上手な収納計画には、抑えておくべき考え方の基本があります。注文住宅での造作収納を検討する際にも役立つ収納のポイントを、インテリアコーディネーターの本間純子さんに解説いただきます。
「良い収納」とは、
「使ったものをもとに戻す」が自然にできる収納
例えば、昼間に雑誌を買ってきたとします。リビングに使いやすい本棚があれば、一旦はそこにしまい、夜のリラックスタイムに目を通し、寝る前にまた本棚へ戻す、という動きが生まれます。テーブルの上に本が積み重なっていくことはありません。
「必要に応じて取り出し、出番を終えたらしまう」。このスムーズな動線が、すっきりと片付いた住空間につながる理想的な動きです。
ところが、
- 「本棚が使いにくい」=収納の使い勝手が良くない
- 「本棚に空きスペースがない」=物がいっぱいで入らない
- 「本棚が読書場所から離れたところにある」=必要な場所に必要な収納がない
といった状況になると、たちまち部屋は散らかり始めます。
収納の基本は「使った物を元に戻す」こと。つまり片付けやすい「良い収納」とは、「使ったものをもとに戻す」が自然にできる収納、と言えるでしょう。では「良い収納」をつくるためには、どのようなことに注意すれば良いのでしょうか。
【良い収納のキーポイント. 1】
「取り出しやすさ」と「しまいやすさ」
たとえリビングに本棚があっても、すでに棚が本でぎっちり詰まっていたら、しまうことを諦めて、手近なカウンターやテーブルの上に置きっぱなしにすることになります。こういったちょっとした不便が、片付かない家への第一歩です!
「良い収納」に必要な一つめのキーポイント。それは「取り出しやすさ」と「しまいやすさ」です。物や道具の使用頻度に応じて「オープン収納」と「クローズド収納」を使い分けることで「良い収納」を実現できます。
使用頻度の高いもの →「オープン収納」を活用
日常的によく使うものは「オープン収納」を活用するのがおすすめ。「オープン収納」の特徴は何よりも「取り出しやすくて、しまいやすい」こと。キッチンの収納を例に考えてみましょう。
例えばキッチンバサミが目の前のフックに掛かっていたり、菜箸などと一緒にツールスタンドに入っていると、料理中でも素早く使って戻せます。「置き場所・戻す場所が一目瞭然」ということも、収納ではとても重要です。
ただしオープンな分、汚れやホコリが付きやすく、見た目が煩雑になりがちなので、見え方が気になる場合は、置くものや道具の色・テイストをそろえたり、人の目につきにくい置き場所を検討したりして工夫すると良いでしょう。
使用頻度の低いもの →「クローズド収納」を活用
キッチンバサミの定位置が戸棚や引き出しの中の場合、取り出すには扉や引き出しを開ける必要があり、しまうときにも同じ動作をします。
扉を開ける+閉める=2アクション。道具を取り出すために必要なこの「アクション数(手数)」が多いほど、物の出し入れは面倒になりやすく、場合によっては片付け習慣のハードルにもなります。またクローズド収納は、物や道具が外から見えないため、物の居場所や量・数が把握しにくいという片付け面のデメリットがあります。
一方で、メリットもあります。それは、物や道具がホコリや汚れにさらされにくく、収納の仕方が少し煩雑でも隠せること。
このような特徴から、クローズド収納は「使用頻度はあまり高くないもの」の収納により向いています。ただ「片付けが苦手で、とにかく外から中が見えないようにしたい」という方もいるでしょう。その場合は、アクションをできるだけ少なく容易にする収納計画が、「良い収納」のキーポイントになります。
引き出しや収納扉の開閉を妨げる物の置き方はNG
引き出しは「引き出す分だけ前面にスペースがある」、収納扉は「ストレスなく扉が開閉できる」が、取り出しやすさ・しまいやすさの基本です。
もしも収納扉の前に物があると、それを避ける1アクションが加わり、出し入れがおっくうになります。引き出しや収納扉の開閉を妨げるように物を置くのはNGです。
【良い収納のキーポイント. 2】
場所や物に合った寸法
奥行き:実はこれが使いやすさの要!
