さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前 真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)
全国の旧一般電力事業者の申請を国が認可し、電気代が値上げされました。さらに、夏の暑さは厳しさを増しており、連日のように最高気温が35℃超の猛暑日となっています。今回は電気代値上げの実情と、暑さで子どもたちの健康が脅かされている学校の教室における断熱改修について見ていきます。
電気代の値上げはどうなった?
前回お話しした電気代の値上げが結局どうなったのか、まず確認しておきましょう。電力事業者の値上げ申請を国が認可し、全国の旧一般電力事業者の7社が、6月から一斉に値上げを行いました(図1)。
ここでは東京電力について、一般的な3段階の料金プランの値上げの実情を見てみましょう(図2一段目)。
図2 東京電力では6月値上げの影響は大したことなかった?
6月に電気代の値上げが実施され、電力量料金が1kWhあたり約10円も高くなりました。一方で、燃料費調整の計算方法が変更され、運よく燃料価格の低下も重なり、月々の支払い額は大きく上昇することなく、むしろ以前の安値まで下落しつつあります。ただし、現在の激変緩和措置は9月までとされ10月以降が未定であること、また燃料費も再び高騰する気配があり、油断はできない状況です。電気をあまり使わずに健康・快適な室内環境を確保することが求められるのです。
出展:東京電力資料をもとに筆者推計
この連載でも繰り返し述べてきたように、電気代に含まれる燃料費調整額は、発電に使う化石燃料の価格変動を受けて自動的に変化します。2021年からの化石燃料の高騰に伴い、電気代は急上昇(図2二段目)。特に燃料費調整の上限がない自由料金プラン(スタンダードSなど)では、2023年1月の電気代が2021年1月の約2倍にまで高騰しました。
一方で、燃料費調整の上限がある規制料金プラン(従量電灯Bなど)は価格上昇が抑えられていましたが、その逆ザヤが電力会社の経営を大きく圧迫していたのです。
運よく化石燃料も値下がり
6月の値上げでは、電気代の値上げとともに、燃料費調整額の算出方法が見直され、併せて規制料金プランにおける燃料費調整額の上限が引き上げられました。規制料金プランで月351kWhの電気を消費する住宅では、5月に9,287円だったのものが1万92円と、1割強上昇したことになります(図2三段目)。幸い、運よく化石燃料の値下がりが重なり、燃料費調整額が安くなったため、電気代値上げの痛みは穏やかになりました。
激変緩和措置はどうなる?
今回の値上げは、化石燃料の値下がりという幸運が重なり、大きな混乱はなかったようです。実際、ネット検索のトレンド推移を見ても、電気代への関心は1月のピークに比べて低いレベルにとどまっています(図2四段目)。ただし今の電気代の安さは、激変緩和措置による電気代補助のおかげだということを忘れてはなりません。
実際、先に補助が減額されたガソリンについては、検索数が上昇しており関心の高まりを感じさせます。ガソリン代の補助は本来9月に廃止のはずだったのが、最近になって延長という話が出ています。しかし、直近の痛みを一時的に和らげるだけの小手先の対応は、省エネの進展を遅らせ本当の解決が遠のきます。ましてや補助の原資が国債ということになれば、借金をしてまで痛み止めを打つのと何ら変わりません。住宅の電気代補助についても延長が議論されるでしょうが、本当の国民の利益につながる対策は何なのか、よく考えるべきでしょう。
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