北国は一般的に、冬は寒さが厳しく夏は冷涼なイメージですが、最近は真夏日になることも珍しくありません。Tシャツから厚手のダウンコートまで、季節に合わせた服はもちろん、マフラーや手袋、帽子やバッグなども必要です。

「衣類の収納」は、家づくりにおける大きなテーマの一つです。せっかく家を新しくするなら、これまでの悩みを解消して、すっきりと片付けやすく、使いやすくしたいですよね。でも、ただウォークインクローゼットを設けたり、収納スペースをたくさんつくったりすればいい、というわけではありません。それが収納のムズカシイところ。

そこで今回はインテリアコーディネーターの本間純子さんに、家づくりの参考にしたいクローゼットのサイズの基本と上手な使い方についてお話いただきましょう。


服にとって一番住み心地が良い「タンス」

クローゼットの話に入る前に、「タンス」のお話を少し。タンスは収納家具の一つで「洋服箪笥」「和箪笥」「整理箪笥」「チェスト」などがあります。一昔前までは衣類の収納場所として定番でしたが、住宅に造り付けのクローゼットが普及してからは出番がずいぶんと減ってしまいました。

でも実はこの「タンス」が、 衣類の保管に最も適しているんです。タンスは気密性が高くてチリやホコリが入りにくく、防虫剤が最も効果的に作用します。特に桐のタンスは抗菌性に優れ、内部の湿度を一定に保って衣類を守ってくれます。おばあさまのお嫁入りの時の古いものでも効果は変わらないので、お持ちでしたらぜひ大切に使ってほしいところです。

ちょっとあると便利なタンスは、素材感やデザインが合うと新築やリノベ後の家でも素敵なインテリアに

一般的に洋服箪笥の奥行きは60cmほど、内法は50cm前後で、ハンガーに掛けた洋服が収まる寸法です。また、引き出しを使う整理箪笥やチェストの奥行きは40cmほど、引き出しの内法は35cmほどで、畳んだ衣類を収納します。

このサイズ感を踏まえて、次は「クローゼット」のお話です。

クローゼットの使い勝手の良さは
「寸法(サイズ)」で決まる

奥行きは「60cm」くらいがちょうどいい

造り付けのクローゼットの寸法でポイントになるのは「奥行き」です。クローゼットはいわば「洋服箪笥」を建物に組み込んだイメージのものですから、 基本的に奥行きは60cmほどが適しています。

また、クローゼットの扉は天井近くまでの高さにしましょう。一般的なクローゼットでは、ポールの上に棚板をつけて物が置けるようにしますが、 扉の高さが2m程度だと置きたい箱などがドアの上枠に当たっ て入らないことがあるからです。この点も要注意です。

ハンガーを掛けるポールの高さは、使う人の身長に合わせて手が無理なく届く高さに。毎日使うので、高さが合っていないと小さなストレスになります。また、衣類をたくさん収納できるようにとポールを上下2段に設置する場合は、ロングコートや丈の長いワンピースの裾が折れ曲がることなくかけられる場所を想定しておくことも重要です。

内部の壁の仕上げにも注意

もう一つ、気を付けたいのが「クローゼット内部の壁の仕上げ」です。クロスやプラスターボードで仕上げた場合は問題ありませんが、骨材を混ぜた塗り壁仕上げなど、壁の表面が硬くてザラザラしていると、服が擦れて傷んでしまう恐れもあります。コストをかけすぎる必要はありませんが、できるだけ表面がなめらかな仕上がりのものを選びましょう。

クローゼットのポールは、使う人の手が届きやすい高さに設定を。クローゼット内の壁は、なるべく服を傷つけないようななめらかな素材を選ぶのがポイント
クローゼットのポールは、使う人の手が届きやすい高さに設定を。クローゼット内の壁は、なるべく服を傷つけないようななめらかな素材を選ぶのがポイント

リフォーム・リノベでは「押入れのリメイク」に注意

リフォームやリノベーションで和室を洋室に変える際、押入れをクローゼット仕様に変更する例が多くあります。ただ、押入れは布団などの寝具の収納を基準とした寸法なので、奥行きが90cmほど。クローゼットとしてそのまま使うには、奥行きが深すぎます。

奥の余った空間を収納として使うこともできますが、置いた物と洋服が擦れやすくなりますし、ポールに掛けた洋服を外さなければ奥の物が取り出せないので、使い勝手が良いとはいえません。可能なら、押入れの奥行きを60cmに設計し直し、残りの30cmは床にして部屋を広く使えるようにしたいところです。

