コロナ禍でストレスが増え、家にいる時間が多くなったことの影響か、数年前から欧米では「ジャパンディ(Japandi)」がインテリアのトレンドになっています。

「Japandi」とはJapanese+Scandinavianの造語で、「日本+北欧」スタイルのインテリアのこと。北欧デザインの機能性と日本デザインの素朴なミニマリズムを組み合わせた、アートや自然、シンプルさによって心地よさを感じさせるデザインを指しています。

住宅デザインにおける「日本らしさ」はさまざまありますが、その一つが「障子」でしょう。木と紙という身近な自然素材を用いて、空間のデザインと機能に大きく働きかける「障子」は、ジャパンディスタイルにもフィットします。

そこで今回は、インテリアコーディネーターの本間純子さんに「障子」の基本について教えていただきます。使い方のアイデアのヒントに、Replan撮り下ろしの写真と併せて家づくりの参考にお役立てください!


日本伝統の高機能な建具「障子」

ときどきテレビに映る皇居宮殿や外務省の応接室は、床はカーペット敷きですが、人々の背景には「障子」が見えます。洋風に設えたクラシカルな空間にもしっくりとなじみ、公的な空間の中でさりげなく「Japan」を主張しています。

江戸時代に長崎の出島に建てられた洋館には、すでに窓ガラスが使われていましたし、窓辺にはカーテンもかかっていました。しかし、窓ガラスが今のように一般住宅に普及したのは、建物の洋風化が進んだ大正時代晩期の関東大震災以降のこと、カーテンが普及したのは昭和30年代といわれています。

その大きな理由の一つが、「障子」の存在です。障子は、採光・換気・調湿・通気などいくつもの役目を担う、軽くて扱いやすい高機能な建具。材料も調達しやすく、日本の気候風土に合っています。

また、「明かり障子」と呼ばれていたように、明かりは和紙を透過し室内に拡散されます。この室内を満たし、心地よい陰影を生むやわらかな光も、障子の大きな魅力です。

また、障子はかつては遣戸(やりど/板の戸)と組み合わせて使用したので、風雨の日も夜間も不便はありませんでした。雨戸が使われるようになって以降、障子は室内建具となり、現在のような使われ方が定着しました。

デザインいろいろ。障子の種類

障子は、横に渡した桟(上桟と下桟)と竪框からなる木の枠の内側に組子を配し、背面に和紙を貼ったシンプルな建具です。桟の組み方やバランスによって印象が変化し、空間に合わせてデザインすることができます。

障子を構成するパーツの名称
障子を構成するパーツの名称

基本形は「腰付障子」と「水腰障子」

雨などで傷みやすい下部に板を入れた「腰付障子(こしつきしょうじ)」は室町時代に考案されました。この腰の部分に板を付けず、全面に紙を貼った障子を「水腰障子(みずこししょうじ)」といいます。 現在はサッシ窓の室内側に障子を入れるため、水腰障子を用いるのが一般的です。

傷みやすい建具の下部に板などを張った障子
傷みやすい建具の下部に板などを貼った障子
「腰を見ない」障子とも伝えられている。組子のデザインには関係なく、腰板を入れずに上桟から下桟まで障子紙を張ったものを指す
「腰を見ない」障子とも伝えられている。組子のデザインには関係なく、腰板を入れずに上桟から下桟まで障子紙を貼ったものを指す

建具の下部を襖紙を貼って仕上げた腰付障子
建具の下部に襖紙を貼って仕上げた腰付障子
シンプルで空間にすっとなじむ水腰障子

今の住宅になじむデザインが人気の「荒組障子」

組子の間隔が大きいものを「荒組障子(あらぐみしょうじ)」といいます。モダンなインテリアのテイストになじみやすいため、最近の住宅で障子を採用する際に人気です。

「荒間障子」「大間障子」とも呼ばれる。竪横の組子の間隔が大きいのが特徴で、モダンなインテリアにも合わせやすい
「荒間障子」「大間障子」とも呼ばれる。竪横の組子の間隔が大きいのが特徴で、モダンなインテリアにも合わせやすい
大きな窓に合わせてつくられた荒組障子。北欧テイストのモダンなインテリアとも相性が良い
大きな窓に合わせてつくられた荒組障子。北欧テイストのモダンなインテリアとも相性が良い
正方形に近い荒組障子が、空間をモダンな印象に引き立てる
正方形に近い荒組障子が、空間をモダンな印象に引き立てる

