距離を空けるソーシャルディスタンスが最重要
断っておきますが、筆者はこうした感染予防や換気の専門家ではありません。ただ、学会のこうした問題に詳しい先生にお伺いしたところ、なにより大事なのは「人と人の距離を空けること」だそうです。こうした感染予防のための距離確保を「ソーシャルディスタンス」と呼びます(図4)。今回の感染が収束した後も、この衛生確保に必要な距離を保つという行動は続く可能性が大いにあります。
ソーシャルディスタンスをしっかり確保すれば、最も危険な飛沫感染と接触感染はおおむね防ぐことが可能です。間隔をしっかり確保した上で、室内の換気を徹底すれば空気感染のリスク低減につながると期待できます。
感染予防に必要な換気回数はどれくらい?
政府の資料でも家族に感染が疑われる場合は、患者と部屋を分けて2メートル以上の距離を常に保ち、さらに「定期的に窓を開け放して換気する」ことを推奨しています。
住宅では、以前に建材から放出される有機揮発化合物(VOC)による室内空気汚染「シックハウス症候群」が問題になりました。その対策として2003年に建築基準法が改正され1時間に部屋の空気半分が換気される「換気回数0.5回/h」の機械換気設備の設置が義務化されました(図5)。これは通常の空気質確保には十分な換気量ですが、室内にコロナ患者がいる場合の予防には不十分と思われます。
夏も冬も窓を開け放つ?
コロナウイルス感染予防に必要な換気量については、まだ世界的にも結論がでていないようですが、結核患者の隔離病棟では1時間に12回も部屋全体の空気が入れ替わる大量の換気が求められています。機械換気でこれだけの換気をするのは大変ですが、窓を開け放てば同程度の通風換気は可能です。窓の開放が推奨されるのは、この辺が理由でしょう。
ただし、結核は「空気感染」が主要な感染ルートとされる病気です。現状では飛沫・接触感染が主とされるコロナウイルスについて、結核と同様の換気対策が必要かは判断できません。
もちろん、春や秋のように外気温度が穏やかであれば窓開け換気も問題ないのですが、冷暖房が必要な夏・冬にまで同様に窓を開けっぱなしにするのはあまり現実的ではありません。国もこの大量の換気確保と暖冷房の省エネとのバランスには悩んでいるようで、まだ明確な指針は出ていません。効果とコストを冷静に踏まえた議論を期待したいところです。
人との接触回避。仕事は在宅勤務へ
繰り返しますが、コロナウイルス感染の主要ルートである「飛沫」「接触」を防ぐには、人との接触を減らすことが最も重要です。国は「人との接触を8割減らす10のポイント」を示しています(図6)。「飲み会はオンライン」などユーモラスなものもありますが、特に注目されているのが「仕事は在宅勤務」です。
本連載のvol.22 「職住近接は地球にも人にも優しい」でもお話ししたとおり、現在の暮らし方は住まいと働き場所の距離が非常に離れている場合が多く、移動と勤務のために膨大なエネルギー消費とCO2排出、なにより途方もない時間と体力を浪費してしまっています。近年の情報技術を利用すれば、多くの業務で在宅勤務は容易なはずですが、なかなか普及してきませんでした。それが今回の問題で、緊急避難的に一気に在宅勤務が広がっています。
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