家づくりの中で「キッチン」は一大テーマであり、さまざまな悩みが付きまといます。その一つがキッチンのレイアウト。特に「壁付け」と「対面式」のどちらにするかによって、間取りや使い勝手が大きく変わります。

この記事では、最初に押さえておきたい壁付けキッチンと対面式キッチンのメリット・デメリットをご紹介します。


壁付け?対面式?
まずは基本のレイアウトを決める

最初に考えるのは「壁付けキッチンか、対面式キッチンか」です。主にキッチンに割ける広さや、調理スペースとして必要なサイズ感、家族間のコミュニケーションの取りやすさの重要度などが選択のポイントになります。

加えて、食器や調理道具、食品のストックなどを含めた必要な収納量、家族間の食事のタイミングなど、実際にキッチンを使うシーンをシミュレーションしてみると、どちらのタイプがよりふさわしいかイメージしやすいでしょう。

壁付け?
壁付けキッチンがいいか
対面式?
対面式が向いているか

「壁付けキッチン」のメリットとデメリット

リプランの取材先では、一昔前に比べて壁付けキッチンの家が増えている印象です。建築家の方々からは「壁付けっていいよね」という言葉もしばしば聞きます。

壁付けキッチンのメリット

1 限られた面積を有効に使える

壁付けキッチンの家を最近よく見る理由の一つとして考えられるのが、延床面積30坪以下の比較的コンパクトな住宅が多いこと。「限られた面積を有効利用できる」というのが壁付けキッチンの大きなメリットで、キッチンの面積を圧縮した分、ダイニングやリビングの広さを確保しやすくなります。

限られたLDK空間にキッチンをコンパクトに収めたいと、壁付け仕様に
限られたLDK空間にキッチンをコンパクトに収めたいと、壁付け仕様にした例
延床面積わずか10坪の住宅。キッチンを壁付けにしてリビング・ダイニングのスペースを捻出
延床面積わずか10坪の住宅。キッチンを壁付けにしてリビング・ダイニングのスペースを捻出

2 独立型キッチンにできる

「片付けが苦手でキッチンまわりを見せたくない」「臭いや音、油煙が気になるからリビングやダイニングと空間を分けたい」。その要望を叶えるのが、独立型キッチン+壁付けキッチンの組み合わせ。ある程度のスペースが割けるなら、収納スペースも十分に確保できます。

広さにゆとりがある独立キッチン
広さにゆとりがある独立型キッチン

3 料理に集中しやすい

壁付けキッチンにしたお施主さんから意外とよく聞くのが「料理に集中しやすいように」という声。子どもがある程度の年齢になっていれば、リビング・ダイニングの様子を気にする必要がなく、むしろ壁に向いている方が、料理に集中できる環境をつくりやすいのがメリットになるでしょう。

調理に集中できるよう、あえて壁付けにしたキッチン。玄関からそのままキッチンへ入れる利便性の高い配置
調理に集中できるよう、あえて壁付けにしたキッチン。玄関からそのままキッチンへ入れる利便性の高い配置

4 窓の外を感じながら料理ができる

自然のロケーションに恵まれた家では、壁付けにして前面に窓を設けることで、その眺望や陽の光をすぐ目の前に感じながらキッチンに立つことができます。特に朝や休日は、気持ちよく過ごせそうです。

キッチンは壁付けで、調理をしながら奥さん憧れだったコーナー窓から外の緑を楽しめる
調理をしながらコーナー窓から外の緑を楽しめる壁付けキッチン

壁付けキッチンのデメリット

1 子どもの様子が見えにくい

食事の支度をしている間、壁に向かっているため、リビングやダイニングにいる子どもの様子が把握しにくい点が、ご家庭によっては壁付けキッチンのデメリットになることがあります。

L字の壁付けキッチンだと、リビング・ダイニングの様子がつかみやすい
L字の壁付けキッチンだと、リビング・ダイニングの様子がつかみやすい

2 キッチンまわりの動線が悪くなることがある

壁付けキッチンの後ろにダイニングテーブルを置くレイアウトの場合、冷蔵庫や食器棚、家電収納棚などをキッチンと横並びに配置することになります。

キッチンの作業動線は、シンク・コンロ・冷蔵庫が3角形で結ばれるワークトライアングルを描くとスムーズですが、この配置だとその形から外れて横移動の距離が長くなり、使いづらさを感じる可能性があります。

独立型キッチンだと、背面に収納棚や冷蔵庫を置きやすいので、必ずしもデメリットとはいえません。

キッチンを壁付けにすることで省スペース化を図りながら、LDとの一体感を演出。窓越しに外の景色を見ながら家事ができ、ゲストや家族との会話も楽しめる
ダイニングが背後にある壁付けキッチンは、冷蔵庫や収納棚が横並びになる

3 キッチンの上が丸見えになることがある

オープンなLDKの壁付けキッチンの場合、フラットな対面式キッチンと同じようにキッチンの上が丸見えになります。「生活感が出るのは気になるけれど、常にきれいにしておくのは難しい」という方は、レイアウトに工夫が必要です。

リビングとダイニング・キッチンをL字にレイアウトすると、リビングにゲストがいてもキッチンの様子が気にならない
リビングとダイニング・キッチンをL字にレイアウトすると、リビングにゲストがいてもキッチンの様子が気になりにくい

4 十分な収納スペースを確保しにくい

これも主に、背面にダイニングテーブルを置くレイアウトにした場合の悩み。対面式キッチンでは、壁面に大容量の背面収納棚が置けますが、壁付けのこのレイアウトでは、キッチンと横並びで収納スペースを設けることになります。すぐ隣に広さのあるパントリーを併設できると、その悩みがだいぶ解消されます。

キッチンのすぐ左手に広さのあるパントリーを設け、その中を冷蔵庫や家電置き場に。食器はカウンターテーブルの下の造作棚に収納
キッチンのすぐ左手に広さのあるパントリーを設け、その中を冷蔵庫や家電置き場に。食器はカウンターテーブルの下の造作棚に収納して、使いやすく設計
間仕切りを兼ねた収納付きカウンターで、収納量アップ

▼壁付けキッチンの実例を見たい方は、こちらの記事もぜひご覧ください!

