日々当たり前の家事の一つとして行っている「洗濯」ですが、改めて見直すと、いくつもの細かいプロセスで成り立っていることが分かります。そこで今回はインテリアコーディネーターの本間純子さんに、「洗濯」のストレスを少なくする「ランドリールーム」の設計のポイントを解説していただきます。
「洗濯」は「衣類のメンテナンス」
「衣・食・住」は私たちの生活の基本ですが、その維持には日々のメンテナンスが欠かせません。「洗濯」は「衣類のメンテナンス」のひとつ。家族が多ければ、その分作業量も多く時間もかかります。特に北国の冬の洗濯では室内干しが必須なので、そのスペースも確保したいところです。毎日の洗濯をスムーズに行える「ランドリールーム」について考えてみましょう。
洗濯のプロセスごとに考える
設計・設備計画のポイント
STEP① 衣類をランドリーボックスに入れる
着替えたものや、入浴時に脱いだ衣類を入れておくランドリーボックス(脱衣カゴ)は洗濯までの仮置きスペースで、一般的には洗濯機の近くに置かれています。
大きさは家族の人数によってさまざまですが、以前見た「脱衣室のベンチチェストをランドリーボックスとして活用した例」は、空間がすっきりとして心地よく、とてもスマートなアイデアだと思いました。
脱衣スペースが2階、洗濯室が1階と、上下階に分かれている住宅では「ランドリーシューター」をつける方法があります。これは、上下階を太めの煙突のようなものでつなぎ、2階から落とし入れた洗濯物を、1階の脱衣カゴで受ける仕組みです。間取りの工夫が必要ですが、洗濯物を持って階段を下りる手間と安全性を考慮した、なかなかの優れものです。
STEP② 洗濯機で洗う
●洗濯機は「縦型」?「ドラム式」?
使う洗濯機が「縦型」か「ドラム式」かで、洗濯機を置く際に注意するポイントが異なります。特に注意が必要なのが「ドラム式」です。
- 搬入経路の幅を確認
「縦型」よりも「ドラム式」のほうが総じてサイズが大きいため、→廊下のコーナーを曲がれるか
→ランドリールームの入り口を通れるか確認しておきましょう。
- 扉の吊り元を確認
ドラム式の扉には、「右吊り元」と「左吊り元」があります。洗濯機のすぐ横が壁の場合に、「扉が開ききらずに洗濯物が入れにくい…」という悲しい状態を避けられるよう、扉の吊り元を確認しましょう。 - 作業スペースが十分か確認
「ドラム式」は扉が手前に開くため、洗濯機の前面のスペースにゆとりを持たせる必要があります。→作業する人の位置が確保できるか
→洗濯カゴや洗濯物を持って動くスペースがあるかプランニングの時点で寸法を確認しておきましょう。
・洗濯機前はW800㎜は確保したいところ
・防水パンのサイズも要確認
・高さ、奥行き、扉を開いたときの寸法を要確認
・扉が開く方向も確認
・洗濯機前はW800㎜は確保したいところ
・防水パンを置く場合は、洗濯機のサイズを確認
●「洗濯機用水栓」には複数の選択肢が
「洗濯機用水栓」には、給水温度の設定が可能なサーモスタット付き水栓や、水だけの単水栓などいくつかの選択肢があります。水温が低いと溶けにくい粉の洗剤を使う方は、お湯が使える水栓にするなど、ご家庭の洗濯方法に合わせて選びましょう。
洗濯機に接続する水栓は「緊急止水弁付き洗濯機用水栓」がおすすめです。万が一、給水栓に接続したホースが外れた場合に自動で水が止まり、周囲が水浸しになるのを防ぎます。
また「洗濯機用水栓」は洗濯機よりも高い位置にあるのが望ましいので、使う想定の洗濯機の高さを確認したうえで、取り付け位置を設定してもらうことも重要です。
●洗濯機用の「防水パン」は必要?
「防水パン」がなくても洗濯機は置けます。ただ万が一、洗濯機の振動で接続部の金具が緩み、排水トラップからホースが外れると、洗濯排水で床が水浸しになってしまうので、保険として設置するのも一案です。特に2階に洗濯機置き場があるなど、階下への水漏れが心配な場合は、防水パンがあることで安心感が持てます。
デメリットは「ホコリが溜まりやすい」こと。特に洗濯機の下は掃除がしにくいので、「日々のメンテナンス性」と「万が一のときの安心感」を天秤にかけて判断することになりますね。
防水パンには、2槽式洗濯機も設置できる900㎜幅からコンパクトな640㎜幅まで、複数のサイズ展開があります。お使いの洗濯機のサイズに合った防水パンを選ぶと、空間にすっきりきれいに収まります。
●「スロップシンク」で「予洗い」や「手洗い」を
襟や袖口の汚れ、ソックスの黒ずみ、泥だらけのユニフォームなどは、予洗い(前処理)をしてから洗濯機に入れると、汚れが落ちやすくなります。繊細な衣類は手でそっと洗いたいですし、スニーカーは手でしっかり汚れを落としたい…。そんな「予洗い」や「手洗い」をすることが多いご家庭では、一般に「スロップシンク」と呼ばれる洗濯用シンクがあると便利です。
特に、
- 洗面化粧台で泥汚れを落とすことに、衛生面で抵抗がある
- デザインにこだわって、予洗いや手洗いに不向きな形状の洗面ボウルを選んだ
- 洗面台と洗濯機置き場の位置が離れている
などの場合に重宝します。スロップシンクの排水口は洗面ボウルのものより大きいので、キッチンの排水口用のネットをかけておくと、泥汚れなどがキャッチされ、排水管の詰まりを防げます。
STEP③ 干す
●「間取りの工夫」で物干しをしやすく!