ウォークインクローゼットの上手な使い方

ウォークインクローゼットは衣類の収納部屋としてとても人気で、採用するご家庭もかなり増えています。その配置も必ずしも寝室の隣ではなく、LDKの一角やユーティリティの隣など、各ご家庭の暮らしやすさに合わせて柔軟にプランされています。

ダイニングの横に家族で使うウォークインクローゼット
ダイニングの横に家族で使うウォークインクローゼット
ユーティリティの横に、納戸を兼ねたウォークインクローゼット
ユーティリティの横に、納戸を兼ねたウォークインクローゼット

ゆったり設計のウォークインクローゼットは、納戸のような使い方もできる便利な空間ですが、衣類をより長く良い状態で保管するために抑えておきたいポイントが2つあります。

1. カバーやタンス、衣類ケースで衣類を保護

基本的にウォークインクローゼットは、部屋に服を出しっぱなしにしているのと同じです。しばらく着ない服は、意外とホコリっぽくなりやすいので、冠婚葬祭用やよそ行き用など着用頻度が低い服はカバーをかけておくと、急に着ることがあっても綺麗な状態で袖を通すことができます。

また、これはクローゼットにもいえることですが、扉があってもタンスほど気密性は高くありません。扉がないお住まいではなおのこと、気密性がなく防虫剤の効果が期待しにくい環境です。

そこでおすすめが、タンスや密閉性の高い衣装ケースを、クローゼットと組み合わせる収納方法です。季節に合った服だけをハンガーに掛け、デリケートな素材や季節ものの衣類はタンスや衣装ケースに収納して、防虫剤を使用しましょう。今だったら、出しておくのは春から秋口に着る衣類。冬物は洗って畳んで、虫食いや湿気予防をしてタンスなどに入れておけば、夏の間も安心です。

旧宅で使っていたタンスが収まる寸法でウォークインクローゼットを設計。使用頻度の低い服にはカバーをかけて
旧宅で使っていたタンスが収まる寸法でウォークインクローゼットを設計。使用頻度の低い服にはカバーをかけて収納
クリアな衣装ケースだと、中に入っているものが見やすくてわかりやすい
クリアな衣装ケースだと、中に入っているものが見やすくてわかりやすい

2.  紫外線対策で、衣類の変色を防ぐ

ウォークインクローゼットに窓を設ける場合は、遮光性のあるカーテンやロールスクリーンなどを付けましょう。というのは、外から射し込む太陽光に含まれる紫外線の影響で、服の通路側に露出しているあたりだけ日に焼けて、色が変わってしまうことがあるからです。

また蛍光灯も紫外線を発するので要注意です。できればウォークインクローゼットのなかは、LED 照明にしましょう。光の色は「温白色」か「昼白色」にすると、紺色と黒色の衣類が見分けやすいですよ。

自分たちの持ち物の量や使い勝手を考え、引き出しや棚を造り付けた機能性が高いウォークインクローゼット。窓はロールスクリーンで遮光

私が提案する、ウォークインクローゼット活用術

参考までに、これまでお伝えしてきたことを踏まえて「こんな感じだと使いやすいかな」と私が考えた、納戸とウォークインクローゼットを兼ねた収納空間がこちらです。

広さはウォークインクローゼット3帖+納戸2帖の計5帖程度。棚やポール、引き出しなどは、つくり込み過ぎると物の量が増えたり生活スタイルが変わったりしたときに対応しにくくなるので、お手持ちのチェストや衣装ケースなどをこのように活用するとよいでしょう。

クローゼット内に、身支度チェック用のミラーがあると便利です。ただしミラーの前に立ったときに、背景がなるべくスッキリとして雑多なものが写り込まないようレイアウトを工夫したいところ。

納戸は、ざっくりとした造り付けの棚があると、空間を縦方向に有効利用できます。スーツケース、雛人形や五月人形、シーズンオフの寝具、脚立、額絵など、衣服以外で使用頻度の低いものを出し入れしやすく収納できるように設計すると、収納ストレスを減らせて、気持ちよく暮らせます。

収納計画の大前提は、自分たちの持ち物の総量を正しく把握することです。見積もりを誤ると、せっかくつくったクローゼットに収まりきらず、新居が早々に散らかってしまいます。まずは今の持ち物で必要なもの・必要ないものを選り分けることからスタート!あとは建築のプロの力を借りながら、持ち物の総量が見えやすく、整理整頓がしやすい収納計画を立てて、快適ですっきりきれいな住まいを実現してくださいね。