前回もお伝えしたとおり、薪ストーブを使わない夏の今は、メンテナンスに好都合な時期。煙突はもちろん、薪ストーブ本体の炉内も一緒にメンテナンスする必要があります。そこで今回はサカシタペチカの代表、坂下雅徳さんに、薪ストーブのメンテナンスで大事なこと、そしてそこから見えてくる薪ストーブ選びで大事なことについて、お話を伺いました。
定期的なメンテナンスで
リスクを回避し、ロスを防ぐ
今の時期のメンテナンスは、煙突の掃除がメインになります。例えば人は、血管が詰まって病気になってしまってからでは遅いので、それを防ぐために年に1度の健康診断に行きますよね。薪ストーブのメンテナンスもそれと同じです。煙突も、煤などが詰まってから掃除するのでは遅く、煙道火災のリスクも上がってしまうので、冬の間メイン暖房として普通に使っているなら、年に一度、定期的にメンテナンスすることが大切です。
薪ストーブのオーナーさんの中には、ご自身でメンテナンスをしたいという方もいますが、特に初めの何回かは専門家に依頼することをおすすめします。というのも私たちのようなプロはメンテナンスを通して、オーナーさんが薪ストーブをどんなふうに使っているか、どんな薪をどう焚いているかがわかるので、もし問題があった場合にアドバイスできるからです。
メンテナンスでは煙突と一緒に、扉についているファイバーロープや、耐火レンガ、鋳物のパーツなど、薪ストーブ本体の炉内の状態もチェックします。だめになったパーツを早めに発見して取り替えることで、後々の炉内のダメージや余分な出費を防ぐことができます。
炉内のパーツの傷みが早いのは
家の広さにサイズが合っていないのが原因!?
メンテナンスでお客さんの家を見て回っていると、炉内のパーツの傷みが早いお宅がときどきあります。それは、薪を長時間にわたって勢いよく焚きすぎているから。オーソドックスな機種では薪ストーブの表面温度が300℃以上、機種によっては350℃以上だと高温になりすぎで、パーツが傷んだり鋳物が変形したりする恐れがあります。
ではなぜ、そんな必要以上に高温の状態で長い時間、薪を焚いてしまうのでしょうか?その大きな理由のひとつは「家の暖めたい面積に対して、薪ストーブの能力が小さすぎる」ということがあります。
薪ストーブを導入する当初は「うちはときどき使うだけで、メインの暖房にはしないから、小さくて大丈夫!」と考えるのですが、実際に使い始めるとほかの暖房との「暖かさの質のちがい」を実感して、薪ストーブに頼りがちになります。
でも計画の段階では、他の暖房器具との併用を前提にしているので、小さな薪ストーブでは能力が足りなくて、暖めたいエリアをカバーできません。それでも、とガンガン薪を焚き続けることで高温の状態が長く続き、結果、炉内を早く傷めてしまうのです。
そのため、私は小さい薪ストーブでいいとおっしゃるお客様には「広さなどの条件が許すなら、中~大サイズの薪ストーブにしたほうがいいですよ」とお伝えしています。
薪ストーブは「手をかける楽しみがある道具」です。部屋の中をほんのり暖かくしたければ、大きなストーブで薪を少しにして火の強さを加減すればいい。自分なりに試行錯誤して、最善を見つけていくことが必要で、それがこの道具の面白さでもあります。
また薪ストーブがあると、料理の楽しみも広がります。料理で使うなら、天板が大きいほうが何かと重宝しますし、薪ストーブが大きいと扉が大きいので、薪を入れるのにも便利です。ご自身で薪割りをすると良くわかりますが、細い薪を作るのって、案外大変なんですよ。
薪ストーブはメンテナンスを通して、いろんなことが見えてきます。薪ストーブは一生モノ、とは言いませんが、できる限りより良い状態で、より長く使っていただきたいので、薪ストーブを検討されている方はぜひ、少し大きめの薪ストーブに注目してみていただければと思います。
小さめのストーブで「寒いな」と思っている方は、ほかの暖房との併用を工夫していただき、くれぐれもストーブの寿命を縮めて事故のリスクが増すような、無茶な焚き方はしないでくださいね。