トラディショナルな印象を強める
「横組障子」と「竪組障子」

水平方向の組子が多いものを「横組障子(よこぐみしょうじ)」、垂直方向の組子が多いものを「竪組障子(たてぐみしょうじ)」といいます。組子の間隔が狭いものや技巧的に凝ったデザインのものは、伝統的な和室のニュアンスが強くなります。

障子の一枡を横長に組んだもの。並組障子とも呼ばれる伝統的なデザイン
障子の1マスを横長に組んだもの。並組障子とも呼ばれる伝統的なデザイン
障子の1マスを縦長に組んだもの
古民家の佇まいを今に伝える横組の腰付障子
職人の技が光る障子も、デザインによってはモダンなインテリアに調和

眺望や明るさをコントロールできる「雪見障子」

「雪見障子(ゆきみしょうじ)」は、一部に透明ガラスをはめた「摺上げ障子(すりあげしょうじ)」や「猫間障子(ねこましょうじ)」の総称です。小障子を上にスライドさせて眺める外の雪景色はなかなか風情があります。なお、小障子がなくても、ガラスが入った障子を雪見障子という場合もあります。

「上げ下げ障子」とも呼ばれる雪見障子の一種。一般的に障子の下半分に透明ガラスをはめ、 小障子を摺上げて雪の風景を楽しむためのもの
「上げ下げ障子」とも呼ばれる雪見障子の一種。一般的に障子の下半分に透明ガラスをはめ、小障子を摺上げて雪の風景を楽しむためのもの
障子の一部にガラスをはめ込んだもの。これも雪見障子の一種。地方によって呼び方に違いがある
障子の一部にガラスをはめ込んだもの。これも雪見障子の一種。地方によって呼び方に違いがある
障子を上に上げると、中庭を挟んで向かいの屋内の様子が感じられる
小障子を上げるとより明るい光が射し込み、中庭を挟んで向かいの屋内の様子が感じられる
この家の場合、雪見障子は縁側の方がガラス面になっている
敷き込んだ畳に座るとちょうど目の高さに、気持ちがいい庭の景色が広がる
敷き込んだ畳に座ると、ちょうど目の高さに気持ちがいい庭の景色が広がる

場合によっては樹脂製も。「障子紙」の素材

障子紙には、和紙が多く使われています。和紙は濡れているときに押すと簡単に穴が開いてしまいますが、乾いていると意外と丈夫です。かつて「障子の貼り替え」は年末の大掃除の作業の定番でしたが、今はこうした風景はあまり見なくなりましたね…。

昔の家では、このように障子に開いた穴を繕った跡が見られることもしばしば…
昔の家では、このように障子に開いた穴を繕った跡が見られることもしばしば

和紙には固有の趣や魅力がありますが、最近の家づくりでは破れにくさや燃えにくさなどの機能性を重視して、樹脂をベースにした障子紙を選択することもあります。手漉き和紙風のデザインなどバリエーションもありますので、暮らし方や好みに合わせて選ぶといいでしょう。

「桟」の表と裏の考え方

日本の住宅の伝統的な考えに基づくと、和室は座敷の方が格が上で、廊下や縁側は格が下とされます。そのため障子は、桟が見える表面を座敷側、障子紙が見える裏面を廊下側に見せるつくりにします。

ただ、今の住宅で空間の格の上下を考えることは稀です。特にリビング続きの和室は表裏がつけにくく、桟をどちらに向けるかは悩ましいところ。障子は両面に桟を設けることもできますので、気になる方は、設計士やインテリアコーディネーターに相談してくださいね。

この住宅では、リビング側を「表」として障子紙を貼って仕上げている

日本の住まいはよく「木と紙でできている」といわれます。障子はまさにその代表格で、組み合わせのシンプルさ故に、アースカラーをベースにしたモダンなインテリアと調和します。

実際、今注目の「ジャパンディ」スタイルのインテリアとも、相性は抜群。フローリングにもカーペットにも似合う汎用性を備えた「障子」は、時代も地域も超えて愛され続けている日本ならではのアイテムです。

冬が長い北海道。北欧のライフスタイルに共感するところが多いせいか、ジャパンディなインテリアテイストは、すでに多くの北海道の注文住宅で実践されているような気がします。

「障子」は、日本を主張しすぎないデザインの普遍性が、北欧インテリアとの相性の良さにつながっています。今、家づくりを検討中の方は、障子を取り入れることを検討してみても良いのではないでしょうか。