前回の記事では、珪藻土やモールテックスなどに代表される、水と混ぜて使う材料を用いて施工した「湿式壁」について、その特徴をインテリアコーディネーターの本間純子さんに説明していただきました。今回は、それと対を成し、住宅でよく使われる「乾式壁」の主な特徴と種類を見ていきましょう。
「乾式壁」の主な特徴
水と混ぜて使う材料を用いて施工した壁を「湿式壁」と呼ぶ一方で、材料に水を使わずに施工した壁を「乾式壁」といいます。住宅で代表的なものは「壁紙」と「木材」で、下地材に接着剤やビスなどを用いて固定します。
□意外と幅広いデザインバリエーション
乾式壁の代表的な素材は「壁紙」ですが、壁紙はとにかく色・柄のバリエーションが豊富。最近はプリント技術の進化で、コンクリートや木を模した柄もかなり本物らしく見えます。
もちろん、本物の「木材」や「ウッドパネル」を張って仕上げる方法もありますし、タイルのような意匠性と珪藻土のような消臭・調湿効果を併せ持つ「エコカラット」も乾式壁で、さまざまな雰囲気に空間を演出できます。
□工期が短くて済み、施工性が良い
乾式は気温や湿度の影響を受けないため、湿式よりも工期が短くて済み、施工性が良いのが特徴です。作業工程が少なく工期が短いことは、全体の工事期間の短縮にもつながります。
□選ぶ壁材や種類によって材料単価はまちまち
材料単価については、用いる壁材によって幅があります。一般的にビニルクロスは安価なものも多いですが、輸入壁紙やエコカラット、木材になると、必ずしも安価とは言えないものも…。建築会社の担当者に相談しながら吟味する必要があります。
住宅で使われる「乾式壁」の代表的な素材
□壁紙(クロス)
壁紙(クロス)は、布地、紙、発泡剤を含むビニル系シートなどに裏打ち紙を貼って形成します。壁面を均一に調整した石膏ボード等の下地に、直に貼って仕上げます。他の素材より安価な物が多いのも、広く使われる理由の一つでしょう。
色はもちろん、柄の豊富さは内装仕上げ材の中で群を抜いていて、多様なイメージの表現が可能です。今は、防汚性・撥水性・防炎性能など、さまざまな機能が付加されている製品もあり、選択肢が広がっています。
【布壁紙】
布壁紙は、やわらかな風合いが特徴。空間がより優しい印象に仕上がります。ただし継ぎ目(ジョイント部分)が目立ちやすく、時間とともに布の繊維が毛羽立つことがあります。表面はこすらないよう注意しましょう。
【紙壁紙】
壁紙の中でも特に、薄い仕上げ材です。凹凸の影響を受けやすいので、下地にはシビアな平滑さが求められます。
一般的に「輸入壁紙」は国産の壁紙より幅が狭いうえ、ほとんどの場合、切り売りをしていないので、必要な用尺の割り出しには要注意で、コストも割高になりがちです。また、国産の壁紙よりもリピート寸法がゆるいものが多いので、柄合わせは大きな気持ちで見るようにしましょう。
【ビニルクロス(ビニル壁紙)】
内装仕上げ材としては最もポピュラーなビニルクロス。相対的に低価格なうえ、色・柄・エンボス・機能など、目的に合わせて選択肢の幅も広い壁紙です。伸縮性があるのでジョイント部分の開きが少なく、施工性が良いのも人気を後押ししています。
色や柄が違う壁紙を平らな部分で突き合せてコーディネートする際には、厚みに注意。厚い方の切り口に汚れが付き、思いのほか目立ちます。できるだけ厚さの同じ壁紙を選んで組み合わせましょう。
ビニルクロスの中には、防炎・防火の機能を持つものもあり、住まいの安心や安全に一役買っています。住宅のキッチンの多くは、建築基準法の内装制限(壁・天井を燃えない材料にする)の対象なので、壁紙は「不燃」、「準不燃」の表示のあるものを選びます。色柄はソフトでも働きぶりはハードです。 ちなみに最近は、ペット対応の壁紙も増えていますね。
□エコカラット
「エコカラット」はタイル形状の多孔質セラミックで、下地の石膏ボードに接着剤で張って仕上げます。注目は、調湿性能の高さ。湿気は通しますが、水や汚れは通さず、程よい湿度を保ってくれます。さらには、ペットやトイレなどの気になる臭いやホルムアルデヒドなどの化学物質の低減などの機能もあって、なかなかの優れものです。
表面の汚れは水拭きできて清掃性が良く、見た目のきれいさも保てます(2019年からすべて水拭き可能になりました)。モザイクタイル形状のものから、大きな板状のものまで、デザインも豊富。価格は少々高めですが、私が担当しているお客様たちにも好評です。
エコカラットは、側面からも空気が出入りしているので、目地詰めしないのが基本ルールです。施工後に個々のタイルの隙間から、ネット張りの下地が見えることもありますので、気になる方は事前に担当者に確認しましょう。
□木材
壁面を彩る木材は目に入りやすく、インテリアのリーダー的存在になるので、床材や建具との相性を考えて選びたいところです。
【羽目板】
しゃくりを入れて重ねながら張る羽目板は、壁全面に張ることもありますが、腰壁やアクセントウォールとしての使い方が一般的です。縦方向に張ると高さが、横方向に張ると広さが強調されます。板は節や木目などが一枚一枚違っていて個性があるので、板の形状は凝りすぎない方が空間デザインのバランスが取りやすいでしょう。
【ウッドパネル・ウッドタイル】
木の板目、柾目、木口の模様を生かしたウッドパネルは、サイズもデザインも豊富。一定の規格のパネル(合板等)に化粧板やさまざまな形状の木材を張り、そのパネルを接着剤やビス、ガンタッカー等で壁下地に固定して仕上げていきます。
中にはアート作品のようなものや、額縁仕立てで重厚感があるものもあります。木は同種でも年輪や節の入り方が異なるので、その個性を生かしながら、パネルに仕立てます。オリジナルデザインのオーダーも可能です。
また最近は「ウッドタイル」を使うケースも増えています。すでに一定の面積に細かいタイルを敷き詰めてパネルにしたものや、木製タイルを一つずつ組み上げていくものなど、商品によって施工方法は異なりますが、ポイントは「凹凸のある立体的な仕上がり」。ピースごとの木目や色といった、木ならではの自然な風合いが、空間を引き立ててくれます。
端材を生かした製品も登場していて、資源の有効利用としてSDGsに即した動きの一つと言えるかもしれません。