3つの住宅実例から学ぶ。壁付けキッチンの間取りの魅力

「対面式キッチン」のメリットとデメリット

今やキッチンのスタンダートともいえる対面式キッチンですが、場合によってメリットとデメリットが考えられます。

対面式キッチンのメリット

1 家族とのコミュニケーションが取りやすい

「子どもの様子が見えて安心」。これが取材先でよく聞く、対面式キッチンを採用した理由です。幼いときはもちろん、年齢が上がっても、ダイニングで宿題をするお子さんと話をしながら夕飯の準備をするひとときが、親子の大切なコミュニケーションの時間に。

また「壁を向いていると、家族の輪に入れない感じがして寂しい」という声もあり、コミュニケーションを取りやすいことが、対面式の大きなメリットです。

2 料理や洗い物の様子を目隠ししやすい

キッチンの前面に壁をつくって少し立ち上げると、リビングやダイニング側から手元が見えず、作業台の上にある洗い物や調理器具などを隠すことができます。

片付けが苦手だったり、すべてが見えてしまうことに抵抗があったりする場合は、前面に壁を立ち上げるタイプの対面式キッチンにすると、ストレスが減ります。

キッチンの前面の造作家具を少し高めにつくると、手元まわりが目隠しできる
キッチンの前面の造作家具を少し高めにつくると、手元まわりを目隠しできる

3 大容量のキッチン収納を確保しやすい

対面式キッチンの背面は壁なので、「大容量の収納をつくりやすい」というメリットがあります。キッチンまわりは調理器具やキッチン用品、食品のストックなど何かと物が多くなりがち。特に最近は調理家電の種類も増えているので、背面にカウンターや収納棚があるととても重宝します。

壁面いっぱいの造作収納
壁面いっぱいの造作収納
プランニングによっては、キッチンと横並びにしたダイニングの壁面まで収納を延ばすこともできる
プランニングによっては、キッチンと横並びにしたダイニングの壁面まで収納を延ばすこともできる

4 ワークトライアングルを描きやすい

壁付けキッチンのデメリットで挙げた作業動線は、対面式キッチンのメリットに。シンク・コンロ・冷蔵庫の距離をコンパクトに計画しやすく、食事の準備をよりスムーズに進められます。

対面式キッチンは、必要な機能がコンパクトにまとまりやすい
対面式キッチンは、必要な機能がコンパクトにまとまりやすい

5 プランニング次第で、外の風景を楽しむキッチンにできる

壁付けキッチンは前面の壁に窓を設置できるメリットがありますが、プランニングによっては対面式キッチンでも外の風景を楽しむレイアウトが可能です。

コンクリードブロックの腰壁が特徴的なキッチンからは、リビングはもちろんお庭まで見渡せる
大きな窓のあるLDK。コンクリートブロックの腰壁が特徴的なキッチンからは、リビングはもちろん庭まで見渡せる
大きなFIX窓越しに中庭が一望できるアイランドキッチン
大きなFIX窓越しに中庭が一望できるアイランドキッチン

対面式キッチンのデメリット

1 ある程度広い面積が必要

使い勝手の良い対面式キッチンをつくろうとすると、ある程度のゆとりの広さが必要です。作業台と背面収納棚の間の通路幅は、使いやすさを考えると90㎝はほしいところ。そのため特にコンパクト住宅の場合は、対面式キッチンにすると、リビングやダイニングが手狭になる可能性があります。

かがんで下のほうから物を出すなど、キッチンではさまざまな動きをするため、通路幅にゆとりが必要
かがんで下のほうから物を出すなど、キッチンではさまざまな動きをするため、通路幅にゆとりが必要

2 オープンでフラットな対面式は、キッチンが丸見え

オープンでフラットな対面式キッチンはLDKの圧迫感を軽減する一方で、キッチンが丸見えです。リビング・ダイニングとつながっている間取りでは、キッチンの生活感がそのまま空間全体に影響し、せっかくオシャレにつくり込んだLDKが台無し…ということも。

大きなストレスを抱えることにもなるので、対面式キッチンをフラットにするか、壁を立ち上げるかは慎重に検討する必要があります。

すっきりと美しいオープンな対面式キッチンは、もはやインテリアの一部
すっきりと美しいオープンな対面式キッチンは、もはやインテリアの一部

3 調理の音や臭い、油煙がLDK全体にまわりやすい

壁付けキッチンでも部屋として独立していなければ悩みは同じですが、対面式キッチンだと、シンクで水を流す音や揚げ物などの臭いや油煙が、リビング・ダイニングまで広がりやすいというデメリットが考えられます。

最近は換気扇の性能が良くなって、そこまで気にならないという声もありますが、心配な方は空気清浄機を使ったり、内装仕上げ材に消臭効果の高い珪藻土などの塗り壁や機能性壁紙を用いたりして対応するのがおすすめです。

LDKの内装仕上げ材は、防臭効果を有するフェザーフィール(ドイツ本漆喰)
LDKの内装仕上げ材は、防臭効果を有するフェザーフィール(ドイツ本漆喰)

このように、壁付け・対面式だけでも、建てる家の条件や住まい手の使い方などによって複数のメリット・デメリットがあります。自分たちの中の重要度をよく検討して、ベストなキッチンのレイアウトを選んでくださいね。

(文/Replan編集部)