第二次(世界)大戦が終わり、占領軍の統治下、教育基本法が誕生したのは昭和22年である。この法律は二度と戦争を起こすことのないよう、平和教育の立場からつくられたものだ。新しい学校教育制度により生まれたものの中に学童椅子と机があった。多くの日本人にとって、それまで座学で育った子どもたちが椅子を経験するのは小学校入学時であった。この椅子と机は中高年以上の人たちに良き想い出としてあるだろう。
角材と板で構成された学童家具は、当時のアメリカ軍を中心とした占領軍のもとで指導、デザインされたものではないかと考えられる。それらは装飾的要素は皆無である。こうしたデザインはアメリカのミッションスタイルと呼ばれるキリスト教団体が布教のために設立した学校で使われていた家具と類似点が多い。そうした様式はアメリカン・アーツ&クラフツ運動の中心的な人物、グスタフ・スティックリーの作品に多く見られる。信仰や道徳に対する考え方は、簡素で飾り気のないストイックな家具を生み出したのである。
この考え方こそが戦後、日本の教育の現場にふさわしい家具とされたのだろう。すべての国民に民主的で平等な義務教育を享受させるべく採用されたミニマルな美しいデザインであった。私の記憶では杉材でつくられていたため、接合部に緩みが生じたり、座板の釘が浮きズボンに鉤裂(かぎざき)を生じることが多々あった。
翻って現代の日本人の一般家庭での机と椅子となると、子ども部屋以外であまり見かけないのではないだろうか。昨今の新型コロナウイルスによってリモートワークが推進され、家庭での仕事量が増え、そのため巣ごもり需要として机や椅子の購入数が増しているようだが、多くの人たちの家庭でのデスクワークはダイニングテーブル&チェアで対応していると聞く。
⁝
今回紹介する作品は、フランスのデザイナー、ピエール・ポラン、1953年のデスクと56年デザインのスウィベルチェアである。いずれも無駄な要素を徹底的に排したデザインだ。特にデスクは、引き出しとデスク天板が段差のない同一平面となっている。それでいて明確に区切られた天板の素材対比は見事である。より少ない要素で最大の効果を表現するミニマルデザインのデスクとして他に類を見ないオリジナリティあふれる傑作である。日本の狭い住空間でも場所を取らないサイズは、リビングルームの一角に置いても邪魔になることはなく、空間の質を高めるだろう。
こうした過去の名品、名作を日本はもとより世界から見いだし、復刻、紹介、販売しているメトロクスの企業姿勢は、少なからず日本の生活文化の向上に役立っていると思われる。短絡的な新作主義や他作のイミテーション及びファストプロダクツなどにとらわれることなく、すぐれた物を永く使い続け、使い切ること。そんな物を通して民度を高めることが求められている。
■F031デスク
サイズ:本体/幅1300×奥行610×高さ725㎜、引出し深さ/上段85㎜、下段110㎜
材質:天板/メラミン化粧板、取手・脚部/スチール、引き出し/オーク・チーク
カラー:ブラック、ホワイト
重量:25㎏
価格:オーク 176,000円(税込)、チーク 181,500円(税込)■CM231チェア
サイズ:本体/幅380×奥行470×高さ730~890㎜、座面高さ/390~550㎜、ベース部分/幅600×奥行600㎜
材質:本体/スチール(粉体塗装)、張地/本革
耐荷重:約120㎏
価格:71,500円(税込)メーカー:METROCS(メトロクス)
<問い合わせ先>
メトロクス
https://metrocs.jp