ダクト式冷暖房を初めて採用した東京に建つ二世帯住宅
今から5年ほど前に、知り合いのAさんから、自宅をご家族と奥さんのお姉さん世帯との二世帯住宅として建てたいという相談がありました。東京でKSAという設計事務所の加藤君に設計をお願いして、出来上がったのが図1に示す3階建ての住宅です。都心の駅に近い立地で、38坪ぐらいの敷地に57坪の二世帯住宅とは、地方都市では考えにくい条件ですが、都心の非常に高い地価の条件では、普通にこのような住宅が建つのです。縦列で並べれば車2台の駐車スペースを確保し、玄関は共用の3階建て住宅です。典型的な③のケースになります。
南側の日照を確保できる2階にLDKを設け、1階はサニタリーと主寝室、3階は子ども部屋という典型的な都市型3階建て住宅です。北側斜線が非常に厳しく、北側の屋根は急勾配の傾斜屋根になっています。断熱仕様は、屋根がHGW16㎏345㎜とかなり厚く、外壁もHGW16㎏210㎜の付加断熱をしています。基礎はベタ基礎に内断熱XPS(3種)100㎜として、外周部のみ内側スカート断熱として、土間上に同じ断熱材を幅900㎜施工しています。
実はこれほどの厚い断熱をしたのには訳があります。準防火地域のためサッシに制約があったのです。当時、PVCサッシは使えず、AL-PVCサッシでガラスが網入りガラスのLow-E12㎜ペアガラスしか使えなかったのです。Q1.0住宅では、ArLow-E16㎜ペアガラスを使って窓からの熱損失を少なくする手法を採用しますが、これが使えない分、断熱材をかなり厚くしたというわけです。結果として、躯体の断熱は、開口部を除けば寒冷地のQ1.0住宅でも通用する構成になりました。現在では、ArLow-E16㎜ペアガラスでAL-PVCサッシも、PVCサッシも市販されており、もっと性能を上げることもできます。
当時、私は、ダクト式のエアコンを使った全室暖冷房システムを検討中で、加藤君とAさんにこのシステムの採用を提案しました。設計がほぼ出来上がっていたので、ダクトを納めるのに大分苦労したとのことでしたが、なんとか完成にこぎ着けました。
2階のキッチンの天井裏にダクトエアコン本体を据え付け、エアコンの吹き出し口3ヵ所のうち、1ヵ所はそのまま2階天井裏に吹き出し、1ヵ所はダクトで3階に吹き出し、残りの1ヵ所は1階の天井裏に吹き出すという構成です。1階と2階の天井裏はそれぞれチャンバーとして、床と天井に吹き出し口を設け、そこから温風・冷風が吹き出します。下向きに吹き出す温風は天井付近に滞留するのを避けるため、吹き出し口にブースターファンを設置します。同様に上向きに吹き出す冷風もブースターファンで天井付近まで上昇させます。天井裏全体が、暖房時は温風で暖められ、冷房時は冷風で冷やされますから、室内は床、天井面による輻射暖房ができるわけです。