先週の北海道の地震では、道内全域に渡る大規模な停電が発生しましたが、これがもし冬だったらと考えると、薪ストーブは自立した暖房として、また調理道具として有効なのでは?と考えた人も少なくないのではないでしょうか。

日本では、北米や北欧を中心にいくつものメーカーの、さまざまな機種の薪ストーブが売られています。デザインも能力も、強みも弱みもいろいろで、自分の家には何が良いのか迷いますよね。そこで今回は薪ストーブ日和グループの一員で、「自宅でこれまで20数種類の薪ストーブを実際に使ってきた」という稀有な経験をお持ちのファイヤピット代表 大石守さんに、薪ストーブの特徴や選び方のポイントを教えていただきましょう。


カタログの熱量(カロリー)表示は、アテにならない!?

今までうちのリビングの薪ストーブは、20数回入れ替えています。同じ箱(家)で薪ストーブだけが変わることで、その個性がはっきりわかる。その実感をお客さんの薪ストーブ選びや、薪ストーブを使う中で生まれる日々の疑問に答えることに生かしていきたいと思っているからです。

今までに使ってきた薪ストーブの数々
今までに使ってきた薪ストーブの数々

家を建てて一番最初に付けた薪ストーブは、ダッチウエストのコンベクションヒーターでした。皆さんも参考にすると思いますが、僕らも当時はカタログしか情報源がないので、とりあえず読み込んで、それで熱量(カロリー)やら燃焼時間やらを判断して1台目、2台目…と使っていったんです。

ところが何台か使ったら「あれ?カタログに書いてあることと全然違う?」ってことが起きはじめたんですね。例えば、カタログに書いてある熱量(カロリー)。熱量(カロリー)の数値だけ比較するとさほど変わりない2台のストーブの暖かさが、実際は倍ぐらい違うってことがあるんです。それからカタログ読むのをやめました(笑)。とはいえ参考にはすると思うので、薪ストーブについて知りたいときは、カタログだけでなくさまざまな角度から情報収集することが大事だと思います。

小さいストーブよりも、大きいストーブがオススメの理由

ダンパーの有無や、燃焼方式の違いってどうなんだろうとか、いろいろ試して変えていったんですが、その中で「小さいストーブってどうなのかな?」と思って、しばらくいくつかのメーカーの小さい機種を使ってみました。それで分かったこと。「ストーブは小さくてもいいんだよ」っていう人もいますが、同じ量の薪を焚いた場合、大きいストーブのほうがべらぼうに暖かいです!

大きな薪ストーブなら1回の焚き上げで十分な暖かさが得られるところ、小さな薪ストーブだと2回薪を入れて焚き上げる必要がある。しかも、大きな薪ストーブほどは薪の燃焼効率が良くないので、薪を無駄なく燃やして十分な暖かさを得るためには、家の広さにふさわしいサイズの薪ストーブを選ぶことが大事

薪が燃え上がって消えるっていうのを図で表すと、時間と出力の関係はこう山なりになりますよね(図)。この山の5合目から上に、火が効率よく燃えているオイシイところがあるんです。そして、大きいストーブはその山がデカイんです。小さいストーブだと、この山が小さい。だから、同じ量の薪を焚いた場合、大きいストーブのほうが暖かい。

僕の家はそこそこ広いんですが、以前試しに小さいストーブを設置して焚いてみました。12月末までは「一冬、これで行けるんじゃないか」と思ったんですが、1月になったら寒くて耐えきれず、ダッチウエストのコンベクションヒーターに戻しました。こっちは同じ薪の量でも断然暖かかった。家のサイズにもよりますが、そこそこの広さを暖めるなら、大きめなストーブのほうがいいなあと今は思っています。

薪ストーブ選びでは、「炉内のサイズのバランス」も大事

定番で人気のヨツールの薪ストーブですが、「F400とF500とF600でどれがいいだろう?」と相談を受けることがあります。特にF400とF500だったら、僕はF500をおすすめしています。本体価格の差は70,000円ほどですが、実際の価値としてはそれ以上の差があるんです。F400って、大きさもちょうどいいし値段も手頃なので売れ筋ですが、個人的には「炉内のサイズのバランス」がもうひとつで…。

ヨツールのF500。炉内の横幅×奥行き×高さのバランスがとれていて、薪が無駄なく燃焼しやすい
ヨツールのF500。炉内の横幅×奥行き×高さのバランスがとれていて、薪が無駄なく燃焼しやすい

薪ストーブは、炉内の横幅と奥行きと高さ、このバランスが非常に大事。例えば、モルソーの7110CBは、かなり正方形に近い長方形なんですが、これ、ものすごく炉内のバランスが良くて、薪が無駄なく燃焼しやすいんです。

それに対してヨツールのF400は横幅が長い。そのために両端が薪の燃焼の際に、デッドスポットになってしまうんですね。F400のガラスの両端を曇らせている人が多いのは、上手に焚くのが難しいから。そして、先ほど言ったように大きいストーブのほうが、薪が効率よく焚ける。そんなわけで、F500をおすすめすることが多いです。

今の日本の家には、スカンジナビアンペチカが合う

僕の店の事務所には、レンガでつくったフィンランド製のスカンジナビアンペチカ「メイソンリヒーター」を設置しています。このストーブは、輻射熱が非常に柔らかくて心地いいんです。眠くなってしまうので、事務所に付けたのは失敗だったと思うくらい。1日中一定の温度を保てて、朝起きるとこの場所が一番暖かいですね。ネスターマーティンのストーブ以外は、針葉樹ばかり燃やすとすぐに傷んでしまいますが、このストーブは針葉樹の薪でも大丈夫です!

石積みでつくられたフィンランド製スカンジナビアンペチカ「メイソンリヒーター」
石積みでつくられたフィンランド製スカンジナビアンペチカ「メイソンリヒーター」。輻射熱のやわらかさ、心地よさは抜群

僕が知る限り、薪ストーブが普及しているフィンランドでは、ほぼほぼこのレンガのストーブを使っています。鉄のストーブはとても少ない。ちなみにデンマークのストーブは鉄のもの(デザインは日本で主流の4本脚よりももっとスタイリッシュなもの)が多く、スウェーデンの状況は、フィンランドとデンマークの間ぐらいでしょうか。

北欧諸国に行って思うのは、レンガの炉壁に4本足のストーブって組み合わせは、日本ではメジャーだけど、世界的に見ると今っぽくはない。意匠性は時代とともに移り変わるもの。そこへいくと今は、メイソンリヒーターのように石を積み上げてつくるストーブのほうがわくわくするし、日本の現代の住宅に合っているような気がします。

日本の住宅も最近は北欧並みに断熱性能が上がってきていて、100年くらい持つともいわれています。それを考えると、メイソンリヒーターのような柔らかい輻射熱で包み込んでくれるような「家にあって気持ちのいい暖房」がもっと普及してきていいんじゃないかなと強く感じています。