冷房方式はいろいろある 長所と短所をチェック

家中を快適にムラなく冷房する方法は、数多く提案されています(図6)。最も簡便なのは、「①壁掛けエアコンをロフトに設置」でしょう。普通の壁掛けエアコンを上階のロフトに入れて、冷気が各部屋に自然と流れ込むのを期待する方式です。シンプル・低コストで開放的なプランに向いていますが、個室の扉を閉めると冷気が入らなくなるなどの限界があります。

・簡便な方式で低コスト
・通常の壁掛けエアコンが利用できる
・ダクトなどを通す必要がない
・開放的なプランに向いている
・扉を閉めると個室に冷気が届かない
・各室での制御ができない
・ロフト天井の結露防止に注意

確実に冷気を各部屋に届けるには、「②ダクト式エアコン」が最も向いています。専用のダクト式エアコンの冷気を断熱ダクト経由で各部屋の吹き出し口に送り込むため、閉鎖的なプランであっても家中を確実に冷房をすることができます。ただし、システムは複雑で導入コストは高くなります。

・本格的なシステムで高コスト
・専用のダクト式エアコンを用いる
・本体やダクトのスペースが必要
・閉鎖的なプランでも確実に冷房可能
・扉を閉めていても個室に冷気が届く
・各室の風量をダンパー開度で調整可
・本体やダクトは断熱のため結露しにくい

一番の冷房方式はある?

①と②の折衷案といえるのが、③の「壁掛けエアコンで小屋裏から冷房」です。小屋裏の壁掛けエアコンでエアコン室全体を冷気で満たし、そこからパイプファンなどで各部屋に冷気を送り込む方式です。比較的簡便で冷気を送り込む能力もあり、近年普及しているやり方です。ただし、エアコン室がかなり低温になるので、結露やカビを防止する工夫が重要です。

・①と②の中間の比較的簡便な方式
・通常の壁掛けエアコンが利用できる
・エアコン室やダクトのスペースが必要
・閉鎖的なプランでも冷房可能
・扉を閉めていても個室に冷気が届く
・各室への風量をファン制御で調整可
・エアコン室が低温で結露防止が重要

図6 全館空調の長所と短所を比較して上手に冷房方式を選ぼう
最近の新築住宅で普及している3つの全館空調の方式を整理してみました。それぞれの方式ごとに長所と短所があり、完璧な冷房方式というものは(筆者の知る限り)ありません。住宅のプランやコストのバランスをよく考えて、適切な方式を選ぶ必要があります。

それでは一体、どの冷房方式が一番いいのでしょうか?筆者もよく質問されますが、正直言って答えようがありません。各方式の長所と短所を比較しながら、向いている方式を選ぶことになります。また、全館空調では、冷房時の結露防止のため、外気が侵入しないよう気密の確保も重要です。建物性能の確保と合わせ、長所をのばし短所を減らす設計・施工の工夫が欠かせないのです。


今回は夏がどんどん暑くなる中で、冷房を効かせるためには遮熱ではなく断熱が大事であることを確認しました。そして、快適な冷房を実現するために「人に冷気を当てず」に「家中をムラなく」空調する3つの方式を比較しました。建物性能と冷房計画がしっかり組み合わさった健康・快適な室内環境が、学校や住宅に限らずすべての建物に普及することを期待しましょう。

 

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