東日本大震災から今年の3月で10年が経ちました。リプランでは取材を通して、東北に暮らす方々の住まいと暮らしの再建のお話に触れ、そこで得た知見や感じたことを記事として発信してきましたが、これからもひとつひとつの住まいの物語に丁寧に向き合い、かたちにしていきます。

そしてこの10年の間には、北海道を含め、全国各地で大きな被害を伴う地震や台風、大雨や大雪が数多く発生し、そのたびに住まいや暮らしが少なからぬダメージを受け続けています。また2020年からは新型コロナウイルス感染症という新たな脅威に見舞われたことで私たちの暮らし方が変わり、住まいを取り巻く環境やニーズも変化しつつあります。

そこで今回は、災害に対する住まいの「守り」や「備え」として、今改めて家づくりで考えておきたいことを、実例を交えながら見ていきましょう。


土地のことを知っておく

災害で家がダメージを受ける場合の大きな要因のひとつは「土地」にあります。そのため、土地の購入から家づくりを始める場合は、利便性やお子さんの学区のことはもちろん、その土地の地盤の強度や災害時の被災リスクについても知ったうえで、リスクを軽減するための対策や、いざというときの対応方法を想定しておくことが重要です。

東日本大震災で被災し、津波被害のリスクが低い高台の造成地に新たに建てた住まい。安心感を持って暮らすことができる
東日本大震災で被災し、津波被害のリスクが低い高台の造成地に新たに建てた住まい。安心感を持って暮らすことができる
昔から集落がある場所はもともと地盤が強いという話も。一方で「沼」「池」「川」「田」など水に関連する漢字の入っている地名は、地盤が弱い傾向があるともいわれる

■ハザードマップを必ず確認

新たに土地を購入する場合でも、すでに所有する土地に家を建てる場合でも、必ず目を通しておきたいのが、国土交通省の国土地理院が作成している「ハザードマップ」です。これは「自然災害による被害の軽減や防災対策に使用する目的で、被災想定区域や避難場所・避難経路などの防災関係施設の位置などを表示した地図(国土地理院HPより抜粋)」というもので、

  • 風水害に備える「洪水ハザードマップ」
  • 火山噴火に備える「火山防災マップ」
  • 地震災害に備える「地震防災マップ」
  • 液状化災害に備える「液状化被害想定図」
  • 津波・高潮に備える「津波災害予測図」

など、土地条件が異なる全国のさまざまな地域ごとの災害リスクを確認することができます。地域ごとのハザードマップは、国土交通省が運営する「ハザードマップポータルサイト」で確認できますので、ぜひ土地選びや非常時の対応を検討する際の参考として、活用してみてください。

国土交通省が運営するハザードマップポータルサイト

ライフラインを想定しておく

北海道で2018年に発生した胆振東部地震では、地震の影響で北海道のほぼ全域がブラックアウトとなり、数日にわたって電気の供給がストップしました。また北陸や東北ではこの冬の大雪災害で、電線が切れるなどして停電や断水などが起きました。

電力会社をはじめ、多くの方々の尽力でかなりスピーディーに復旧しましたし、石油ストーブやカセットコンロ、充電器や水を日頃から準備しておけば、家が無事でさえあれば最低限はしのげます。ただせっかく家づくりの機会があるなら、そのような非常事態も想定しておくと、いざというときに心に余裕を持って行動できるでしょう。ここでは「いざというときの備え」を家づくりで実践した例をいくつかご紹介します。

■薪ストーブとプロパンガスによる備え

以前リプランが取材したこちらのお宅では、災害時への備えとして、薪ストーブとプロパンガスを採用することにしたといいます。実際、ブラックアウトが起こった際には、薪ストーブの備えがあり、ガスも地域の簡易水道も使えたことから、不自由をあまり感じることなく復旧を待つことができたそうです。

安心の備えとして導入を決めた薪ストーブ。熱効率を考えた設計で家中を温める
安心の備えとして導入を決めた薪ストーブ。熱効率を考えた設計で家中を温める
煙突からの放熱は、壁を隔てて隣のユーティリティや浴室、シャワー室を温めるのに有効利用
煙突からの放熱は、壁を隔てて隣のユーティリティや浴室、シャワー室を温めるのに有効利用
キッチンにはプロパンガスのガスコンロを備えた
キッチンにはプロパンガスのガスコンロを備えた

■最低限の電力を自給できる仕組みの導入

電気を自給することによるリスクヘッジの方法もあります。ひとつは、もしもの備えとして「非常時でも最低限の電力を自給できる家づくりのシステム=オフグリッド」を組み込むことです。

札幌市在住の建築家、櫻井百子さんはご実家の新築にあたり、0.1kWの太陽光発電パネルを2枚設置しました。発電した電力は、床下に設置した蓄電池に蓄電。インバーターで家庭用電力に変換させて、携帯端末の充電やラジオの電源など少ない電力で動く電化製品用の電気を自給することができます。北海道でブラックアウトが起きた際、電力は1日以内に復旧したそうですが、冷蔵庫が稼働でき、ペレットストーブの電源も確保できて安心だったといいます。

オフグリッド太陽光パネル
家の南面に太陽光パネルを設置。道具を使えばバルコニーから手入れができるので、雪が積もっても安心
床下にはコンバーターと蓄電池
床下にはコンバーターと蓄電池。点検もできるようスペースが確保されている

この事例については以下の記事に詳しく紹介しています。ぜひ併せてご覧ください。

停電時もで安心で、役に立つ。最小限のオフグリッドとは?

■太陽光発電パネル+蓄電池で電気を自給

太陽光発電パネル+蓄電池で電気を自給するのも、ひとつの選択肢になるでしょう。例えば国が2050年までの普及一般化を目指しているLCCM住宅(ライフサイクルカーボンマイナス住宅:CO2排出量をマイナスにする仕様の住宅)は、高い住宅性能で住まいで使われる一次エネルギー量を最小限まで抑えるとともに、太陽光発電システムによる創エネで住宅のエネルギーの自給率を高める、というものです。災害時の備えになると同時に、日常的にエネルギーの外への依存度を減らすことができます。

屋根とカーポートを合わせて44枚、およそ15kWの太陽光発電パネルを搭載。V2Hを通して住宅と電気自動車の電気を互いにやりとりできる
屋根とカーポートを合わせて44枚、およそ15kWの太陽光発電パネルを搭載。V2Hを通して住宅と電気自動車の電気を互いにやりとりできる
階段下スペースに置かれた6kW相当の蓄電池は、ブラックアウト時にも2、3日はいつもと変わらない暮らしができる電気を十分確保できる
階段下スペースに置かれた6kW相当の蓄電池は、ブラックアウト時にも2、3日はいつもと変わらない暮らしができる電気を十分確保できる

「何が起きても絶対に安全な家」は残念ながらありません。でも、少なくとも家づくりの際に考えうる選択肢を一旦テーブルの上に広げて並べ、自分たちのライフスタイルや趣味嗜好、予算などの条件と照らし合わせて優先順位を付け、選ぶことはできます。

耐震性能や浸水対策、地盤補強や地盤保証制度、家にかける災害時の保険など、考えることはたくさんありますが、ここは面倒がらずにさまざまな側面を知ったうえで、納得を積み重ねて家づくりを進めていきたいですね。

(文/Replan編集部)

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