普段から日常的に使っている「建具」ですが、実はさまざまな種類があるということにみなさんはお気づきでしょうか。家づくりにおいて、どこにどのような建具を用いるかは、暮らしやすさを左右する重要なポイントです。そこで今回は、プランニング中に間取り図を見るのにも役立つ「建具」の基本について、インテリアコーディネーターの本間純子さんに解説していただきましょう。


建物の開口部と建具

建築では、建物の出入り口や窓のことを「開口部」と呼びます。開口部とはいわば、人や空気、光を通すための「壁の開き」。建物をつくるときは、そこにドアや窓ガラスを取り付けることで風雨や暑さ・寒さ、埃や音などを遮蔽し、私たちの健康で安全な暮らしを保っています。

そして、屋内で部屋と部屋をつなぐ「開口部」に取り付けるドアや扉を「建具(たてぐ)」といいます。建具の主な役割は、それぞれの空間を仕切って独立した部屋や空間をつくることです。

建具は、家に合わせてオーダーメイドでつくる「造作建具」とメーカーが販売している「既製建具」があり、素材もデザインも多種多様ですが、今回は建具の開閉方式ごとに、住宅で特によく使われる「開き戸(ドア)」「引き戸」「折りたたみ戸(折戸/フォールディングドア)」の3種類について、それぞれの特徴を見ていきましょう。

開き戸(ドア)

■開き戸(ドア)の特徴

現代の住まいの開き戸のほとんどは、建具枠に固定された蝶番(ちょうつがい、ちょうばん)を軸にして扉が回転するタイプです。一般的に「ドア」と呼ばれ、明治期以降の建物の洋風化とともに普及しました。ちなみに仕組みは違いますが、開き戸は実は平安時代の住まいにも登場しています。開き戸(ドア)は雨仕舞いがよく気密性も高いことから、現在の寒冷地の住宅の玄関には、開き戸(ドア)が圧倒的に多く採用されています。

玄関ドアも種類が豊富

一方、24時間換気システムで家の中の空気を循環させるため、近年の室内建具は床との間に1 ㎝ほどの隙間をあえて設けています。機械換気が一般化する以前は、ドアの下に沓摺(くつずり)と呼ばれる下枠が付くのが一般的で、音や空気の流れを遮断する役目を担っていました。暮らしとともに、建具の有り様も微妙に変化しています。

ドアの下に1cmほどのスリットを設けて、各部屋の空気を循環させるのが今は一般的
ドアの下に1cmほどの隙間を設けて、各部屋の空気を循環させるのが今は一般的

■開き戸(ドア)の主な種類

□片開きドア

開き戸(ドア)は、主に3種類があります。まず最もポピュラーなのが、1つのドア枠に1枚の開き戸をセットした「片開きドア」。一般に「ドア」といってイメージされるのは、これでしょう。

アンティークな デザインの建具
寝室を素敵に演出するアンティークなデザインの片開きドア
シューズクロークの出入り口に片開きドア
シューズクロークの出入り口に片開きドア
デザインや機能をカスタマイズした製作の片開きドア
デザインや機能をカスタマイズした製作の片開きドア

□両開きドア

1つのドア枠に同じ幅の2枚の扉が収まっている「両開きドア」は、別名で観音開き戸ともいわれます。左右対称形で開口部の幅を広く使うこともあり、ホテルやレストランの玄関など豪華なイメージが強いですが、一般住宅でも、玄関や収納など使い方次第で暮らしの利便性を高めてくれるドアです。

片開きドア1枚では対応できない広めの開口部に、両開きドアを設置。バイクの出し入れがしやすい
設計によっては、収納の使い勝手も改善される

□親子ドア

通常のサイズのドアと幅の狭いドアを1組にした「親子ドア」は、玄関ドアやリビングドアとして使われることがあります。開口部を広めにできるので、大きな家具などの出し入れに便利です。通常は小さい方の扉はフランス落としなどで固定し、片側のみを開閉して使います。

土間でバイクのメンテナンスができるよう、玄関に親子ドアを採用した住宅の例
土間でバイクのメンテナンスができるよう、玄関に親子ドアを採用した例
玄関とLDKをつなぐ開口に親子ドアを設置。ステンドグラスのガラス窓がインテリア性を高める

引き戸

■引き戸の特徴

戸を左右に移動して開閉する「引き戸」は、長く日本の住まいで使われてきたなじみ深い建具。前後に開閉する分のスペースが不要で、力の弱い子どもや高齢者でも使いやすいのが大きな特徴ですが、採用するには引き戸を収めるために、その戸と同じ幅の壁や空間を確保する必要があります。

