近現代に至るまで、世界では様々な芸術ムーヴメントが興っては消えていった。その最初のものと考えられるのがイギリスで誕生した〈アーツ・アンド・クラフツ運動〉だ。蒸気機関の発明は産業革命を生み、石炭火力を動力源とした機械工業からは粗悪な大量生産が行われ、都市では深刻な環境の悪化を招いた。今日の温暖化の起点となったのだ。そんな中から生まれたのが、ウィリアム・モリスやジョン・ラスキンらによって中世の芸術や工芸に対する精神と、社会がそれらを受け入れ、理想的な融合を実現していた頃に戻るべきだとする運動であった。
その後、日本の芸術文化がヨーロッパに大きな影響を及ぼした〈ジャポニズム〉や、そこから派生した浮世絵の曲線や、蔓生植物に見られる美しい曲線を採り入れた〈アール・ヌーヴォー〉がある。機能性を無視したアール・ヌーヴォーに替わり、ウィーンではオットー・ワーグナーやヨーゼフ・ホフマンらが曲線美を否定し、直線的で幾何学的なモチーフを活かした作品を発表。過去の芸術様式からの離別を意図した〈ゼツェッション=分離派〉を立ち上げた。
この分離派の中からウィーン工房が設立され、工房作品は1925年、パリの国際装飾美術展に出品され高い評価を得た。この展覧会の略称としてアール・デコ(アール・デコラティフ=装飾美術)と呼ばれる芸術様式が生まれたのである。この様式は別名、1925年様式とも呼ばれるもので、ガラス器や陶器をはじめ、テキスタイル、家具、ファッション、グラフィック、建築など、ありとあらゆる分野にその様式が採り入れられた。その特徴は直線と曲線をバランスよく組み合わせた造形と、高価な材料が惜しみなく使われていたことである。
例えば、象牙やニシキヘビの革、ヒョウや羊の胎児の毛皮、黒檀や紫檀、銀やクロームメッキのスチールなど、そして写真の作品に使われているガルーシャ(サメやエイの革を加工したもの)が家具の材料として使われた。そのためアール・デコ様式は富裕層のための様式とも言える。NHKで放映された「名探偵ポワロ」はアール・デコの時代を舞台としたもので、イギリスならではの見事な時代考証に基づき、登場人物のファッションからインテリアコーディネートまで当時の時代風景が完璧なまでに再現されていた。
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今回紹介する長財布は先に述べたガルーシャである。高級皮革としてアール・デコ様式時代によく見られたが、その加工が難しかったのかこの素材が後に使われることはなかった。写真の財布はイタリアのシルヴァノ・ビアジーニ社が現代に蘇らせてくれたものだ。同社のものはエイの革を使ったものでビーズか真珠をちりばめたかのような美しさである。
特に目立つ白い点はエイの感覚器官の部分である。アール・デコの時代にはガルーシャを全面に貼ったキャビネットやチェストが多く作られたが、それら当時のオリジナルの家具がオークションに出品されると億単位の落札額になっている。今も昔もアール・デコは富裕層に支持されている。
■ガルーシャ財布
メーカー:SILVANO BIAGINI(シルヴァノ・ビアジーニ)
商品:ジップアラウンド長財布素材:レザー100%
カラー:NERO、BLUETTE、T.MORO、LAMPONE
サイズ:W18.9㎝×D2.2㎝×H10㎝
重量:270g
価格:49,770円(税込)
<問い合わせ先>
(株)VIAJERO
https://viajero.co.jp/search?type=product%2Carticle%2Cpage&q=silvano