近年の地球温暖化に対応してQPEXの気象データを変更
東北大震災の前年、2010年はこの10年で最も暑い年だと言われてきました。そのため、震災と福島原発事故が起きた2011年の夏は、電力不足を懸念して全国的に計画停電が実施されました。しかし、昨年(2023年)はそれよりはるかに猛暑となりましたが、太陽光発電の拡大などによって電力はギリギリ足りたようです。そして、その傾向は今冬まで続いています。
QPEXでは、全国840地点ほどの気象データを使って、建設地に近い気象データによる暖冷房エネルギーを計算しています。使っているのは、拡張アメダス気象データと呼ばれる標準気象データです。天気予報などでよく出てくる平年値は20~30年の平均値ですが、標準気象データは実際の毎日の気象データを、10年間の実際の気象データから選んでつなぎ合わせ、結果として平均的な一年間の気象データとして作成されたものです。建築の空調負荷計算などに使われます。
現在のQPEXでは、2001~2010年の気象データに基づく2010年版標準気象データを使っています。これを、2011~2020年の2020年版気象データに更新する作業を進めています。
図2は、2010年版と2020年版の標準気象データから算出した、暖房デグリーデイ(DD18−18)と冷房デグリーデイ(DD27−27)を代表的な都市について比較したグラフです。
暖房の方は1年間で計算しましたが、冷房は6~9月の122日間で集計しています。DD18−18は全国各地で数%減少し、DD27−27はもっと大きく増加しています。このグラフに、2023年の1月1日~12月31日の気象データを集計し付け加えてみました。
2010年版と2020年版のデータの比較は10年間で起こった変化ですが、2023年データはさらに大きく変化しています。特に猛暑ということから冷房DD27−27の増加は著しいものがあります。特に日本海側の地点や東北、北海道の増加は極端です。これが昨年だけの異常値なのか、これから10年の気象データとして続くのかは分かりませんが、背筋の寒いデータではあります。
札幌の気象データに異変~3地域になりそう
Q1.0住宅では、国の気象区分とは別に、独自に気象区分を設定しています。理由は、国の地域区分がDD18−18だけで、各地点の日射量は考慮されていません。一方、Q1.0住宅は暖房エネルギーでレベルを設定していますから、暖房エネルギーに大きく影響を及ぼす日射量を考慮せざるを得ないわけです。
図3は2020年版の標準気象データに基づくDD18−18と南鉛直面の日射量を軸にして1〜3地域の各地点をプロットしたものです。
札幌が2地域と3地域の境界にあり、普通に作業すれば、札幌、室蘭、函館が3地域になりそうな状況でした。2010年のときから札幌は3地域との境界に近い位置にあったのですが、今回かなり近づいてしまいました。
この原因は大都市のヒートアイランドと思われます。札幌の気象台が都心部にあり、住宅が多く建設される郊外の気象データとかけ離れたものになっていると思われます。北海道の代表的な地点として使われる札幌ですが、これからは江別か石狩に変更する必要がありそうです。東京でも同じことが起こっていて、東京の気象庁があるのが大手町で、ここのデータは異常で、私たちはアメダス観測点の練馬を東京の代わりに使っています。
今回は札幌を2地域、室蘭、函館は3地域としましたが、10年後の2030年版気象データはどうなるのでしょうか。