無暖房住宅を目指す断熱仕様
表1に、無暖房住宅を目指して、Q1.0住宅レベルー3の断熱仕様を強化した仕様を示します。
無暖房仕様1ですが、表のように各部の断熱を強化しています。これで、UA値は0.203となり、省エネ基準7等級の基準値に届いていません。窓を大きくしているので、その分UA値が大きくなるためでしょう。しかし、灯油消費量は、札幌で274Lが90Lまで大幅に減少しています。このモデルで、壁の断熱の厚さをさらに増やしてみたのですが、無暖房住宅はまったく実現しませんでした。
そこで、天井・基礎の断熱も増やし、何よりも開口部のガラスをさらに強化し、サンゴバン社製のArLowーE18㎜トリプルガラスとしました。このガラスは、国内では、四国で製造されているスマートウィンという木製サッシに採用されています。外壁の厚さは仕様1同じとして、無暖房仕様2として示します。UA値は0.188と、省エネ基準7等級の基準値0.2より小さくなりました。灯油消費量は、札幌で60Lと2/3になりました。
この無暖房住宅仕様1・2からさらに断熱材を厚くするモデルとして、外壁の断熱材を100㎜ずつ増やしていった結果を図5に示します。
断熱材は、実際の建築では外壁だけでなく、ほかの部位でも合わせて増やしていくのですが、ここでは外壁だけ増やすという方法を取りました。図5の薄い青色の線が札幌、薄い赤色の線が帯広の灯油消費量です。日射量の大きい帯広では、無暖房仕様2の外壁の断熱の厚さ1005㎜のモデルでようやく灯油消費量がゼロになりました。
住宅内部に蓄熱材を設置する
スウェーデンの無暖房住宅では、1階の床が土間コンクリートになっています。このように窓を大きくして、日射を増やすと、天気のよい日中は室温がオーバーヒートして30℃以上にもなってしまいます。この熱は、夕方までには外部に逃げてしまうのですが、住宅の室内に大きな熱容量があれば、そこに蓄熱され、夜まで暖房しなくても室温が保たれます。日本の木造住宅では熱容量を増やすのが難しいのですが、ここでは次のような手法で蓄熱材料を配置してみました。
①1階床下地合板の上にコンクリート100㎜厚を打ち込み、
その上をフローリング仕上げとする
②2階床は同様にセルフレベリングモルタル30㎜を敷き込む
③間仕切り壁12㎡に厚さ100㎜のレンガを積む
④外壁室内側に16.7㎡のレンガを積む
QPEXには、このように蓄熱建材の熱容量を計算する機能があります。この結果を同じく図5に示します。濃い青色と赤色の線が、札幌と帯広の結果です。無暖房仕様1では蓄熱材を設置しても無暖房は実現できませんでした。無暖房仕様2では、札幌で、外壁1100㎜厚で無暖房が実現、帯広では605㎜厚で実現しました。
QPEXでの計算は、SimHeatでの計算結果を基に決めています。SimHeatというプログラムは、蓄熱材料に対する感度の鈍いプログラムだと言われていて、実際はもっと減り、この結果より薄い断熱材で実現するものと思っていますが、私たちもここまでの住宅を建設したこともなく、検証はできません。
パッシブデザインはUA値を小さくすることより重要
省エネ基準が、UA値を基準に決められていることにより、UA値が小さいことが、省エネ性能が高いと勘違いされます。UA値を小さくするには断熱を厚くして、窓を小さくすれば簡単です。しかし、灯油消費量はあまり減りません。
窓を大きくしてUA値が大きくなるのをかまわず、パッシブデザインで住宅の熱容量を大きくしていけば、北海道で灯油消費量50L以下の住宅は、意外と容易にできることが分かりました。このような住宅について、新住協としても大いに関心を持って開発していきたいと思います。