断熱は熱のすべての移動を絶ち表と裏に温度差をつくり出す

しかし、遮熱は日射熱をカットする効果しかないので、室内を外気温より低くすることは不可能です。屋上緑化された屋根の下の断熱されていない教室でも、室内表面温度が35℃以上と非常に高温になってしまっています。いまや真夏日はもとより猛暑日が頻発し、体温より高温という日も当たり前。日射熱に限らずすべての熱侵入をカットする「断熱」が絶対必要な時代になったのです。  

屋根天井や壁の隙間に断熱材を詰めることで、その部位の熱移動をすべてカットした上で、表と裏に大きな温度差をつくり出すことができます(図4)。

図4 文科省も断熱改修を熱烈アピール。断熱の力が夏も不可欠に
屋根や壁の中に断熱材を詰めることで、その部位を通過する熱をすべてカットでき、表と裏に大きな温度差をつくり出すことができます。この表と裏に温度差をつくり出す力は、冬だけでなく夏にも不可欠。文科省も断熱改修の重要性を強調しており、特に予防改修として屋根断熱の早期実施をアピールしています。

この温度差をつくり出す断熱の力は、従来はもっぱら外が寒い冬に室内を暖かく保つために使われてきましたが、いまや外が暑い夏に室内を涼しく保つためにも不可欠となっているのです。  

文部科学省が今年の3月に公開した「学校施設のZEB化の手引き」では、「まずは断熱改修から」ということで、予防改修として特に屋根断熱を緊急で実施すべきとされています。今後さらに暑さが厳しくなることが予想される中、昔の常識は通用しないどころか、人の命を危険にさらしかねません。「冷房を効かせるためには断熱が最優先」という、新しい常識にアップデートして、直ちに対策を進める必要があるのです。

冷房は気持ちが悪い?

学校に限らず、住宅でも断熱不足で夏に冷房が効かないことは珍しくありません。特に、上の階が高温となる場合は、屋根・天井の断熱強化を優先して行うのがオススメです。ただ、家で冷房を使うことは「電気代がもったいない」「気持ちが悪くて不快」と感じる人が多く、特に高齢の人はエアコンをつけることに抵抗を感じがちです。

1つ目の電気代の問題ですが、近年では太陽光発電が普及し、夏の昼間にバリバリ発電してくれるため、冷房で無理に節電する必要はなくなりました。そういえば、昔は多かった「節電のためにエアコンを我慢」というアピールも聞かなくなりましたよね。さらに、屋根に太陽光発電パネルを載せれば、まったく気兼ねなく冷房を使えるのでオススメです。  

2つ目の「気持ちが悪くて不快」ですが、これは各部屋に壁掛けエアコンを設置して、必要なときだけONにする「部分間欠」運転で使っていることが主な原因です。スイッチが入れられたエアコンは、暑い部屋を少しでも早く冷却しようと勢いよく冷たい空気を吹き出しますが、その冷気が体に直接当たったり足元にたまったりするので、強く不快に感じるためです(図5)。

図5 冷房が不快な原因は冷気が直接体に当たるから
冷房は熱中症の予防に最も効果的で、必要な電気も太陽光発電で容易に賄うことができます。一方で、不快だから冷房を使いたくない、という人も少なくありません。日本では、暑いとき・暑い場所だけ空調する「部分間欠」運転で、壁掛けエアコンによりスポットで冷房するのが一般的なこともあり、低温の冷気が直接体に当たったり、足元にたまることが大きな不快の原因になっているのです。

人に冷気を当てずムラなく冷房する方法

快適な冷房を実現するには、まず「全館連続」運転で家中を均等に空調することが基本となります。特に不快感を抑えるために、なるべく人に冷気を直接当てないことが重要です。また家の中で温度差が大きいのも困りますから、家中ムラなく冷房が効いてほしいもの。

しかし、「人に冷気を当てない」ことと「家中ムラなく」は、簡単には両立しません。人に冷気を当てまいとすると空気を動かせないので温度ムラが大きくなります。逆にムラをなくそうと空気を大きく動かすと、人に冷気が当たってしまいます。この矛盾する2つをどのようにバランスよくさせるかが、冷房計画のカギなのです。

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