二世帯住宅の特徴的なプランには、同居型と上下分離型(一部共有または完全分離)のほか、それぞれの世帯の住まいを完全に分けて設計した「分棟型」があります。分棟型はその名の通り、建物が別々に分かれています。家を2軒建てるようなつくりなので、二世帯住宅の中では最も広い土地面積が必要で、建築コストも高くなります。

ただその分、同居型や上下分離型の二世帯住宅よりも、生活音や振動、においの心配などが少なく、お互いに気兼ねなく暮らしやすいのが大きな魅力です。今回はそんな分棟型二世帯住宅の事例をご紹介します。土地のかたちやライフスタイルなどによってさまざまなプランニングに注目して見ていきましょう。

※掲載方法の都合上、図面の縮尺は一定ではありませんので、ご了承ください。

多目的に使える坪庭がシェアゾーン
2階建てと平屋がつながった横長二世帯住宅

■家族構成/夫婦20代、子ども1人、両親

Fさんご夫妻の家づくりは、住み替えがきっかけでした。結婚後、地下鉄徒歩圏内の賃貸マンションで暮らしていたご夫妻。手狭になってきたのを機に、賃貸での引っ越しを考えましたが、同じような条件で探すと広い部屋はそれなりの家賃。それならばと決意し、奥さんの両親との二世帯住宅を新築することにしました。

完成した住まいは、2階建ての子世帯と平屋の親世帯が横長につながる構成です。子世帯のユーティリティ手前のフリースペースと親世帯の玄関ホールの間に扉があり、室内で行き来ができ、坪庭は洗濯物を干すなど共有スペースとして活躍しています。新築して間もなく、第一子が誕生。恵まれた環境で子育てができていることが嬉しいと話すFさんです。

左側の平屋が親世帯、右側の2階建てが子世帯の住まい。真ん中のくぼんでいる部分が二世帯をつなぐ通路
左側の平屋が親世帯、右側の2階建てが子世帯の住まい。真ん中のくぼんでいる部分が二世帯をつなぐ通路
土地が縦に長いため、駐車スペースは道路に面している子世帯の住居の手前に集約。左側には細い通路があり、親世帯の住まいに行くことができる
土地が縦に長いため、駐車スペースは道路に面している子世帯の住居の手前に集約。左側には細い通路があり、親世帯の住まいに行くことができる
レッドをポイントカラーで採用した子世帯のキッチン
レッドをポイントカラーで採用した子世帯のキッチン
子世帯リビングの右側の開口部は坪庭と面している。坪庭は採光、洗濯物干し、世帯間のコミュニケーションなど、多目的に使われる場所
子世帯リビングの右側の開口部は坪庭と面している。坪庭は採光、洗濯物干し、世帯間のコミュニケーションなど、多目的に使われる場所

■設計・施工/(株)住宅日和
<ReplanWEBマガジン 掲載>

大きな中庭とガレージが世帯をつなぐ
程よい距離感の二世帯平屋

■家族構成/夫婦50代、息子夫婦30代、子ども1人

ガレージを挟むように2つの玄関が向かい合い、それぞれの世帯がゆとりのある中庭を眺められるよう配慮された間取りのKさん宅。親世帯が所有していた住宅2軒分と畑の一部という広大な敷地に建てられたこの大きい平屋は、子世帯が子どもを授かったことをきっかけに計画された二世帯住宅です。

世帯同士は建物でつなげずお互いのプライバシーを確保しながらも、中庭やガレージなどの緩衝スペースを共有させることで程よい距離感を保っているのが特徴です。中間地点にはちょっとした休憩スペースがあり、テラス用のソファセットでくつろぐこともできます。余裕のある敷地を有効利用して、それぞれの世帯が心地よく暮らせる工夫が随所に光る平屋の二世帯住宅です。

上空から見たKさんご一家の住まい。親世帯の代々受け継がれてきた広大な敷地に理想的な平屋がプランされた
上空から見たKさんご一家の住まい。親世帯の代々受け継がれてきた広大な敷地に理想的な平屋がプランされた
大きなビルドインガレージは各世帯2台ずつ計4台分のスペースを確保。背面には中庭が広がる
大きなビルトインガレージは各世帯2台ずつ計4台分のスペースを確保。背面には中庭が広がる
子世帯から親世帯のリビング・ダイニングを見る。石張りの通路はそれぞれのキッチンを結ぶ動線。テラス用のソファセットを置いてちょっとした休憩スペースとしても活用している
子世帯から親世帯のリビング・ダイニングを見る。石張りの通路はそれぞれのキッチンを結ぶ動線。テラス用のソファセットを置いてちょっとした休憩スペースとしても活用している

