タスクフォースからの提言

併せて、タスクフォースの委員からは、住宅・建築物の省エネ政策について、期限を区切った具体的な提言がなされました(図8)。

図8 再エネタスクフォースからの住宅・建築物のエネルギー性能の向上に関する提言
https://www8.cao.go.jp/kisei-kaikaku/kisei/conference/energy/20210224/210224energy6.pdf

いずれも、国交省の不作為を厳しく指摘するものでした。なにしろ、国交省は閣議決定されていた「2020年にすべての建築物・住宅で省エネ基準適合義務化」を反故にした前科がありますからね。

会合の最後には、河野太郎行政改革担当大臣から、「国交省は脱炭素に向けて世界がゲームチェンジしたことを理解しているのか」という強い疑念と叱責の言葉がありました。当日の動画はYouTubeの規制改革チャンネルにアップされており、すべての資料も筆者の研究室WEBにアップしてあります。興味のある方はご覧ください。

住生活基本計画パブコメ後に大幅修正 

このタスクフォースの提言を受けて、住宅政策の大基本となる「住生活基本計画」が大幅に見直されました。すでに最終案はパブリックコメントを通過していたのですが、河野行政改革担当大臣と小泉進次郎環境大臣の強い意向で差し戻され、「バックキャスティングにより目標を設定し」、「ゼロエネルギー住宅ZEHの普及を推進」することが明記されました。

筆者も実は、住生活基本計画がそれほど大事とは理解しておらず、改正が進んでいる事実も知りませんでした。こうした国民みんなの生活に重大な影響がある政策が、大して議論もされないまま粛々と決定しかけていたこと自体、そもそも問題ではないでしょうか。

これまで国交省は、経産省が推進するZEHについて、積極的な普及を行ってきませんでした。まさに「縦割り行政」の典型といえます。国交省がZEHに取り組まない理由が「住生活基本計画に書いてないから」だったのですが、今回の改正により、国交省もZEH推進に本気で取り組まざるを得なくなりました。大転換といっていいでしょう。 

図9 新たな住生活基本計画(2021年~2031年)の概要(2021/03/19閣議決定)
https://www.mlit.go.jp/common/001392036.pdf

住宅の未来を決定する「あり方検討会」

この流れを受けて、国交省・経産省・環境省は「脱炭素社会に向けた住宅・建築物の省エネ対策等のあり方検討会」、通称「あり方検討会」を開始しました。住宅の省エネや太陽光発電などについても議論されています。

従来の国交省の審議会は、密室で、議事録にも発言者の氏名が記載されていませんでした。今回のあり方検討会では、リアルタイムで発信され、後で動画も見ることができます。従来に比べて、はるかにオープンになったといえるでしょう。

とはいえ、6月中に取りまとめ案を作成するというのですから、これは要注意です。これまで通り、できることだけ積み上げた「フォワードキャスティング」の産物が、平気な顔で省庁から提出される可能性は否定できないのです。 

図10 住宅・建築物のあり方検討会における主な論点
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk4_000188.html

脱炭素の流れが加速する中、停滞が続いていた住宅の省エネ政策も大変革の時代に入りました。

一番大事なことは日本のみんなが「暖かく・涼しく・電気代の心配なく」暮らせること。住宅の断熱気密・省エネ・創エネは、脱炭素のみならず、みんなの幸せな暮らしを実現するのに不可欠です。日本の暮らしの未来に、我々一人ひとりが責任を負っています。閉じられた省庁の都合に左右されるのではなく、みんなで広く関心を持って、今進行している議論に関わっていくことができれば、日本の暮らしの未来は明るいものになるでしょう。


最初のページへ戻る

【バックナンバー】
vol.001/断熱・気密の次の注目ポイント!蓄熱大研究
vol.002/暖房の歴史と科学
vol.003/太陽エネルギー活用、そのファイナルアンサーは?
vol.004/「湯水のごとく」なんてとんでもない!給湯こそ省エネ・健康のカギ
vol.005/私たちの家のミライ
vol.006/窓の進化
vol.007/断熱・気密はなぜ必要なのか?
vol.008/冬のいごこちを考える
vol.009/電力自由化! 電気の歴史を振り返ってみよう
vol.010/ゼロ・エネルギー住宅ZEHってすごい家?
vol.011/冷房を真面目に考えよう
vol.012/ゼロ・エネルギーハウスをもう一度考える
vol.013/冬の快適性を図る指標「PMV」を理解しよう!
vol.014/エネルギーと光熱費最新事情
vol.015/夏を涼しく暮らすコツを考えよう
vol.016/冬の乾燥感
vol.017/採暖をもう一度科学する
vol.018/ゼロエネルギー住宅ZEH、本格普及へ
vol.019/夏の快適性をエリアで考える
vol.020/Wh(ワットアワー)とW(ワット)で考える非常時のエネルギー
vol.021/窓こそ省エネ・快適の最重要パーツ
vol.022/職住近接は地球にも人生にも優しい
vol.023/未来の気候に備えた敷地選びと家づくり
vol.024/日当たりを考えた敷地と建物
vol.025/健康・快適なリフォームの3つのポイント
vol.026/在宅勤務の普及で家づくりが変わる!
vol.027/二世帯住宅とエネルギーの関係
vol.028/平屋づくりのポイントを考える
vol.029/住宅地での日当たりを考える

 

※この記事の最新話はReplan北海道&東北の本誌でチェック!
バックナンバーは下記URLでご覧になれます↓
http://web.replan.ne.jp/content/bookcart/