太陽熱暖房を入れるなら、まず暖房熱負荷の削減を
なぜ太陽熱暖房は一番不利なのでしょうか。当たり前のことですが、暖房は冬だけに大きな熱負荷が発生する一方で他の季節には必要ありません。冬だけのためにコストをかけて大きな太陽熱集熱を設けると、他の 季節には役に立たないので不経済になってしまいます。太陽熱暖房を成り立たせるには、なにより断熱を強化して冬の熱負荷を減らすことが先決なのです。
太陽熱給湯はかつてのエース
同じ熱利用でもお湯は年間を通じて消費されるので、太陽熱給湯の方が恩恵は大きく元を取りやすいことになります。
太陽熱給湯には「太陽熱温水器」と「ソーラーシステム」の2種類があります。そのうち太陽熱温水器は集熱部と貯湯が一体化した方式で、水の熱サイフォン効果で湯をつくります。素朴でシンプルな分コストが安く、設置工事を含めても30万円程度で導入が可能です。導入コストが低い割に燃料費の削減効果も大きく、「元が取れる省エネ」としてオイルショック直後は年間80万台を出荷するベストセラーになりました。
ただし給湯の熱負荷は夏に少なくなるため、オーバーサイズの機種を導入すると夏にお湯が余ります。お湯が余ったところで、お隣さんにおすそ分け…という訳にもいきません。普通の4人家族では、年間でお湯が余らない集熱面積4〜6㎡が一番経済的……ということに落ち着きます。
結局、太陽光発電が一番「無難」
このように、太陽熱利用は熱負荷の季節変化の影響を受けやすい、太陽熱が余ったらムダになるだけ損、ということが大きなネック。コスパを考えると、「ほどほどのサイズ」に抑えておくのがベターです。
太陽光発電では、こうした弱点はありません。電気はいつの季節でも必ず必要ですし、なにより余った電気はいくらでも系統に逆潮できます。唯一の問題は導入コストの高さでしたが最近ではかなり安価になっており、しかも誘導政策のおかげで割高に売電できるのですから、元を取るのは簡単です。太陽光発電は屋根の面積とお金が許す限り、目一杯載せるのがベスト、という結論になります。
太陽熱の効率は太陽光発電の3倍以上?
太陽熱の擁護論として、「太陽熱の効率は太陽光発電の3倍だから有利」という話があります。たしかに、太陽光発電(PV)は太陽エネルギーのうち一部の波長しか利用できないため、一般的に太陽エネルギーの10%少々しか電気に変換できません。
太陽熱の利用はもっと簡単です。ここでのキーデバイスはガラス。ガラスは日射を取り入れつつ熱を逃さない「一方通行」つまり温室効果がありますから、入射した日射の40〜50%程度を熱として取得できます。
では、太陽熱の方が太陽光発電よりも優れているのでしょうか。話はそんなに簡単ではありません。確かにPVの発電効率は10%そこそこですが、連載2回目で触れたように、電気はとても価値の高いエネルギーなのです。図2を見てみましょう。
電気と熱は価値が違う
電気と熱を作るのに必要な化石エネルギーの量で比較しましょう。詳細は図を見てください。火力発電所の効率を37%・ガス給湯器やファンヒーターの熱効率を80%とすると、太陽熱と太陽光発電の効率差はだいぶ小さくなることが分かります。
ここでダメ押しなのが、ヒートポンプです。特に最近のエアコンでは、1の電気で6程度の熱を得られます。こうなると、「太陽光発電の電気でエアコン暖房をする方が得」、という大逆転が起きてしまいます。このように、電気と熱は質が全く違います。ヒートポンプがなかった時代ならいざ知らず、集熱効率と発電効率の単純比較を根拠に太陽熱の有意性を主張するのは今や無意味なのです。
太陽光発電+ヒートポンプ 太陽熱大ピンチ?
90年代以降、太陽熱メーカーがのんびりしている間に、競争力をつけた太陽光発電が屋根を埋め尽くしていきました。そこにヒートポンプがとどめを刺します。暖房にエアコンが使われ出し、太陽熱の牙城であった給湯も、エコキュートが深夜電力利用によるコストメリットで制圧しました。かつてのベストセラー太陽熱温水器も、現在の売上は年間5万台程度で見る影もないのが現実です。
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