引き違い窓より片引き窓を

住宅1軒の窓の値段の割合は、一般的に南と東西北の窓が半々ぐらいになります。東西北の窓は中小の窓が多く一つ一つはそんなに高くありません。窓ガラスも厚くする必要がないのでトリプルガラスや木製サッシを使うことも可能でしょう。しかし、南面の窓は大きいためガラスを厚くする必要があるだけでなく、いろいろな機能的要求もあり、ちょっとデザインに凝ると値段が高くなりがちです。また木製窓を採用しようとすると極端に値段が高くなり、高嶺の花でしかありません。

そこで私たちが山形の木製サッシメーカーと共同開発したのが、南面用の大きな片引き窓です(図-3)。引き違いサッシにしなかったのには理由があります。引き違いサッシはレールが2本あり上下の枠とレールの間の気密を取ることが難しく、高価なヨーロッパ製の金物屋パッキンを使って気密性を何とか確保している現状があります。それが片引き窓なら、引き戸の枠の周囲に開き戸と同じようにパッキンを装着すれば、引き戸を引き寄せることで簡単に気密が取れるのです。ガラスは日射侵入率の高いペアガラスやトリプルガラスを入れることができます。図-3では柱の内々に納めていますが、外付けにして納めることも可能です。片引き部分を幅900㎜程度としてFIX部分の窓幅を大きく取るデザインや、FIX部分を中央に配置して両引き窓にすることもできます。窓全体の幅は1800〜3600㎜、高さは2400㎜までが製作可能で、コストも今までの木製サッシに比べて格段に安くできました。最近は樹脂サッシでもこのような片引き窓が登場して同様なことができるようになっています。

図-3 大きな木製片引き窓の納まり
図-3 大きな木製片引き窓の納まり

夏の暑さが最大の問題

大きな窓を設けたときの最大の問題が、夏の暑さをどのようにして避けるか、ということです。寒冷地は夏の暑さがそれほどでもなく、昔の住宅の大きな窓には欄間窓がついていて、その他の小窓もほとんどが引き違いのため、面格子や小庇をつけて夏になるとこうした窓を開け放していれば、ある程度暑さを避けることができると考えられてきました。本当に暑い期間は1〜2週間で、扇風機でしのいできたわけです。しかし近年の新しいサッシはこうした小窓が無くなり、ほとんどが開き窓やすべり出し窓で構成されます。こうした窓は突然の雨や風、また防犯の観点から、家に居ない時や、居たとしても2階で就寝中に1階の窓を開け放しにしておくことができにくい構造になっています。高性能な高断熱住宅は、少しの熱で住宅内の温度が上がります。だからこそ暖房エネルギーが少なく済んでいるのですが、このメリットは夏になると家の中の暑さの原因になってしまいます。本州の南のほうの住宅は、一般的に大きな窓の上部に2階のベランダがあり、それが庇の役目をしてくれますが、積雪地では2階のベランダに雪が積もってしまうため、あまりベランダを設けません。特に北海道の住宅はこの傾向が顕著です。

東北や北海道の冷房なら安いエアコンを設置すれば良いとよく言われますが、東北・北海道の夏は関東以西に比べて、日中の外気温が高くても夜の外気温は低くなるという特徴があります。日中に室内が多少暑くなっても、風上にある1階の窓と風下にある2階の窓を開け放しにすると煙突効果によって風が強くなくても十分に通風が得られ、家中が朝までに涼しくなります。朝になったら外気温が上昇する前に窓を閉め、日除けをきちんと行えば、朝の涼しさを一日中保つことができます。つまりエアコンは不要なのです。

このように、常時通風と窓の日除けをきちんと確保することを絶対条件として南面に大きな開口部をつくる。これが今後の住宅の課題です。