外で遊ぶ子どもたちをリビングやキッチンから見守る。お花や木々の四季の移ろいを感じる。周りの視線を気にせずにバーベキューを楽しむなど、緑豊かな庭のある暮らしは、戸建ての家づくりの憧れのひとつではないでしょうか。
リプランの取材先では、隣家との距離が近くて、広い土地を取得しづらい都市部でも不利な条件を克服して居心地を良くした住まいがあります。そこで今回は、厳しい土地条件でも設計的な工夫で庭・緑のある暮らしを上手に実現した3軒のコートハウスをご紹介します。
※掲載方法の都合上、図面の縮尺は一定ではありませんので、ご了承ください。
変形敷地の難点をクリアした
小さな中庭のある住まい
新居の土地を探していたNさんご夫妻にとって、実家や夫婦それぞれの職場までのアクセスはとても大事。当初から緑豊かな郊外に住むことは諦めていました。利便性を優先して見つけた土地は、JR駅から程近い住宅地にある約40坪の台形の変形地。制限の多い敷地条件ではありますが、せめて小さくとも庭はほしいと思っていたといいます。
完成したのは、敷地の形状に合わせた斜めのラインが印象的な五角形の住まい。開口部がほとんどなく、閉ざした道路側からは、少しだけ中庭の緑がのぞきます。「つくり込まれたガーデンや庭園のような庭ではなく、雑木林のようなさりげなさが好きなんです」と話す奥さんの要望に応えて完成した小さなインナーガーデンは、静かでなじみよい佇まい。
間取りはこの庭の緑をあらゆる場所から楽しめるように、自然に視線が誘導される構成に。リビングには大きな窓と縁側のようなウッドデッキを設け、2階にも庭の木々がちらりとのぞく窓を設けました。そのおかげで約29坪の延床面積とは思えない、開放的で伸びやかな家となりました。限られた空間だからこそ生きる緑の風景を見事につくりあげた都市型のコートハウスです。
1階と2階に複数の庭。
どこからでも緑を楽しめる家
住宅密集地に建ち、黒いガルバリウム鋼板の外観が目を引くこの住まいは、ビルトインガレージと住宅に組み込んだカーポートに1階の面積の約半分を使っています。そのうえ三方を住宅に囲まれた立地で、まとまった広さの快適な庭のスペースが取れない敷地条件の中、緑を室内に取り入れるために採用したのは、小さい庭を随所に配置するアイデアでした。
まず玄関からLDKへの動線上には、カーポートの後ろ側に設えられた坪庭の緑が、地窓を通して自然と目に入ってきます。黒と天然木の美しいコントラストを強調したLDKには、裏庭(テラス)に向けて壁一面に大開口が設けられ、室内に季節の移ろいを伝えてくれます。
圧迫感が感じられないリビングの透かし階段で2階に上がると、フリースペースから玄関の吹き抜け越しに中庭(バルコニー)が見渡せます。この中庭は、和室からも見ることができます。また浴室にも窓を設けて、坪庭を眺めながら入浴を楽しめる設計に。もちろん目隠しされているので、周りの目は気になりません。室内に光や風、庭の景色をとり入れる工夫がいっぱいのプランニングで、都市部でも緑に親しむ暮らしを叶えました。
塀のような外壁で視線をコントロール!
大きな庭のあるL字の平屋
真正面から見るとシンプルな長方形のNさん宅。しかし、裏手へ回ると庭までを外壁でぐるりと囲った独特なフォルムに驚かされます。この形は、隣地との関係性を考慮した末に導き出された形です。外からの視線を遮るフェンスを設置する必要があったため、機能を兼ねたことでコスト面でも有利でした。
寝室からLDK、子ども部屋、水まわりと、それぞれの居住空間がすべて中庭に面するように配置。大きな窓は、外と内のつながりを感じさせるとともに、家のどこにいても家族の気配がなんとなく伝わる住空間をつくり出しています。
広い中庭は、周囲を気にせずに外の空気を満喫できる家族の憩いの場。将来お子さんが大きくなったら、おうちキャンプやバーベキュー、プール遊びなどを楽しんでいく予定です。そして、屋内と中庭をつなぐ縁側は、深い軒の出が陽射しや雨も防いでくれるので、アウトドアリビングや作業スペースなど、部屋のように使うことも可能。家での楽しみ方の選択肢が広がる居心地のいい住まいとなりました。
住む場所の利便性を重視すると、庭に割けるスペースが減って優先順位が下がってしまいがちですが、住まいの中に庭をとり込むコートハウスは、開放感とプライベート感を同時に得る手段として有効です。工夫次第で、住まいの理想を諦めずに済むこともあります。特に自由設計の注文住宅では始めから無理だと思い込まず、まずは設計士さんに相談してみては?思いがけないアイデアが飛び出すかもしれませんよ。
(文/Replan編集部)