高断熱住宅のかたち

私たちが高断熱住宅をつくり始めた頃の一般的な住宅といえば、冬の寒さを我慢しながら暖房用の灯油を節約している状態でした。そのような中で私たちは、この灯油使用量を増やさずに家中が寒くない快適な住宅をつくることを目標にしていました。なぜなら、当時の住宅は今より質素で、できるだけローコストに省エネと快適化を実現したいという思いと、あまり高い性能目標を掲げるとコストが高くなって技術的なハードルも高くなり、世の中への普及を阻害すると考えたからです。このローコストを実現するための方策としてチャレンジしたのが「総2階建て住宅」です。

当時は総2階建て住宅というと50坪以上の大きな家ではたまにありましたが、30〜40坪の一般的な家で総2階建てにしようとすると、LDKとサニタリーと和室が1階におさまりきらないため、1階が広く2階が小さい、一部2階建てと言われる家になっていました。これをなんとか総2階建てにするために、当時普及し始めていたバスユニットを使ってサニタリーを2階にまわしたり、あまり使われない和室を書斎や趣味の部屋として2階に配置したり、あるいはLDKを2階にして寝室と階をひっくり返したりと、いろいろな工夫をしながらプランを次々つくりました。

なぜここまで総2階建てにこだわったかというと、シンプルなかたちの総2階建て住宅は、外皮表面積が小さくなり、熱損失が小さくなります。そして何よりも屋根・天井と基礎の面積が相当小さくなりますから、住宅の工事費がとても安くなります。こうして浮いたコストを断熱や窓の性能向上に充てる方法が必要だったのです。やがて断熱の技術に大工さんが慣れてくるにつれて工事費が少しずつ下がり、また、高断熱住宅に必要な建材や設備の普及によるコストダウンもあって、シンプルな総2階建て住宅から少し変化した住宅でも十分な性能を実現できるようになりました。

しかし同時に私たちはもっと高性能な住宅に取り組み始め、一般的な住宅の燃費の半分以下で暖かく快適になる住宅を目指し、再びコストが問題になりつつあります。住宅は単に広さがあれば良いというものではありません。その空間の中で人はいろいろな生活をしていくわけで、空間と人は相互に作用し合う関係にあります。また住宅の外部のデザインや空間もとても大事です。住宅を設計するときは、これらに時間をかけてさまざまな工夫を凝らします。省エネのためにこれらを犠牲にするわけにはいきません。「家のかたち」はどうあるべきか、これは住宅設計の永遠の課題です。

シンプルデザイン

住宅の内部空間についてはさておき、外から見たかたちについて考えたいと思います。住宅を見て「格好いい」「美しい」と思うかどうかは感性の問題で、とても定量的に評価できるものではありません。しかし、多くの人に同じように「美しく」感じられる建物、住宅は多く存在します。そしてそのかたちはシンプルな形状のものが多いとは思いませんか? 和風建築で一見複雑にできているものでも、実はシンプルな家のかたちがいくつか複合されていることが多いのです。

そこにはいくつかの法則性が存在します。現代建築における名建築もとてもシンプルなかたちが多いのです。私はここに高断熱住宅の「かたち」の可能性を感じています。単純な箱状のつまらない住宅でも、カーポートや塀、サンデッキなどシンプルなデザインの組み合わせにより、変化に富んだ美しい住宅ができあがる可能性があります。

プランニングの都合─例えば、ここが狭いからちょっと出っ張らせた、あるいは、変化をつけるためだけにここを引っ込めた、などといった理由からつくられたかたちは決して美しくはありません。建築家の多くはシンプルな美しいかたちにまとめ上げるために、プランニングにしっかりと時間をかけているのだと思います。そしてそれは省エネ住宅をローコストに実現できるということでもあると考えています。