HEAT20のG2・G3仕様を
そのまま採用した6・7等級

私は、十数年前にQ1.0住宅レベル1〜4の仕様を決めるにあたって、モデル住宅の断熱仕様をいろいろ変えて、QPEXで全国800以上の地点の暖房負荷を計算しまくりました。

レベル1は、全国の一般住宅の標準的な暖房エネルギー消費量の半分以下になるようにと考え、また当時の高断熱住宅の一般的な断熱仕様やその工法を考慮して、できるだけローコストになるように決めたつもりです。レベル2~4については、暖房エネルギー削減量を10%ずつ増やしたのですが、その仕様の工法についても同様に考えています。この十数年間に、新住協の会員は多くのQ1.0住宅を建てて、今ではQ1.0住宅レベル3で全棟建設を目標にしています。

私は、あくまでも暖房エネルギーを小さくすることを考えてきましたが、省エネ基準では、住宅外皮の平均熱貫流率UA値などで基準が構成されています。今回の改正で5~7等級が新設されました。

それを表1に示します。

表1 新省エネ基準とQ1.0住宅のUA値比較
省エネ基準に新たに5~7等級が設けられ、地域毎にUA値の下限値が設定された。 一方、Q1.0住宅はUA値ではなく暖房エネルギーでレベル1~4を規定しているが、比較のために断熱仕様例のUA値を示した。

表1には、比較のためQ1.0住宅レベル1~4の代表的な断熱仕様でUA値を計算して載せました。これを分かりやすいように、図1にグラフ化してみました。これで、温暖地から寒冷地にかけてどのようにUA値が小さくなっていくか、Q1.0住宅と省エネ基準4~7等級の相互関係がよく分かります。

図1 新省エネ基準とQ1.0住宅のUA値比較グラフ

省エネ基準5等級は、現行のZEH基準と同じで、4等級から開口部だけをレベルアップすればほぼ実現可能です。5~7地域の甘すぎた4等級基準が是正され、もし2025年に義務化するとしても対応は容易です。 

6~7等級は、HEAT20のG2・G3グレードと同じです(6等級の5地域だけ緩和し、4地域と同じUA値から6~7地域と同じとしています)。HEAT20というのは、国交省は民間基準と呼んでいますが、実際は省エネ基準策定に関わってきた専門家たちが、省エネ基準の体系の延長上で策定している基準です。

ここで驚くべきことに、G1~G3グレードの断熱仕様は、住宅を暖房室と非暖房室に分けて、その温度差をヒートショックを起こさない程度に小さくするという計算で決められていることです。当然G1からG3へと断熱仕様は強化されるのですが、それは温度差がより小さくなるということらしいのです。

この策定の前提は、1~2地域(北海道)以外の各地での標準暖冷房設備は居室を間歇暖冷房する方式だからというのです。そこで、居室とサニタリーや廊下、玄関などの非暖房室に大きな温度差が生じることを問題として、それを小さくしようというのです。

図1の6等級のUA値は、1~4地域ではほぼQ1.0住宅のレベル3とほぼ同程度ですが、5~7地域はQ1.0住宅のレベル2よりレベルが低くなっています。寒冷地から温暖地になると冬の外気温が上がってきますから、非暖房室の温度も上がりこういうことが起こるのだと思います。

要は、6~7等級は暖冷房エネルギーの省エネ化を目標として策定された基準ではないのです。さらに7等級にいたっては、とても実現不可能と思われるほど厳しい基準になっています。Q1.0住宅レベル4は、パッシブハウスに近いレベルとして設定しました。予算が十分あれば可能ですが、普通はレベル3で十分と考えてきました。この7等級は厳しすぎるのではないかと思います。

省エネ基準4~7等級と 
Q1.0住宅レベル1~4の断熱仕様例の比較

UA値による省エネ基準の等級が、具体的には各部の断熱工法がどうなるか、実際に120㎡一部2階建てのモデルプラン(省エネ基準の解説に例示されているモデルプラン)に、QPEXを使って入力してみました。各等級の基準値より少し小さくなるように決めています。

図2に2地域の断熱工法の仕様例を示します。

図2 2地域の省エネ基準4~7等級の断熱仕様例

Q1.0住宅のレベル1~4についても同様の仕様例を図3に示します。

図3 2地域のQ1.0住宅レベル1~4の断熱仕様例

計算されたUAとQ値、および2地域のWEBプログラムでの代表地点となる岩見沢での住宅暖房負荷を、QPEXで計算して下段に示しています。

Q1.0住宅のレベル3が私たちの主目標ですが、外壁はHGW210㎜で熱交換換気とすれば、窓をペアでレベル2、トリプルでレベル3が実現します。レベル4は、外壁を315㎜とし、床天井も強化、窓は輸入品の高性能トリプルとする必要があります。これはかなりのコストアップになります。

省エネ基準の5等級はQ1.0住宅のレベル1にもなりません。6等級がほぼQ1.0住宅レベル3と同じです。7等級は、Q1.0住宅レベル4よりさらに性能が高く、外壁の断熱厚はほぼ同じですが、そのうち100㎜分を高価なネオマフォームに変え、窓のガラスはさらに性能の高いガラスを使う必要があります。

この費用は太陽光発電に回した方がいいと私は思います。同じ7等級でも熱交換換気を採用しない限り、Q1.0住宅レベル1程度でしかありません。換気の熱損失はUA値には含まれませんから、熱交換換気を採用するかどうかはUA値には関係ないのです。省エネ基準の5~7等級の体系は何かおかしくはないでしょうか。