住まいを快適にしてくれるアイテムの一つにカーペットやラグ、マットといった「布の敷物」があります。メンテナンス性やアレルギーなどを理由に使わない傾向もありますが、やわらかい床面があるとくつろぎの場所が増えますし、床材の保護になる場合もあります。

そこで今回はインテリアコーディネーターの本間純子さんに、住まいでよく使われるカーペット・じゅうたん、ラグ、マットの違いや素材について教えていただきます。

布の敷物の魅力とは?

私たちは家の中で日常的に、床材の硬さや柔らかさ、素材感や温度差などを足裏で感じ取っています。石やタイルのヒンヤリ感、木の床の素材感が好きで、それらのメンテナンス性の良さを理解してはいても、カーペットや畳のような、柔らかな床材から得られるほっとする感触はほかとは代え難いものがあり、大きな魅力です。

カーペット・じゅうたんの歴史と普及の背景

「カーペット」「じゅうたん」と聞くと、なんとなくじゅうたんの方が高級で高価なイメージかもしれません。でも実はこの2つは同じものを指しています。

カーペット・じゅうたんとは、縦糸と横糸の生地に、パイル(紡糸)を結びつけた、厚みと弾力のある敷物です。その起源は紀元前の中央アジアや西アジア。遊牧民が飼っていた羊の毛を材料に織られていて、寒さや湿気から暮らしを守る実用的な道具でした。

生活のシーンや想像の世界、祈りや願いなどを動物や植物、幾何学模様のモチーフに落とし込んでデザインされたじゅうたんは、やがてヨーロッパや中国から世界に広がり、19世紀の産業革命以降は、織り機や化学繊維の登場でさらに多様な敷物がつくられるようになりました。日本には室町時代に中国との勘合貿易によって、もたらされましたが、一般住宅で使われるようになったのは1955年以降のことです。

カーペット・じゅうたん、ラグ、マット。
違いは「敷き方・使い方」

住宅では

  • カーペット・じゅうたん
  • ラグ
  • マット

といった敷物がよく使われますが、これらに厳密な分類区分はありません。「では違いは?」というと、一般的に「敷き方・使い方」によって分けられます。

カーペット・じゅうたんとは?
→ウォールツーウォール(敷き詰め)で「床材」扱い

ピットリビングにブルーのカーペットを敷き詰めた例

床材として見なされ、床全体に敷き込むのは「カーペット」です。インテリア用語では「ウォールツーウォール(敷き詰め)」と呼ばれます。「カーペット」は防音対策として優秀ですし、滑りやズレも気になりません。空間のかたちに合わせてカットできるという利点もあります。

ラグとは?
→ソファやダイニングテーブルの周囲や足元に、部分的に敷くもの

居室の床面よりは小さなサイズで、色柄でアクセントをもたらすインテリアとしての効果も大きい敷物が、一般的に「ラグ」と呼ばれます。敷き方は主に2パターンあります。

中敷き

床面の広範囲ながらも、周囲に床材が見える状態の敷き方を「中敷き」と言います。これは、独立した応接間やダイニングルームなどで使われることが多い敷き方ですね。

部分敷き

ソファの周囲や足元に敷く方法は「部分敷き」と呼ばれます。色柄で空間にアクセントをもたらすインテリアとしての効果も絶大なラグの使い方です。

最近はLDKをひとつながりの大空間にする住宅が多いため、リビングとダイニングをゾーニングする目的でこの「部分敷き」のラグがよく用いられます。そのため、「エリアラグ」「アクセントラグ」とも言われます。

マットとは?
→限られたエリアで使われる小さめサイズの敷物

玄関やキッチン、トイレなどで使われる小さなサイズを「マット」と呼び分けています。

  • 玄関マット → デザインや掃除機のかけやすさ
  • キッチンマット → 水汚れや油汚れへの強さ、洗いやすさ
  • バスマット → 吸水性

など、置く場所によって求められる機能の幅が大きい敷物です。

年中快適な「ウール」が人気。敷物の素材の種類と特徴

床に敷くカーペットやラグは、体に触れている時間が長い、水や汚れから床材を守るなどの特性から、

  • 摩擦に強い
  • 弾力性がある
  • 丈夫で長持ちしやすい
  • 帯電性がある
  • 耐熱性がある
  • 発色が良い
  • 風合いが良い
  • 感触が気持ちいい

など、他のインテリアファブリック以上にさまざまな機能が求められます。このような条件を満たしながら、つくられ続けてきたカーペット・ラグの歴史をたどると、ウール(羊毛)の存在に目が行きます。インテリアファブリックの中で、カーテンや椅子張り地はほとんどが化学繊維に置き換わりましたが、ラグやカーペットはウールが根強い人気です。

なぜ「ウール」が人気なのか?

