一次エネルギーで計算されるWEBプログラムの
暖冷房エネルギーの怪

国は、暖房の標準を1~2地域は居室連続暖房、その他の地域は居室間歇暖房とし、冷房はすべての地域で居室間歇冷房として、今回の6等級、7等級については4等級に対してそれぞれ30%、40%削減できるといっています。ここに私は二つの疑問を感じます。一つはたった30~40%しか削減しないのか。もう一つは、6~7等級のようにレベルの高い断熱構成ならば、建設する人は全国各地で全室暖房を採用するだろうし、そのとき、居室間歇暖房との差はとても小さくなるはずだということです。

全室暖冷房で計算するQPEXの計算結果とWEBプログラムによる計算結果を比較するために図4~5を示します。

図4 WEBプログラムとQPEXによる暖冷房エネルギー比較(2地域)

QPEXでは、暖冷房負荷の計算結果は単位がkWhで表示されます。これを換算して灯油やガスの消費量、あるいは電気消費量として合わせて表示されるようになっています。

一方、WEBプログラムでは、暖冷房で消費される一次エネルギーとして表示されます。単位はMJです。これを換算しないと計算結果を比較できません。

熱量としてみると、1kWh=3.6MJですが、一次エネルギーへの換算は消費電力1kWh=9.76MJとなります。この換算係数は省エネ法で決まっていて、全火力発電の効率から決められています。電力1kWhを発電するのに必要なエネルギーは9.76MJとなるということです。9.76÷3.6=2.71kWhで1÷2.71≒0.37となり、発電投入エネルギーの37%が電力として消費されていることを示します。

暖冷房負荷(kWh)÷COP=消費電力(kWh)ですから、このCOP(効率)がいくつになるかが問題です。WEBプログラムでは、全国一律暖房4.0、冷房3.1が使われているようです。(分類<ろ>の場合)QPEXからの変換では、不利にはなるが、もう少し実態に近いと思われる表中の数値で計算しています。

1~2地域に限っていえば、国は、暖房の標準を居室連続暖房としています。この場合灯油などの温水暖房になり、灯油では37MJ/Lで換算されます。これを灯油の発熱量10.14kWh/Lとボイラーの効率0.85を使って換算しています。
灯油消費量(L)=暖房負荷(kWh)÷(10.14×0.85)
暖房一次エネルギー(MJ)=灯油消費量×37です。

図4の2地域では、暖房はB、Eのダクトエアコン以外はすべて灯油暖房を想定しています。A、Dの居室のみの暖房とQPEXで計算したC、Gの全室暖房を比較すると、なんとC、Gの方が若干少なくなります。全室暖房では灯油を想定したF、Gの比較でQPEXの方がかなり少なくなっています。

このようにWEBプログラムの計算結果は大きくなる傾向があります。QPEXの計算で建てられた住宅は、実際にほぼ計算通りの暖房費で済んでいるのです。

図5 WEBプログラムとQPEXによる暖冷房エネルギー比較(4・6地域)

A~Gが省エネ基準4~6等級のモデルプラン住宅、Hが同じモデルプランのQ1.0住宅での計算結果を示します。A~Cは第3種換気。D~Hは熱交換換気を採用した場合です。

全室暖冷房という想定は、WEBプログラムでは、ダクトエアコンによる全室暖冷房しかないので、それをB、Eに示します。2地域では、ここだけがエアコン暖房になります。4地域ではすべてがエアコンによる暖冷房です。また2地域のFは、灯油で全室暖房という設定を実現するために、住宅のほとんどが居室という入力をしています。

省エネ基準住宅のWEBプログラムとQPEXの比較は、第3種換気ではBとCの比較、熱交換換気では、2地域ではE、FとGの比較になり、4~6地域ではEとGを比較することになります。


図5の、4地域、6地域になると、この傾向はもっと顕著になります。全部エアコンによる暖冷房のデータです。エアコンで居室暖冷房を選ぶと、必ず間歇暖冷房になり、全室暖冷房はダクトエアコンになります。このため、QPEXと比較するにはBとC、EとGの比較になりますが、2地域と比べて、違いが大きく拡大し、QPEXの2~3倍にもなるようです。また、QPEXに比べて熱交換換気採用による削減は暖房でも少なく、冷房ではまったく計算されないようです。

また、WEBプログラムの間歇暖冷房A、Dは、熱交換換気を採用したQPEXの全室暖冷房Gよりも5~7等級で大きくなるという奇妙なことが見てとれます。ほかにもいろいろな摩訶不思議な結果が出てしまっています。 

間歇暖冷房想定のゼロエネルギー住宅では
偽装になってしまう

私は、QPEXの計算結果が必ずしも正しいとは思っていません。あくまでも簡易計算でその誤差は相当あるはずと考えています。

ただし、実際に建てられた住宅の暖冷房エネルギーは、かなり計算結果に近いようです。WEBプログラムの暖冷房エネルギーの計算は、たぶんSIM/HEATという詳細な計算プログラムで計算した結果を基に、いろいろな補正を行って出しているものと考えられますが、その補正の誤差が積もり重なって大きくなっているのかもしれません。いずれにしても実態よりかなり大きな数値になっていると思われます。

この結果、暖冷房の一次エネルギー計算を、間歇暖冷房を標準にせざるを得なくなっているのではないでしょうか。実際、6・7等級ぐらいの高性能住宅を6・7地域で建設すると、ほとんどの住宅は全室暖冷房で暮らしています。ダクトエアコンなどという高価な設備でなくても、8~10帖用のエアコン1台で全室暖冷房が可能で、WEBプログラムで間歇冷暖房の計算結果より少ないエネルギーで済んでいるのです。

しかし、国への申請はWEBプログラムで計算した結果を添付しないと6~7等級の住宅だと認めてもらえません。全室暖冷房を選択して計算すると、ゼロエネルギーにするための太陽光発電の面積がとても大きくなりますから、結局間歇暖冷房を選択して申請することが多くなると思われます。この住宅で居住者が全室暖冷房で暮らすと、計算上は偽装になってしまいます。実際がQPEXの計算結果だとすると、幸いにもゼロエネルギーで暮らすことはできるかもしれません。

省エネ基準は、住宅建物のつくり方を規制するのが本来の目的です。住宅の性能を正しく評価する必要があります。その中での居住者の生活の仕方、暖冷房の仕方を評価するものではないはずです。WEBプログラムで計算される暖冷房エネルギー計算方式を見直す必要があると同時に、計算条件を例えば全室暖房+居室間歇冷房でも良いですから、一つの方式に統一する必要があると思います。