7月に開業したウポポイ(民族共生象徴空間 )へ。この施設は、北海道の先住民族アイヌを主題とした日本初の国立博物館「国立アイヌ民族博物館」と、体験型フィールドミュージアム「国立民族共生公園」「慰霊施設」などからなるアイヌ文化の復興・創造の拠点を目指してつくられたもの。
白老町ポロト湖畔の広大な土地につくられた施設の、ランドスケープデザインにまず驚かされる。湖に面して周りの森を採り込むようなイメージで配置されたフィールドミュージアム内には、さまざまな種類の植物が植えられていて、「自然とともにある暮らし」を想像させる。植えられているものの中には、祈りのために使う植物、着物の繊維を採るための樹木、食用や薬草となっていた草木もある。
アイヌの伝統的な住まいであるチセ群が再現された「伝統的コタン」では、チセの建設作業を見ることができる(2020年9月時点)。木の壁柱に束にした茅をくくって壁にするところを見て、「茅の中がストロー状だから断熱性がそれなりにあるのだろうか?」などという興味が湧く。作業が一日続くのであれば、一日それを見てしまいそう。
実際にそうして建てたチセの中を見学することができなかったのは残念だが、内覧用のチセの中では構造や内装、囲炉裏などが再現されていて、チセの使われ方や決まりごとなどを知ることができる。
川に沿って建てられるチセの川上側につくられた窓は、神が出入りする窓として大切にされていたという。採光や通風といった機能とは直接関係のない「信仰」的要素が、家のデザインの大きな位置を占めていることが興味深い。
「国立アイヌ民族博物館」は周囲の自然と調和する試みがなされているものの、どちらかといえば「博物館としての威厳・存在感」を表すような建物で、ポロト湖を見渡すパノラミックロビーの大開口が印象深い。1階はロビーとミュージアムショップやライブラリー、2階がメインの展示室となっている。
パノラミックロビーからしばし園内とポロト湖を見ていると、湖と周囲の森、植物が少しずつ室内に染み込んできて、自分と一体化するような感覚をおぼえる。
トンネルのような導入展示スペースを通って展示室に入ると、広い空間に「私たちのことば」「私たちの世界」「私たちのくらし」「私たちの歴史」「私たちのしごと」「私たちの交流」の大きく6つのテーマごとに、アイヌ文化で使われていた道具や衣類、資料などが展示されている。
中央には円形のプラザ展示も用意されていて、明確な順路はないため、自由に見たい場所から展示を見ることができる。現在は新型コロナウイルス感染拡大防止のため、模型や装飾品に実際に触れることができる展示は利用できなかったが、アイヌについて知識のない人にとっては十分な展示量。
この施設を訪れることを興味の入り口として、毎回テーマを決めて何度か訪問しているうちに、施設も周りの土地になじんでいきそうだ。
※国立アイヌ民族博物館の入館は日時指定・定員制のため、事前予約が必要。博物館の入館料はウポポイ入場料に含まれる。
(文/Replan編集部)