現行省エネルギー基準の問題点
現行省エネルギー基準の問題点として私が感じていることを列挙してみます。
①省エネ基準の体系が難解すぎること
住宅分野での省エネルギーを強力に推進しなければいけないことは、住宅を建てようとするユーザーを含めて誰もが痛感していると思います。しかし、省エネ基準の住宅とはどのような住宅になるかユーザーは必ずしも理解できているとは限りません。設計事務所や工務店などの専門家でも、体系を理解できている人は少ないのです。
1999年の省エネ基準の解説書は340ページでしたが、2014年には1000ページを超え、ますます難解になりました。省エネ基準を制定して実施する目的は、広く省エネ住宅を建設することにあります。それに関わるユーザーや建築関係者がもっとシンプルに理解でき、その住宅を建てると暖冷房費はどの位かかり、どのような暮らしが実現するかを具体的に示すものでなければいけないと思います。
②省エネ基準適合判定の簡易法は不公平
省エネ基準に適合するかどうかを判定する簡易な方法もいろいろと提示されています。工務店などにとっては書類作成が簡単になりありがたいのですが、省エネ住宅に対して用意される補助金などの申請にはUA値などの数値が必要になります。その計算に簡易法を使うと、不利になることが多いのです。これも省エネ基準が難しくなりすぎたことの弊害なのです。
③省エネ性能をUA値で測るという誤解
私はこの連載で、住宅の省エネの目的は暖冷房エネルギーなどの削減にあるが、UA値でその性能は測れないということを主張してきました。住宅の省エネ手法として有力な、太陽熱を効率よく取り込み省エネを図るパッシブデザインは、南面の窓を大きくしたりしますが、そうするとUA値は大きくなります。また熱交換換気の採用は20%程度の暖房エネルギーを削減しますが、UA値には影響しません。UA値は住宅躯体の熱損失が大きいかどうかだけを測る数値でしかないのです。
④住宅の性能仕様としての暖冷房方式を全室暖冷房に統一すべき
1999年の次世代住宅省エネ基準に対して、私は、本州の基準が低すぎると批判しました。せめて、夜は暖房を止めるが、生活時間帯は全室暖房に近い生活をしても暖房エネルギーが増えないレベルまで引き上げるべきという主張をしました。直接聞いたわけではありませんが、当時の建設省の答えは、本州以南では北海道のような全室暖房は誰も望んでいないということでした。今でもこの考えが国の根底にあるような気がします。
私たちがこれまでに建設した本州の住宅では、ほとんどの人が全室暖房に近い生活をして、その快適性に喜んでいます。省エネ基準レベルで建てられた住宅も、その多くは同じで、その結果、省エネ基準住宅は増エネ住宅と化しているのです。
WEBプログラムでも暖冷房エネルギーを計算してくれます。しかしその入力項目には居室のみ24時間連続暖房とするか、間欠暖房にするかの選択を強いられます。何よりも暖房設備としてストーブやエアコンを選択すると、自動的に間欠暖冷房となります。全室暖冷房はダクト式エアコンを選ぶしかありません。
私たちは、ストーブやエアコン1~2台で全室暖冷房の住宅をよくつくりますが、その計算はできないのです。何よりも問題なのは、この入力をするのは設計者です。居住者ではないのです。間欠暖冷房で省エネ基準として認定された住宅に、居住者が全室暖冷房の生活をしてしまえば、WEBプログラムの計算結果は有名無実になってしまいます。
WEBプログラムの目的は、住宅の省エネ性能を測ることです。居住者の生活の省エネ度を測るものではありません。そのためには、暖冷房方式を全室暖房に統一するしかないと思います。