全国的には暖冷房をすべてエアコンで賄う住宅も多いですが、北海道では今も多くの家で「冷房」が主目的。本州ほどエアコンが身近ではなかったこともあり、「新築に際して正しい機種選びや使い方が分からない」という声も聞かれます。

そこで今回は、高性能仕様の自邸に冷房用エアコンを後付けした経験のある建築家の三浦正博さんに、「高性能住宅における上手な壁掛けエアコンの選び方・使い方」を教えていただきました。


広さが30坪以下の高性能住宅なら
「6畳用」で十分冷やせる

エアコンのカタログには、部屋の広さに対してどの程度の冷房能力の機種が必要かユーザーが選びやすいように「◯畳程度」という目安が書かれています。例えば自宅のLDKの広さが20畳だったら、「20畳程度(6.3kW)が目安の機種を選ぶ必要がある」と思いますよね。

でも実はこの目安は「無断熱住宅」が基準。断熱・気密性に優れる現在の高性能住宅だとオーバースペックです。

間取りや立地の環境などにもよりますが、これまでの私の経験では、おおむね床面積30坪以下の高性能住宅なら、高い位置に付けた6畳程度(2.2kW)の壁掛けエアコン1台で十分に冷房は賄えます。うちは約23坪ですが、6畳用で十分に機能しています。

新築からしばらくして後付けしたエアコンは6畳用。広さ約23坪のコンパクトな住宅で、壁に囲われた個室が少ない間取りのため、三浦さん宅はこれ1台で十分に冷房できるという
新築からしばらくして後付けしたエアコンは6畳用。広さ約23坪のコンパクトな住宅で、壁に囲われた個室が少ない間取りのため、三浦さん宅はこれ1台で十分に冷房できるという

暖房機器を検討する際には必ず「暖房負荷計算」をしますが、冷房についても同様です。依頼先の建築会社に「冷房負荷計算」をしてもらって、ご自宅の設計にふさわしいエアコンの機種を決めるといいでしょう。

冷房用エアコンは
「広い面積に冷気が行き渡る高所」
に設置するのが理想

冷気の動き方は、暖気のそれとだいぶ違います。暖気は軽くてふわふわと広がりますが、冷気は重くてゆっくりと床の上をはうように動くので、「暖気よりもコントロールが難しい」という特性があります。

そのため冷房効果を高めるには、エアコンをなるべく「高所」で「複数の部屋へ冷気が流れやすいオープンな場所」に取り付けるといいでしょう。

三浦さんの自邸は、空間同士が緩やかにつながっていて、吹き抜けの上部に設置したエアコンの冷気が各部屋へ行き渡りやすい設計
三浦さんの自邸は、空間同士が緩やかにつながっていて、吹き抜けの上部に設置したエアコンの冷気が各部屋へ行き渡りやすい設計

2階に取り付けたエアコンで1階のLDKまで冷房したい場合は、冷気の通り道になる上下階の床や壁にスリットを入れるなどして、冷気がスムーズに下りていくよう工夫が必要です。そうしないと、2階の床だけが冷えてしまいます。冷気が思ったように他の部屋へ流れない場合は、床面に滞った冷気をサーキュレーターで強制的に動かしましょう。

とはいえ、壁掛けエアコン単体で夏場の家全体を快適にするのは限界があります。セントラル空調にしないまでも、冷房まで考慮した換気空調計画で、空気の流れまでデザインして設計されていることが、一年を通して快適に過ごすためには重要です。

設定温度が高めでも
「湿度」が低ければ涼しく感じる

高性能住宅で難しいのが「湿度」のコントロールです。冬は暖房による「過乾燥」が問題になる一方で、夏は「高湿度」が課題です。「高湿度」は不快感に直結しますし、カビなどの実害も発生します。

湿度が上がると体感温度も上がります。例えば室温が30℃で湿度50%と室温が27℃で湿度70%だと、室温の低い後者のほうが蒸し暑く感じられるでしょう。

最近のエアコンは「高性能な除湿機能」を売りにした機種が増えていますが、基本的にエアコン冷房は除湿です。外のパイプからぽたぽた水が出てきますよね。暖かい空気を冷やすと結露するため、その水分をドレンで外へ出している状態で、それがすなわち除湿です。

エアコンの除湿効果を高めるためには「室内をゆっくりと冷やす」のがポイント。エアコンは設定温度まで下がると、室温が上がらない限りただ送風するだけで冷房機能がOFFになります。そうなると除湿されなくなるので、「温度を下げる」よりも「湿度を下げる」ことを意識して、「少風量で運転」するのが冷房による快適さを得るためには効果的です。

室内をゆっくりと冷やすことで湿度は下がりやすくなる。冷房効果を高めるには、調湿性の高い内装材を使うのも一案
室内をゆっくりと冷やすことで湿度は下がりやすくなる。冷房効果を高めるには、調湿性の高い内装材を使うのも一案

エアコン設置の注意点とは?

