小説家であり随筆家でもあった谷崎潤一郎の「陰翳礼讃(いんえいらいさん)」は、まだ日本の一般家庭に電灯が普及していなかった頃の日本家屋における美意識について記された随筆集である。
日本人は古来より陰翳が生み出す物や空間から独特な感性を身に付けてきた民族である。ろうそくや燈明などの灯火具による明かりは部屋全体を照らすものではなく部分照明であった。そのような明る過ぎない灯火具が、暗さの演出に秀でた民族を生んだのである。そこから生まれた美意識は簡素・質素を尊ぶ、侘び・寂びにつながるものと言える。
一方、そうした美意識と似ているのが北欧諸国である。北欧では異常とも思えるほどのキャンドルの使用率が高い。一般家庭はもとより、レストランや公共施設でも多く見られる。また、北欧の照明は、その器具のデザインのみならず、その器具が発する明かりのデザインにこだわったものが多い。それらの多くは光源が直接目に入らないグレアレスなものがほとんどである。照明器具に限らず、ほとんどの分野で使われるデザイン全般が人に優しいデザインであり、それが北欧デザインの特徴と言えるだろう。
そうした価値観とは異なるデザイン大国がイタリアである。イタリアの照明器具の多様なデザインはほかに類を見ない。日本では天井直付けのシーリングランプやペンダントランプ、壁に取り付けるブラケットランプなど、そのほとんどが固定式なのに対して、イタリアではそれらのアイテムでも可動式なものが多い。まして、フロアランプやデスクランプに至っては多くのものが光源を可動できるのだ。
要は、必要な場所に必要な明るさがあればよいのであり、そうした要件を満たせばデザインの自由度は無限にあると考えるのがイタリアのデザイナーたちである。そのためか、時には光源が目に入り眩しさを感じさせる製品もあるが、そんな機能性の問題よりもデザインの美しさが人を幸福にすると考える国民性が勝るようだ。
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今回紹介するのはイタリアを代表する巨匠、ピエール・ジャコモ・カスティリオーニ&アッキーレ・カスティリオーニ兄弟のデザインした、イタリア・モダンデザインのアイコンとも言える作品「アルコ」である。白い大理石のベースにスチールのバー、そして大きな円弧を描いてランプを支える部分は、その長さ(高さ)を変えられる構造だ。ランプのシェードが可動式なため光の方向を変えることが可能だ。何年か前、限定版として黒の大理石バージョンが発売されたこともある。
このあまりにも有名な作品はほかの名作と同様に中国で大量にイミテーションが製造されている。かつて、その贋作を見たことがあるが、その完成度の低さにはあきれた。遠くから見ると判別がつきにくいが、近くから見るとディテールの精度は荒く、そうした贋作はデザイナーやメーカーの利益を奪うだけでなく、本来の権利を有した人たちに対する冒瀆である。こうした名品には立体商標権を付与し、輸入も販売も禁止すべきである。
■ARCO LED
メーカー:FLOS(フロス)
サイズ:シェードΦ32×D215-220×H240㎝
材質・機能:アルミニウム、大理石、ステンレススチール
1 MULTICHIP LED 28W 2700K 1126lm CRI93
価格:403,700円(税込)
<問い合わせ先>
MAARKET(マーケット)
https://maarket.jp/products/detail/138