デカスロンでも太陽熱は高評価

先のソーラーデカスロンは6月下旬から7月上旬の開催だったため、太陽熱の提案は多くありませんでしたが、いくつか事例をあげておきます。図11のオランダ(総合3位)は典型的な既築レンガ造りのテラスハウスの改修案で、北面は通常の断熱改修を行い南側にガラスの温室を追加した「スキンのある家」。図12のスペイン(総合10位)は低所得の若年者向けの共同ワークプレース案で、ポリカーボネートのダブルスキンを採用した太陽熱活用を提案していました。

図11 スキンのある家
図11 スキンのある家
南側に温室を敷設する「ありがち」な提案ですが、非常に高評価でした。建築と一体化した提案であること、断熱が難しい既築レンガ造に取り組んでいることがアピールしたのでしょう。
図12 低コスト ダブルスキン
図12 低コスト ダブルスキン
半透明のポリカーボネートの2層構造で、夏冬に室内環境を制御します。経済状況の悪い南欧の提案は学生の問題意識も鋭いためか、高い評価を受けていました。

日本と同様に地震が多いチリ(総合6位)は、図13のようにユニット化された仮設住宅を提案していました。被災直後は最小限の生存モジュールで寝る場所をまず確保し、次に設備モジュールで空調や給湯を追加。さらにリビングモジュール、仕上げにサンスペースで太陽熱や電気をまかなうものでした。

図13 成長するソーラー仮設住宅
図13 成長するソーラー仮設住宅
災害対応系で最高の評価を受けていた物件です。最後に追加されるサンスペースには屋根に太陽光発電、南面には空気集熱暖房器とダイレクトゲイン、そこに水ボトルの蓄熱が加味されており、低コストながら理にかなった設計になっています。

いずれも後付設備のアドホック的にとどまらない「建築と一体化した」提案であり、そして少ない資源で利用できコストリーズナブルであることが、審査員から高い評価を受けていました。

ちなみに図14のような普通の太陽熱温水器も地味ながら、インド・タイ(総合17位)やアメリカ・ドイツ(総合14位)で展示されていました。そのほとんどが安価な真空管式で、コストパフォーマンスの高さから、特に中国やトルコ・インド・ブラジルのように平均所得が比較的低い地域で普及しています(図15)。

図14 太陽熱給湯設備
図14 太陽熱給湯設備
非常に地味ですが、太陽熱給湯設備は必須アイテムです。海外ではほとんどが真空管式のため、屋根においたり壁に垂直に設置してみたり、思い思いの場所に置かれていました。
図15 太陽光発電と太陽熱の現状
図15 太陽光発電と太陽熱の現状
太陽光発電が普及しているのはドイツやイタリアなど先進国が中心ですが、太陽熱給湯はコストパフォーマンスの良さから低所得の国で普及しています。世界規模でみれば、太陽熱は決して終わった技術ではありません。

このように、太陽熱は日本で見れば「死に体」ですが、海外では全く事情が異なることが分かります。

太陽エネルギー活用はフレキシブルに

日本の現状は太陽光発電一本槍ですが、こうした政策誘導の話は将来どうなるか分かりません。かつての原子力発電のように、1つの技術に全てを期待するべきではありません。地域の気候や部材の進化・ユーザー志向に合わせ、多種多様でフレキシブルな提案が増えていくことが重要ではないでしょうか。

ソーラーデカスロンが2013年には中国大会で開催され、2016年には南米大会が予定されているように、その取り組みは世界中にどんどん広がっています。日本からも太陽エネルギー活用に向けた、様々な提案が発信されていくことを期待しましょう。

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※次回のテーマは<「湯水のごとく」なんてとんでもない! 給湯こそ省エネ・健康のカギ>です。

【バックナンバー】
vol.001/断熱・気密の次の注目ポイント!蓄熱大研究
vol.002/暖房の歴史と科学
vol.003/太陽エネルギー活用、そのファイナルアンサーは?

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