっていました。これが「4号特例」です。

大半の木造戸建ては4号特例の対象ですから、建築確認の際に耐震構造になっているかチェックされていないことになります。鉄骨造・RC造では審査を免除されるのは200㎡以下の平屋だけなので、大概がチェックされているのに比べると大きな違いです。さらに「構造の審査をパスできる」ということを「構造の検討をしなくていい」と誤解している業者がいるらしい…という恐ろしい話もあります。  

幸いにして2025年度から4号特例は大幅に縮小され、ほとんどの住宅で構造が審査されることが決まっています。いずれの構造においても耐震性能がきちんと確保されていれば問題はありません。震災時に倒壊した住宅の隣に、無傷でそのまま居住できる木造住宅もあるのです。本連載の41回目でも触れたように、建築基準法の定める耐震等級1を超えて、できる限り等級3を確保することが望まれます。  

木の弱点は腐朽とシロアリ

4号特例の話を聞いて不安になるかもしれませんが、708年に再建された法隆寺の建物が現在も立派に立っているように、木材は丈夫な素材です。木の主成分はセルロースと呼ばれる高分子で、安定していて分解しにくく、非常に強靭なのです。  

ただし、木は無条件に長持ちするわけではありません。湿った状態で放置されると、セルロースを分解する木材腐朽菌によりボロボロと腐っていってしまいます。さらに、シロアリはひとたび侵入すると蟻道をつくって仲間を呼び込み、家中の木材を食べ尽くしてしまいます(図5)。

木が腐っていたりシロアリに食べ尽くされてしまっては、地震のときにひとたまりもないのは当然です。 木が湿っていると、腐朽したりシロアリがわきやすくなります。これを防ぐには、木を乾燥させることが第一です。現在の住宅の壁体は、内部への雨の侵入を防ぐ「防水」、室内からの湿気の侵入を防ぐ「防湿」、そして壁体内の湿気を外に排出する「通気」を確保できるよう、工夫が施されています。

木は乾燥して木材になる

さらに木材そのものも、あらかじめ十分に乾燥させておく必要があります。切ったばかりの木は、重さの半分以上もの大量の水分を含んでいます(含水率100%以上)。これを、日本農林規格が木材に求める含水率20%以下まで乾燥させることになります。  

乾燥方法は、燃料を燃やして釜の中で乾かす「人工乾燥」と、自然環境の中で太陽と風により乾かす「自然乾燥」に大別されます(図6)。

図6 木はしっかり乾燥させよう。人工乾燥と自然乾燥
日本では依然として未乾燥の木材(グリーン材)が相当量流通していますが、木はしっかり乾燥させないと本来の良さを生かせません。未乾燥材の利用は、施工後の収縮による構造の緩み、壁内結露や腐朽を招きかねません。
人工乾燥は確実ですが木が変質しやすく、燃料も重油焚きだとCO₂排出量が多くなります。自然乾燥は時間はかかりますが、木の自然な色や香りが引き出せ、CO₂排出も抑えられます。

人工乾燥は短い時間で確実に乾燥させられますが、木の色味が変化しやすい傾向があります。燃料も重油だとCO2排出が非常に大きくなるため、最近ではバイオマス燃料の利用が推奨されています。  

自然乾燥は年単位の時間がかかり高価ですが、燃料がいらないのでCO2排出も少なく、木の自然な色味や香りが引き出せる長所があります。現しで見える場所に使うと、空間の魅力が大きく高まります。

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