おうち時間を心豊かに楽しくする、また災害時の備えにもなる暖房ツールとして、薪ストーブが注目されています。暖房に、薪ストーブとセントラルヒーティングや温水パネルヒーターなどを併用したお宅も増えています。
そこで今回は、冬の暮らしをより快活にする暖房計画のポイントや薪ストーブとパネルヒーターの組み合わせの利点などにフォーカス。ピーエス株式会社の企画開発・営業リーダーの弘田七重さんに、空気環境・温熱環境のプロとしての立場からお話しいただきます。
薪ストーブは冬を楽しむ
暮らしのツールという考え方
近年、新築やリノベーションのプランづくりのなかで、薪ストーブを採用したいという声がたびたび聞かれます。かつての日本の住宅では、囲炉裏や火鉢などの火に当たって体を温める「採暖」が主流でした。薪ストーブに惹かれる人が増えているのは「日本人が古くから慣れ親しんできた採暖生活への回帰、DNAのなせる業ともいえるかもしれません」と、弘田さんは分析します。
その一方で、最近は共働きのお宅が増え、昼は誰もいないということが普通になりました。一日の中で冷え込みが厳しくなり、室温がぐっと下がる頃、家族が次々と帰宅。もし、薪ストーブだけで室温を整えることにこだわり過ぎると、火の気のない家に帰るのが少し憂鬱になって、暮らしを潤すものではなくなってしまうかもしれません。
「私たちが暖房計画の相談を受けた際には、薪ストーブ以外の暖房システムと併用し、家族が集まる時間の楽しみの一つとして使うことを勧めています」。薪ストーブにパネルヒーターを組み合わせ、昼間や就寝中はパネルヒーターで室内が冷えすぎないように緩やかに暖め、最も冷え込む家族の在宅時間に薪ストーブの炎と温もりを足すと、立ち上がりの早い薪ストーブが効果を発揮するのだそう。「それだけで、長い夜が非日常に変わります。現代の薪ストーブは、暖房からさらに一歩進んだ冬の暮らしを楽しむためのツールの一つだと私たちは考えています」。
室温変化の波を整えて
冬の暮らしをアクティブに
では、冬の快適な暮らしを支える「暖房」とは、どのように定義づけられているのでしょうか。「寒く暗い冬の夕暮れ、帰宅後すぐにコートを脱いでリラックスでき、家族みんなが自然と快活なおうち時間を過ごせる。それが冬の快適な室内環境を実現する“暖房”です」。
その原点となったのが、1960年代のヨーロッパで既に普及していた美しい暖房システムだったといいます。「私たちは、当時の日本にはなかった部屋全体を暖める“暖房”という考え方を学びました」。そして「天井・床・壁を冷やさない」「コールドドラフト(暖かい室内の空気が冷たい窓ガラスに触れて冷やされ、床面に下降する現象)を防止する」「寒い場所をつくらない」「寒い時間をつくらない」「空気をかき混ぜない」という「五つの原則」をベースに、季節によって多様に変化する室内環境の波をコントロールするセントラル暖房システムを提案。これによって「室内でも寒く、活動的な暮らしができなくなる日本の冬の当たり前を変えることができた」といいます。
冬は30~60℃の温水が循環するパネルヒーターを24時間運転することで、常に室内は春のような暖かさが保たれます。大きな窓や吹き抜けを設けたリビング、平屋などの水平方向に奥行きがある住まいも隅々までムラなく暖められるのも、このシステムの特徴。さらに、薪ストーブを組み合わせた場合も、薪火で室温が上がると、自動でオフになり、エネルギーの無駄遣いをする心配もありません。
最適を見つけて組み合わせることが
エコで快適な冬を実現するカギ
薪ストーブのある暮らしを楽しむために、暖房計画と一緒に考えておきたいのが換気計画。新しい生活様式の浸透で、健康的な室内環境を保つために24時間換気を止めてはいけないという認識が高まりました。
高断熱・高気密の住まいに薪ストーブを採用する際には特に、室内が負圧になりすぎないよう、適切に給気口を設ける必要があります。給気が十分でない場合、薪が良く燃えず、煙が逆流したり煙突の汚れや燃焼トラブルの原因になり、メンテナンスにも手間がかかります。薪ストーブの燃焼のシステムや正しい使い方をきちんと理解することも、薪ストーブを暮らしの楽しみにするためにはとても重要です。
「私たちが薪ストーブ併用の暖房・換気計画を考える際には、空気の流れを確認し、PS HRヒータ(パネルヒーター)の特徴を生かして給気(冷気)を緩和する配置計画を提案するなどしています」。
換気に十分な配慮をしながら、セントラル暖房システムで快適な室温の70〜80%をカバーし、薪ストーブの温もりを日々の暮らしの楽しみとして加える。「上手に組み合わせて、より一層快適でエコな暖かさをつくる」という考え方も、冬の暮らしを心豊かなものに変える暖房の極意といえそうです。
ピーエスの暖炉
PSマダガスカルの薪ストーブ
(文/Replan編集部)
取材協力/ピーエス株式会社