天然素材のウール(羊毛)は、実はカーペットやラグに求められる複数の機能を高いレベルで満たす素材です。

  1. 撥水性
    羊毛にはもともと油分があるため、撥水性に優れます(糸が脱脂されているとその機能は弱いですが…)。飲み物などをこぼしても、すぐに拭き取ればきれいになりやすい素材です。

  2. 調湿性
    ウールには空気中の湿度が高いと湿気を吸収し、乾燥すると内部の水分を放出する調湿機能があります。夏は触れた皮膚表面の水分も吸着するので、不快なベタベタ感がなく、触れたときの手や足裏が涼しく感じられます。

  3. 保温性
    熱伝導率が低いのも特徴。冬は繊維内に暖かい空気が蓄積されて、長く暖かさが感じられます。

  4. 弾力性
    弾力性が高く、足裏の感触が気持ちいいのもウールならでは。家具などを置いて凹んでしまっても、蒸気アイロンで復元することができます。

  5. 清掃性
    天然素材のウールは静電気が起きにくいのも魅力。掃除機がかけやすく、清掃性が良いのもメリットです。購入後しばらくの間は遊び毛が出やすいので、丁寧に掃除機をかけましょう。余談ですが、羊の毛特有の匂いが強いものもあります。長く使っていると薄れてきます。

  6. 耐久性
    椅子やテーブルによる静的な荷重だけでなく、キャスター付きワゴンなどの動きや日々の歩行によるヘタリにも強い性質があります。摩耗しにくい繊維ですが、合成繊維よりはスレに弱いため、ナイロンなどを混紡することがあります。

  7. 難燃性
    「繊維は燃えやすい」と思われがちですが、ウールは「燃えにくい繊維」です。それは水分を多く含んでいるのが理由。ゆっくりチリチリと燃え始めますが、火元を取り除くと燃え広がることはありません。
総合的に見て機能性に富んだウールのじゅうたん

石油由来の合成繊維(化学繊維)のBCFナイロン、ポリエステル、アクリルなどのラグは、静電気が起きやすい、吸湿性に乏しい、製造時の環境負荷が大きいなどのデメリットはありますが、強度があり、発色が良く比較的低価格で、大量生産で安定的に販売できるなど、ユーザーメリットも多いため一般化しています。

ただ、このように好条件がそろっていても、最近は「安価なラグを買い替えながら使う」から「多少高価でも良質なものをお手入れしながら長く使う」へ、購入者の価値観がシフトしているように見えます。SDGsの「限りある資源を大切に使う」が暮らしに浸透し、ラグの選び方にも変化が見られます。

購入の際には、使う場所や目的に応じて、価格・機能・デザインなどを総合的に検討したいところ。以下にウール以外でよくあるカーペットやラグの素材の特徴をまとめましたので、参考にしてみてくださいね。 

 素材の種類特長・メリットデメリット
合成繊維アクリル

ウールに近い風合いで、発色性がよい

柔らかいため弾力性、復元力に乏しい
ナイロン耐久性、耐摩耗性に優れ、汚れにも強い熱に弱く、日光による変色が起こりやすい
ポリエステルコットンに似た風合いで熱や日光に強い。乾きが早い吸湿性がない
ポリプロピレン軽いが強度があり、濡れても乾きやすい吸湿性がなく、染色性も良くない
天然繊維コットン吸水性や肌触りが良く、静電気が起こりにくい洗うと縮みやすくて、シワにもなりやすい
吸湿性や通気性が良い。さらっとした感触で、使い込むほどやわらかくなる湿度によって収縮する
ジュートカーペットの基布として使われる素材で、耐久性が高く感触がさらっとしている縮みやすくて湿気がたまりやすい。独特の匂いがある場合も

カーペットやラグがあると、リラックスして過ごせる場所が増えますし、他の建材にはない素材感や色柄で、お部屋の雰囲気も素敵になります。

幼いお子さんやペットが汚してしまうのが不安な方は、取り替えがしやすいタイルカーペットを用いるのも一案。家づくりや模様替えの際には、カーペットやラグの採用を考えてみてはいかがでしょうか。