親世帯のダイニングから広々とした中庭を眺める。シンボルツリーのモミジが目に優しい。庭の向こうに子世帯のキッチンが見える
親世帯のダイニングから広々とした中庭を眺める。シンボルツリーのモミジが目に優しい。庭の向こうに子世帯のキッチンが見える
木のぬくもりあふれる親世帯のリビング。奥にはゲストルームとしても使える和室を設えた
木の温もりあふれる親世帯のリビング。奥にはゲストルームとしても使える和室を設えた
和室の前庭にはKさんの実家からも庭木を移植し、純和風の坪庭に
和室の前庭にはKさんの実家からも庭木を移植し、純和風の坪庭に

■設計/樹音建築設計事務所
■施工/(有)高橋材木店
<Replan東北 vol.62 掲載>

母屋と離れをリノベーション
テラスでつながる2つの住まい

■家族構成/夫婦40代・30代、子ども2人、両親

Aさんご家族は、築50年ほどの古い母屋と築33年の鉄骨造の離れを取り壊し、1軒の二世帯住宅の新築を考えていました。それが建築家の提案で、リノベーションに方向転換。結果、もとの建物とほぼ同じ配置で、親世帯と子世帯それぞれの家が並ぶことになりました。2つの家は、物干し用のテラスを介して行き来することができます。

「鉄骨の構造体が見えるせいか、昔からこういう家だったかのような心地よさと安心感があるんです」というAさんの言葉のように、リノベーションにしたことで、既存の暮らしの感覚はそのままに、2つの世代がゆるやかにつながる住まいとして、Aさん宅は生まれ変わりました。

段階的にリノベーションを施した2つの住まい。物干し用のテラスを介して行き来できる
段階的にリノベーションを施した2つの住まい。物干し用のテラスを介して行き来できる
リノベーション前の母屋
リノベーション前の離れ

子世帯の住まいは、旧宅では裏手だった東側に建物全体を大きく開いたプランとし、暮らし方も風景も劇的に変化した
子世帯の住まいは、旧宅では裏手だった東側に建物全体を大きく開いたプランとし、暮らし方も風景も劇的に変化した
全面開放できる掃き出し窓の向こうに広がる庭との一体感が気持ち良いリビング。リノベーション時には住まいの断熱性能にも配慮し、薪ストーブ1台のみで十分に暖房がまかなえている
全面開放できる掃き出し窓の向こうに広がる庭との一体感が気持ち良いリビング。リノベーション時には住まいの断熱性能にも配慮し、薪ストーブ1台のみで十分に暖房がまかなえている

どこにいても鉄骨の構造が目に入る子世帯の住まいは、ほとんどの場所がひとつながりになるようプランされている
どこにいても鉄骨の構造が目に入る子世帯の住まいは、ほとんどの場所がひとつながりになるようプランされている
子世帯の住まいで、唯一個室と呼べる寝室。障子戸を開ければ、階下のLDKにつながる
子世帯の住まいで、唯一個室と呼べる寝室。障子戸を開ければ、階下のLDKにつながる

■設計・施工/(株)エア・コーポレーション
<Replan東北 vol.68 掲載>

分棟型にする場合は、建物内に互いの居室を行き来できる出入り口を設けたり、中庭などのシェアゾーンを設けることで、気軽に行き来ができ、コミュニケーションが取りやすくなります。基本的な生活は別々ですが、まるでお隣さんのような感覚で暮らせて、安心感がありますね。

現在発売中の最新号「Replan北海道vol.130」と10/21(水)発売の「Replan東北vol.70」では、さまざまな「新しい二世帯住宅のカタチ」を紹介しています。ぜひ書店やコンビニ、リプランのWebサイトでご覧ください!

(文/Replan編集部)

こちらも併せてご覧ください↓
・祖母や兄弟姉妹も一緒に暮らす。「多世帯住宅」の間取り集
・ほどよい距離感をつくる。「同居型二世帯住宅」の間取り集
・実例に学ぶ。「上下完全分離型」二世帯住宅の間取りと家づくりの工夫
・3タイプの違いは何?各二世帯住宅のメリット・デメリットと間取り集

Replan北海道 vol.130
2020年9月29日(火)発売

北海道内の主な書店やコンビニのほか、
Replanの販売ページamazonfujisan
オンラインでもご購入いただけます。

Replan東北 vol.70
2020年10月21日(水)発売
東北6県の主な書店やコンビニのほか、
Replanの販売ページamazonfujisan
オンラインでもご購入いただけます。