小屋裏・ロフトエアコンは
空気を回す工夫が必須

サーキュレーターを使うのも手

小屋裏やロフトにエアコンを設置して、冷気を階下へ流す方法を採用する建築会社もありますが、空気の流れが悪いと、ロフトや小屋裏だけが冷えて床が結露するなどのトラブルも。できるだけ高い位置にエアコンの吸気口を確保するとともに、「空間を閉じない」「ファンをつける」など、空気を効率的に回す工夫が欠かせません。

意匠性の優先による
「ショートサーキット」に注意

本体は目隠しされていても、エアコンの吹き出し口が開いていれば安心

「ショートサーキット」とは、エアコンから吹き出された空気をすぐに吸い込んでしまう状態のこと。ルーバーなどで本体を囲うなどした際に発生しやすく、室温は高いのにエアコンが冷えたと錯覚して運転が停止することがあります。効率が悪く冷房効果も見込めなくなるため、温度センサーが正常に反応する環境での設置が大切です。

夏は窓をあえて閉め切って
日射や外の暖気の流入を防ぐ

余談になりますが、暑い時期の日中に窓を開けると、じめっとした暖かい空気が室内に入ってきてこもり、湿度が上がってしまいます。高性能住宅では、夜に窓を開けて涼しい空気を取り込み、日中は窓を閉め切ってなるべく日射や外の暖気を入れないようにすると、快適さを保ちやすいですね。

三浦 正博 Miura Masahiro 1970年秋田県生まれ。宮城県を拠点に、パッシブデザインを取り入れた住宅や店舗等の設計を手がけている。設計島建築事務所主宰

知っておきたい!エアコン設置の豆知識

電気代を抑えながら安心してエアコンを使うには、本体の機能以外にも留意すべきことがあります。知っておきたいエアコン設置の豆知識を2つご紹介します。

省エネ・省コストな
「室外機」の設置・扱い方

暖房としても使う寒冷地エアコンの室外機はフード付きが標準仕様。工事会社によって施工方法は異なるが、雪対策としては、地面から十分な高さを確保して屋根付きの架台を用いたこのような設置方法が理想的
暖房としても使う寒冷地エアコンの室外機はフード付きが標準仕様。工事会社によって施工方法は異なるが、雪対策としては、地面から十分な高さを確保して屋根付きの架台を用いたこのような設置方法が理想的

エアコン本体とセットの「室外機」の設置環境や状態も、エアコンのパフォーマンスに影響します。エアコンは室内と外との熱交換で暖冷房を行うので、その温度差が少ないほど熱効率が良く、省エネ・省コストです。理想としては、夏は直射日光が当たる時間が短く、冬は強い北風にさらされない環境が設置場所として適しています。

北海道では雪対策も必要です。まず風向きを考慮して、雪庇の影響が少ない場所を選ぶこと。また架台などを用いて地面から1mのくらいの高さに設置すると、室外機が雪に埋もれて起こるトラブルを避けられます。

大雪の際には室外機の様子を確認し、必要に応じて周囲を雪かきします。「エアコンは夏の冷房用で、冬は使わない」という方は、室外機をカバーで覆ってブレーカーを落としておくと、冬場の不意なリモコンの誤操作などによるエアコンの故障リスクを防げます。

エアコンを新設する工事は
建築に詳しい会社に依頼するのが吉

新たにエアコンを取り付けるためには、建物に穴を開ける必要があります。高性能住宅では特に穴を開ける場所やその処理の仕方が悪いと、凍害が起きたり、断熱効果が下がったり、性能に悪影響が出る恐れがあるため、建築が分かっている業者に設置施工を依頼することが重要です。

新築に際し「今はいらないけれど、将来的に取り付けるかも」という場合は、あらかじめ配管用の穴だけ通し、エアコン専用のコンセントを取り付けておくと安心でしょう。

<取材協力:(株)エコテック>


「自宅の住宅性能に合ったエアコン」を選び、正しく設置することは、省エネ・省コストにつながります。新築やリノベーション時は、部屋の広さとカタログの表記だけで判断せず、断熱・気密性能や間取りの特徴、エアコンの使い方などさまざまな視点を考慮して機種を選び、毎夏を快適に過ごしたいですね。

(文/Replan編集部)