昔ながらの障子戸は、日本人に馴染み深い「引き戸」の代表格
昔ながらの障子戸は、日本人になじみ深い「引き戸」の代表格

引き戸には、敷居や床レールの上を移動する「戸車式」と、上レールで戸を吊ってスライドさせる「上吊り式」の2種類があります。「戸車式」は荷重が下で動きが安定するのが大きな魅力。ただ、人が床レールの凹凸でつまづきやすかったり、キャスターの動きが妨げられたりする側面もあります。

敷居や床レールを戸車で移動させるタイプの引き戸で、LDKと和室を仕切った例
敷居や床レールを戸車で移動させる「戸車式」の引き戸で、LDKと和室を仕切った例
わずかな段差ができることもあるので、つまづきに注意
動きが安定する一方で、わずかな段差によるつまづき事故に要注意

「上吊り式」は、戸の上部に付けた吊り車が上レールを移動して開閉するタイプの引き戸。動きが軽く、平滑な床面がバリアフリー対応として好評で、今の住宅では採用される場面が増えています。ただし上吊り式は引き戸本体が床から浮いていて、強く押したり、寄りかかったりすると壊れやすいので、扱いに気をつけましょう。

シューズクロークの出入り口に上吊り式の引き戸を採用した例。こういった場所でも使用できる
シューズクロークの出入り口に上吊り式の引き戸を採用した例。こういった場所でも使用できる

■引き戸の主な種類 

□片引き戸

横の壁に戸をスライドさせる「片引き戸」は引き戸の基本形です。レールもしくは敷居が1本で、通常、縦枠の間を行き来します。最近は開口部上に吊りレールを付け、戸をスライドさせるアウトセットタイプもありますが、壁と戸に隙間ができるので、部屋の中が見えてしまうことがあります。取り付け箇所にはご注意を。

開口部上に吊りレールを付け、戸をスライドさせるアウトセットタイプの片引き戸
玄関とシューズクロークの間に、チェッカーガラス入りの細身の片引き戸を設置

2本、3本のレールや敷居それぞれにある戸がスライドする2枚片引き戸、3枚片引き戸(2本引き、3本引きと呼ぶこともあります)は、すべての戸を片側に寄せると、大きな開口をつくることができます。リビングと畳コーナーなど部屋同士の間仕切りのほか、収納や浴室などでも重宝されています。

3枚引き戸を開け放てば、物の出し入れがスムーズにできる
浴室を3枚引き戸にすると、車椅子でも出入りしやすい広さを確保できる

□引き込み戸

戸を隣り合う壁の中に滑り込ませる引き込み戸は、双方の部屋に壁が必要な場合や、お部屋をすっきり見せたいときに便利な引き戸です。引き込んだ状態では戸が入り込んで見えなくなってしまうため、戸の木口に付けた金具(回転引手や半回転引手)で収納した戸を引き出します。

戸を壁の中に収納することで、
広々としたひとつながりの空間に
引き込み戸は、掃き出し窓でよく用いられる

□引き分け戸

引き分け戸は1本のレール上にある2枚の戸を、左右の壁やはめ殺し戸に重ねることで大きな開口部を確保できる引き戸です。かつての日本家屋では、幅二間の立派な和風玄関に見られますが、広いスペースが必要なため、現代の住宅では出番が少し減っています。

敷居がなくても引き戸を使えて、インテリア性も高められる
引き分け戸で仕切ることで、ダイニングキッチンとリビングを緩やかにゾーニング

□引き違い

引き違い戸は2本のレールそれぞれにある戸を左右に移動して開け閉めをします。どちら側の戸からも出入りが可能です。戸を取り外すと、開口部が大きくなるので大きな家具を入れるときにも便利です。

最近の住宅で引き違い戸が使われるのは、主に収納や押入れの扉が多い
玄関との出入り口に障子戸の引き違い戸。取り外して間口を広くするのも容易

折りたたみ戸(折れ戸/フォールディングドア)

半幅の扉を蝶番で連結し、扉についたローラーが上部のレール内を滑ることで開閉する建具です。連結した一対の扉を移動させることも、片側を固定することも可能です。建具を折りたたむと大きな開口がつくれるため、間仕切りやクローゼットに使われます。

開き戸(ドア)より可動域が小さくて省スペースで、配置した家具への扉の干渉を抑えられるのが魅力。ただしクローゼット内にチェストなどを置く場合は、引き出しが扉に当たらないように、扉を畳んだ分の寸法幅を考慮しましょう。

ベッドサイドの幅が狭くても、折りたたみ戸なら不自由なくクローゼットを使いやすい
壁面いっぱいに連結させて用いることもできる
壁面いっぱいに連結させて用いることもできる

このように家の中では、場所や使い勝手によってさまざまな建具を使い分けています。今回ご紹介した建具の種類や特徴を念頭に、今住んでいる家での使いやすさや不便さを見直し、新しくつくる住まいに最適な建具選びをしてくださいね。