住宅の壁の仕上げは、クロス(壁紙)が最も一般的で、なじみがある方も多いでしょう。しかし壁に使える素材は、ほかにもさまざまな種類があり、選ぶ素材によって室内の印象は劇的に変化します。そこで今回から2回にわたり、インテリアコーディネーターの本間純子さんに、住宅でよく使われる壁の仕上げ材の主な種類と特徴について解説していただきましょう。
住宅の内装仕上げ材の中で、最も面積が大きく目に入りやすいのが「壁」です。色彩や素材感からの心理的な働きかけが大きく、防火性や遮音性などの物理的機能が求められることもあります。
つくり手目線だと、壁の仕上げはその施工方法によって「湿式壁」と「乾式壁」の2つに大別されます。今回は「湿式壁」について説明します。
水と混ぜて使う材料を用いて施工する
「湿式壁」の主な特徴
水と混ぜて使う材料を用いて施工した壁が「湿式壁」です。珪藻土壁や漆喰壁に代表される左官仕上げの塗り壁、刷毛やローラーなどで塗り上げるEP塗装、タイル壁や石壁などが、湿式壁に含まれます。
□壁仕上げの工期が長めに必要
左官仕上げや吹き付け仕上げは一般的に、下地施工→下塗り(下地調整)→中塗り→上塗り(仕上げ)の順で工程を進めますが、一つの工程が完了するまで、次の工程に移れません。硬化して乾燥するまでに時間がかかるため、乾式と比べて工期が長めに必要です。
□珪藻土や漆喰などの左官仕上げは、気温や湿度の影響を受けやすい
左官仕上げは、気温や湿度の影響を受けやすく、乾燥を急ぐとクラック(ひび割れ)の原因になります。冬の始め頃から発生するクラックは、暖房による室内の乾燥が大きく影響します。暖房を入れるときには乾燥が十分に進んでいることが理想ですが、住み始めは特に加湿器などを用いて、壁にも人にも優しい湿度調整を工夫したいところです。
□一般的に乾式壁よりもコストが割高
先にも触れたように、通常の湿式壁は乾式壁に比べて工程が多く、その分手間がかかります。また湿式壁の場合、面積当たりの材料費も割高になりやすいため、全体的に乾式壁に比べてコストアップしやすいです。
ただその分、一般的な壁紙(クロス)以上の機能やインテリア性を備えているので、この先長く暮らす住まいにとって何を採用するのがいいのか、総合的に検討したいところです。LDKや水まわりなどで、部分的に用いるのも一つの手ですね。
□手仕事ならではの風合いで表情豊か
左官仕上げは、職人技がものを言います。フラットですっきりとした仕上げ、スタッコ調、刷毛引仕上げなど、手仕事ならではの世界に一つの表現が暮らしの空間を彩ります。その豊かな表情や、表面の凹凸がつくり出す独特な陰影は、湿式壁ならではのおもしろみです。
□自然素材の魅力を最大限に生かすことができる
珪藻土や石、タイルなど、素材の個性を、住空間に生かせるのも、湿式壁だからできる大きな魅力です。本物の素材を使うことで、空間により奥行きや深みが生まれます。
住宅で使われる「湿式壁」の代表的な素材
□珪藻土
珪藻土の主成分は二酸化ケイ素。多孔質(細かい穴がたくさんあること)のため、吸水性、吸放湿性に優れ、室内の空気の調整役としての機能を発揮します。化学物質なども吸収するため、いわゆる「新築臭」が抑えられます。
化学物質の吸着量には限度がありますが、吸放湿効果は継続します。なお、珪藻土など表面がザラザラした左官仕上げは、衣類が触れると毛羽立ちの原因になるので、クローゼットの内部での使用は避けたほうが良いでしょう。
□漆喰
漆喰は消石灰が主原料で、空気中の二酸化炭素と反応して硬化し、耐水性と防火性が高くなる素材です。城壁に漆喰が使われているのは、防火性がその主な理由です。調湿・消臭効果も期待できます。
漆喰は、時間の経過とともに硬化が進む性質があります。硬化するほど、音が響きやすくなります。漆喰は鏝(コテ)で磨くとやわらかな光沢が出ますし、鏝塗りで凹凸をつけた多彩な表情も魅力です。
北海道産のホタテの貝殻を原料にした漆喰や、大理石の骨材と石灰が主成分のドイツ製の漆喰など、さまざまな商品があります。
□EP塗装(合成樹脂エマルションペイント)
EP塗装(合成樹脂エマルションペイント)は0.05~0.2 ミクロンの小さな油や樹脂が水の中に分散している水性塗料です。刺激臭がないため、室内でもよく使われます。水性ですが、乾燥すると耐水性の塗膜ができるので、浴室の天井などでも使われます。
塗装面にチリやホコリが着くと、取り除くのが難しく、硬化の途中で傷はつけたくありません。「ペンキ塗りたて」の表示を見たら立ち入り禁止です。 絵の具のように色を混ぜ合わせ、自由に色をつくれますが、現場で調合した場合、同じ色の再現は極めて難しく、補修のために再調合すると微妙な色の差で補修の塗り跡が目立つ恐れがあります。
塗装はツヤ有りの方が明るく、ツヤ消しのほうが暗く感じますので、塗り板見本を用意し、色と光沢の程度を確認しましょう。
□モールテックス
モールテックスは、近年、家づくりでよく見られるようになった左官材料です。コンクリートのような無機質で独特な風合いが、今の住宅デザインにフィットしやすいのが、人気の理由でしょう。
2〜3㎜の薄塗りで仕上げますが、モルタルよりもひび割れやクラックに強いのが特徴です。また耐摩耗性があり耐水性にも優れるので、洗面や浴室などの水まわりをモールテックス仕上げにすることもできます。施工性の良さから、テーブルやキッチン、外壁などの仕上げとしても使われます。グレーのイメージが強いですが、実は色のバリエーションも豊富です。
□タイル
住宅の壁によく使われるタイルの素材は、陶器・磁器・ガラスです。下地材に接着し、目地を詰めます。タイルは耐水性に優れることから、以前からキッチンや水まわりでよく用いられていましたが、最近はリビングなどで壁面のデザインとして使われるケースも増えています。
タイルは、配色の良い目地もデザインの一部です。目地の色によって、印象がずいぶんと変わります。また振動や地震などで建物が動いたときにタイル同士が擦れて、欠けや割れが起きるのを防ぐ役割もしています。
▼タイルについては、こちらの記事もご覧ください
用途区分にも注目。知っておきたい「タイル」の話
□石
大理石、御影石、石灰岩、砂岩などの石材は、住宅の場合、タイル状にスライスして壁面に接着します。天然石は梱包を外すまで、色や柄の状態がわかりません。特に大理石は柄の入り方、色のバランスがさまざまですが、これは「天然石の個性」と理解しましょう。
凝灰岩は、日本全国に産地があります。大谷石が有名ですが、これらは一般に「軟石」と呼ばれ、加工しやすく耐火性に優れているので、建物の外装仕上げ材として使われてきました。
札幌軟石もその一つで、倉庫などの明治期の建物が現存しています。最近は間仕切りやアクセントウォール、耐火性を生かした薪ストーブの炉壁など、インテリアの素材として使われています。
軟石は石ではありますが、やわらかさや温かみが感じられる素材です。表面加工による表情の違いもおもしろく、新しいインテリアデザインの可能性を感じます。