せっかく家を新しくするなら、お風呂に入るたびに浴室の物干しパイプから半乾きの洗濯物を移したり、折りたたみの物干しに掛けた洗濯物を、リビングから寝室へ移動するなどの日常から卒業したいもの。
実際、最近は「物干しがしやすい間取り」の住宅が増えています。
- 洗面脱衣室を広くして物干しスペースを確保
- 洗濯作業専用のスペースをつくる
- ランドリールームから庭やテラス、ベランダへ出やすい動線にする
- 2階ホールや通路を物干しスペースに活用する
など、暮らし方と家の間取りに合わせた工夫を取り入れることで、洗濯物を効率よく干すことができるでしょう。
【機能的な洗濯動線の間取り例】
広いユーティリティのすぐ外にファミリークローゼットを配した平屋の間取り
▼そのほかのランドリールームのある家の間取り例は、こちらの記事をご覧ください
後悔しないランドリールームのつくり方。間取りや収納のコツを実例で知ろう
●ガス衣類乾燥機「乾太くん」が人気!
家族が多いと、その分広い物干しスペースが必要ですし、シーツなどの大物は家族分となると乾燥させるのに場所も時間も必要です。その点、衣類乾燥機や洗濯機に付属している乾燥機能の使用を前提にすれば、物干しスペースをコンパクト化でき、洗濯にかかる作業時間も短縮できます。
特に最近人気なのが、ガス衣類乾燥機「乾太くん」です。比較的短時間で衣類を乾かせるうえ、仕上がりもふわふわ。ガス代もそれほどかからないそうで、このためだけにプロパンガスを設置するご家庭も。
乾燥機の設置場所が必要だったり、ガスや電気のランニングコストが上乗せになったりはしますが、コストメリットがあって、物干しスペースの省スペース化や洗濯家事の負担軽減にもなるため、新築やリノベーションを機に導入を検討する方が多いようです。
●「換気」で湿気をコントロール
洗濯物を干せば、当然湿度が上がります。冬季間は暖房が入るので、湿度が下がって洗濯物は乾きやすいですが、夏は湿気がこもりがちになります。せっかくのランドリールームも、湿気や臭いがこもると気持ちよくありません。
そこで重要なのが「換気」です。窓を開けての換気が有効ですが、窓がない場合もありますし、冬に窓を開けておくのははばかられます…。ランドリールームの必須アイテム「換気扇」で湿気をコントロールしましょう。湿度センサー付き換気扇があると、さらに機能的です。
場合によっては、扇風機やサーキュレーター、除湿機を使って、洗濯物が乾きやすい環境を整えたいところ。となると、ランドリールームの一角にコンセントを設けておく必要がありますね。
●洗濯物干し用の道具類についても考える
洗濯物を干すときには、洋服用ハンガーやピンチハンガー、洗濯バサミなど、多彩な道具類が加わります。これらの道具類の収納も考慮して、物干しスペースを検討しましょう。
ランドリーバー(物干し竿)も、「着脱式」、「固定式」、「電動式」と複数の選択肢が考えられます。故障や不具合のリスクはありますが、高さを手軽に上げ下げできる「電動式」は便利。濡れた衣類は物によっては重いので、特に足元が不安な高齢者にとって、作業しやすい高さまで下ろして洗濯物を掛けられ、移動の妨げにならない高さまで上げて干すことができる「電動式」は、メリットが大きいアイテムです。
STEP④ 取り込んで畳んで、収納する
●「仮置き場所」は必須
洗濯機から取り出した洗濯物や、干した後に取り込んだ洗濯物を仮置きするカウンターやワゴン、かごは、ランドリールームの必需品。階段の上り下りがない場合は、キャスター付きのワゴンが便利。洗濯物がある程度重かったり、かさがあったりしても、位置を移動しやすく使い勝手が良いです。
●物によって、収納場所を分ける
最近の家づくりでは、お風呂上がりに替えることが多い下着や靴下、タオルなどは、脱衣室に収納場所を設けるケースが増えています。家族それぞれ専用の引き出しやカゴに入れて棚に収めておくと管理がしやすいです。夏用・冬用に分けておけば、衣替えにも対応できます。
洋服ハンガーにかけたものは、畳まずにそのままクローゼットに収納できると便利。ランドリールームの隣やすぐ近くにクローゼットをレイアウトできると、衣類の管理がしやすくなります。
とりわけ今注目なのが、家族全員分の衣類を1ヵ所にまとめて収納する「ファミリークローゼット」です。家族全員の衣類の種類や量が把握しやすいうえ、各部屋に乾かした衣類を置いて回る必要もなく、洗濯動線の短縮と時短につながります。
「洗濯家事」はたくさんの作業の積み重ねで成り立っています。そのため、一つ一つのプロセスが機能的になると、洗濯家事全体の労力の削減や時短につながります。家づくりのときだからこそできる工夫もたくさんあるので、自分たちの暮らしの中で特に何を優先すべきか考えて、プランに取り入れてみていただければと思います。