室内の印象を決定づける要因はさまざまありますが、そのひとつが「床材」です。家の中の広い面積を占めるので、選ぶ床材の色や風合い、質感などによって、空間の印象が変化します。
また床は身体に触れている時間が長かったり、食べ物や飲み物をこぼして汚しがちだったりと、同じ内装材でも壁や天井とは違い、肌感やメンテナンス性まで考慮する必要があります。
そこで今回は、インテリアコーディネーターの本間純子さんに、床材の中でも特に住宅で使われることが多い「フローリング」の基礎知識についてお話しいただきます。
木の床材「フローリング」
時代劇のシーンを思い起こしてもらうとわかるように、お城も民家も日本の建築の室内は、基本「板の間」でした。履物を脱いで家の中に入る習慣の日本人にとって、木の床材は昔から慣れ親しんだ建材といえます。
一般的に木の床材を「フローリング」と呼びますが、見た目の色や柄だけでなく、材質や表面加工などの違いによってさまざまな種類があります。
インテリアコーディネートの打ち合わせは、フローリングをはじめとする「床材」からスタートすることが多いです。それは床材がインテリアの基本色(ベースカラー ※詳しくはこちらの記事参照)の役目を担っていることが大きな理由ですが、新築工事の場合は、工期の早いタイミングで床を施工することも理由の一つです。
断面を見れば分かるフローリング材の違い
フローリング材は表面は同じように見えても、板の断面を見ると違いがよくわかります。断面が一律に木材のものは「単層フローリング」。「無垢材」「無垢フローリング」とも呼ばれ、乾燥させた木材を一定の大きさに切り出したものです。
一方で、薄い板がミルフィーユのように重なった断面や、細かなチップで形成された断面のフローリングは「複合フローリング」と総称されます。表面に化粧材を貼ってつくられており、いくつかの種類があります。それでは詳しく見ていきましょう。
木の性質を知って使いたい「単層フローリング」
十分に乾燥させた木材を製品化している「単層フローリング」ですが、施工の仕方や施工後の環境によっては、収縮や反り、ねじれや割れなどが起こる場合があります。
木は加工された後も素材として生きていて、水分の吸収・放出を繰り返し、施工後も微妙に動きます。
乾燥しやすい冬には板材同士の隙間が広がり、湿度の多い梅雨時(北海道ではその実感は薄いですが)には隙間が小さくなるなどの変化は、無垢材ならではの性質です。

目と足で感じる個々の樹種独特の色や木目、質感、経年変化が味わい深いのが大きな魅力。一本の木から切り出せる量に限りがありますので、相対的にみると他の床材に比べて高価になってしまいがちですが、傷の修復は比較的容易ですし、家族の歴史を刻みながら暮らしを包み込むおおらかな床材です。ちょっとしたフローリングの隙間や傷、色の変化などを味わいとして楽しめる方におすすめです。


バリエーション豊富な「複合フローリング」
合板や繊維板を基材に、化粧材を施したものが複合フローリングです。薄い板を貼り合わせたり、建築廃材を再利用したりして製品ロスを少なくするという点では、エコな建材といえます。また収縮や反り、捻れなどが起こりにくい床材でもあります。
単層フローリングは製品のサイズに制限がありますが、複合フローリングは幅の広い床材もつくれますし、溝のないフラットな床にすることも可能です。
ただ、基材が繊維板の複合フローリングは特に水分の影響を受けやすいので、洗面所などの水を扱い湿気が多くなる場所での使用は避けましょう。
なお基材の上に薄い化粧材を貼り合わせた複合フローリングには、いくつかの種類があります。その特徴は以下のとおりです。床材選びの参考にしてください。
「挽き板仕上げ」の複合フローリング

天然木をスライスしてつくった化粧板の厚みが2㎜程度のものを「挽き板仕上げ」と呼びます。「薄い!」と思われるかもしれませんが、傷がついたときに表面を少し削って修復できるくらいの厚みがあります。2㎜の厚み分で面を取って溝をつくることで、無垢材のような表情になりますし、木の素材感もしっかりと感じられます。単層フローリングのような味わいと、収縮が少ない施工性の良さ(床暖房にも使用可)という、いいとこ取りのフローリングです。

「突き板仕上げ」の複合フローリング

「突き板仕上げ」は化粧板の厚みが0.3㎜ほど。面を取ると基材が見えてしまうため平らな仕上がりになります。単層フローリングや挽き板仕上げの溝に溜まりがちな埃が苦手な方は、突き板仕上げの方がなじめるかもしれません。「挽き板」と同様に天然木から切り出していますから、木目に特徴がありますし、それぞれの板の柄や色の違いが、自然素材がならではの個性といえます。

「シート仕上げ」の複合フローリング
比較的新しい化粧材料として、樹脂シートや紙に木目柄を印刷し、基板に貼り付けた「シート仕上げ」の複合フローリングがあります。
かつてはプリントっぽさが気になりましたが、最近は印刷技術がかなり向上していて、本物の木と見間違えるほどクオリティーの高いものもあります。色柄の豊富さと低価格な点が特徴といえるでしょう。
表面はフィルムなどで保護加工をしていますが、一度大きな傷がつくと目立って修復が難しく、基材の素材の特性上、水に強くないので扱いには注意が必要です。




好みや生活スタイルに合った床材を
インテリアコーディネーターの仕事をしていると、ワックスがけなどのお手入れについてもよく聞かれます。これはどのようなフローリングなのかによって変わりますが、いずれも基本的に普段の掃除は、掃除機やペーパーモップをかけたり、乾拭きするだけで大丈夫です。
本物の木を使っているフローリングは、定期的に蜜蝋やワックスなどで磨くと、より良い状態が保てます。複合フローリングのなかには「ノンワックス」や「ワックスフリー」と表示されている表面を特殊コーティングしたもの(長期間使っていると、その効果は弱まってきますが…)も増えていますので、床選びの際に建築会社の担当者さんに説明してもらうといいでしょう。


フローリングは一度施工したら、簡単には交換できません。毎日足裏に触れ、長い間一緒に暮らす建材ですので、コストだけでなく、色や素材や質感、機能性やメンテナンス方法までトータルに検討して、ご自身の重視したいことや生活スタイルと相性の良いものを選ぶことが大切です。