収納の場所や入れておきたい物に合った寸法も、「良い収納」をつくる重要なファクターです。中でも特に重要なのは「奥行き」です。
「高さ」は可動棚にすれば融通がききますし、「幅」は家の間取りと収納の位置関係から、ある程度決まってきます。ですが「奥行き」は、プランニング時にそれなりに自由度があり、収納としての使い勝手にもかなり影響が出ます。
「手前の物を取り出さないと、奥の物が取り出せない」。この状況は、先に触れた収納の「アクション数」を余計に増やすことになります。奥行きが深い収納は、たくさんの物が入る反面、小さな物の収納には向いていません。
収納の奥行き寸法と物のサイズには相性があります。できるだけ二重三重に物を置かないことも、「良い収納」の基本です。
収納計画に役立つ、造作棚の奥行き寸法の目安
奥行き | 収納するもの | 解説 |
75〜80㎝ | ・寝具 ・節句飾り など | 一般的な「押入れ」の奥行き寸法。寝具以外の収納のための奥行きの深い引き出しやキャスター付きの衣装ケースを組み合わせると、奥行きを有効に使える。 |
55〜60㎝ | ・ハンガーにかけた衣類 ・チェスト ・スーツケース など | 一般的な「クローゼット」の奥行き寸法。これはチェストの奥行き寸法で、スーツケースも基本的にはこの寸法に収まる。 |
45㎝ | ・畳んだ衣類 ・畳んだタオル など | 一般的な「整理ダンス」や「チェスト」の奥行き寸法。洋服を畳んで収納するのに必要な奥行きで、バッグや帽子なども同様。 |
40㎝ | ・靴、サンダル ・食器、調理器具 など | 履物を入れる玄関収納棚の奥行きは、40㎝が一般的。 キッチンの吊り戸棚や食器棚も基本は同様(カウンタートップの奥行きよりも25㎝ほどセットバック)。食器はディナープレートでも直径は30㎝未満のため、ほとんどの食器は収納できる。小ぶりな食器用に奥行き20㎝以下で棚をつくることも。引き出しの場合は、奥行きが60㎝あっても、使い勝手に影響しない。 |
30㎝ | ・書籍 ・雑誌 ・書類 など | 書籍や雑誌、書類は、30㎝以内でだいたいは収納できる。文庫本、コミック、新書、画集や写真集はそれぞれサイズが特有なので、冊数が多い場合は専用の本棚を設けるのがおすすめ。少々贅沢なようにも思えるが、使い勝手も見た目も良く、高い満足度が得られやすい。 |
高さ:「無理せず手が届く範囲」が基本
身長によって使い勝手の良い高さは異なりますが、「取り出しやすく、しまいやすい」を重視すると、「無理せず手が届く範囲」につくるのが日常収納の基本です。
引き出しが使えるのは、床から120㎝程度
引き出しが高い位置にあると、中に入っているものが見えません。身長にもよりますが、引き出しを使う場合は「床から120㎝くらい」の範囲にとどめましょう。120㎝より上部は棚板にするのが一般的。収納するものの高さに合わせて棚板の位置を調整できる可動棚にすると収納力がアップします。
重いものを置く高さは「腰高」が目安
重い物や大きな物は「腰の高さ」ぐらいに置きましょう。低いところにあると、かがむ必要がある分、持ち上げるときに腰に負担がかかります。あまり高いところに置くと、物を下ろすときも、地震のときも危険です。
「幅」:入れるものから収納できる量・数を類推
収納の棚板の間口(幅)や、クローゼット内のポールの長さから、そこに収納できる物の量(ボリューム)が類推できます。持っている靴や衣類、本などの数を細かく調べるのは大変な作業ですが、「良い収納」をつくるためにはとても重要な手間です。「クローゼットをつくったけど、入れる予定だった衣類が収納しきれない…」なんて後悔は、避けたいですよね。
手っ取り早いのは、今使っているの収納棚の幅や、クローゼットのポールの長さをしっかりと測ること。現状より、どの程度大きいか小さいかで判断できる部分もあるでしょう。「新しい収納スペースのボリューム感」をできるだけ正しく把握し、ゆとりある収納計画を立てましょう。
【良い収納のキーポイント. 3】
「納戸」や「物置」の活用
「いろんなものを、まとめて置いておける場所を確保すること」。これも実は、良い収納づくりのポイントです。
「取り出しやすく、しまいやすい」を第一に考えると、物や道具はそれを使う空間に収納するのが最も理にかなっていますが、例えば、
- 雛人形・節句飾り
- 扇風機
- 小型の暖房機器
- 加湿器
- 来客用寝具
- 水や食料など非常時のストック用品
- 着物
- 冠婚葬祭用の衣類や備品
など、季節性や非日常性が高く、1年に1度程度しか出し入れしないものは、日用品と切り離して収納を計画するのも一案です。
最近の間取りでは省かれることが多い「納戸」は、かつては、衣類を含めたさまざまな物の収納空間として機能していました。いわゆる住まいのバックヤードです。機会がなければ使わない物や、特定の空間とのつながりが乏しい物の保管場所としてかなり重宝します。
私が提案する「ウォークインクローゼット+納戸」収納
参考までに、あるととても便利な大きな収納部屋の設計例をご紹介します。必要な広さは約5帖ほど。衣類から季節用品まで、さまざまなものをまとめて機能的に収納できるアイデアです。
こちらの記事で詳しく解説していますので、ぜひ併せて読んでみてくださいね。
▶使いやすさのポイントは?クローゼット収納の基本と上手な使い方 |
とはいえ、現在の住宅事情では、納戸や物置に割くスペースを取れないケースも多く見られます。その場合は、ウォークインクローゼットや玄関土間収納などの一部に「納戸」や「物置」の機能を持たせ、使用頻度が極端に低い持ち物の指定席にするのも一つの方法です。
「物の所有」に対する考え方は、一人ひとり違います。家族の中ですら、「日常使いの食器はサイズ違いで一種類ずつあれば十分」、「器が好きで、季節や食材、料理によって使い分けたい」と、異なる意見がぶつかることもあるでしょう。
趣味や価値観に正解はありませんし、快適だと思える暮らしの実現に必要な物量は、個々に異なります。ただ、せっかく「良い収納」をつくっても、収納量を超えて物が増えれば、ゆとりを持ってつくったはずの収納ですら、あっという間にいっぱいになってしまいます。
「良い収納」を実現できるかどうかは、最終的には「暮らし方」の問題になります。「処分」は収納スペースを確保するために必要な手段の一つ。リユースやリサイクルを取り入れながら物の所有の仕方を意識し、心も収納スペースも、ゆとりも維持したいところです。