家づくりは「選択」の連続。設備にしても建材にしても、色やグレード、デザイン、素材などいくつもの組み合わせから、自分たちの家に良いと思うものを次々に選んで決めていくことになります。なかでも選択肢がとても多くて、楽しくも悩ましいのが床や壁、天井の「内装仕上げ材」選びです。そこで今回は内装仕上げ材のなかでも最もポピュラーな「壁紙(クロス)」選びのポイントについて、インテリアコーディネーターの本間純子さんにお話いただきました。
そもそも壁紙(クロス)ってどんなもの?
内装仕上げ材には、漆喰や珪藻土などの塗り壁材をはじめ、木やタイル、石などさまざまな素材が用いられますが、壁や天井の仕上げ材として多くの住宅で使われているのが壁紙です。工期が短くて済み、張り替えが容易。ものによってはコストを抑えられ、色やデザイン、質感の選択肢がたくさんあるのも大きな魅力です。
元々は文字どおりの「紙」製でしたが、後に織物壁紙やビニル壁紙が登場しました。他にも和紙、ケナフ、コットンなど非木材紙の壁紙や、天然木や石、金属を紙と貼り合わせた壁紙、個性的な色柄でデザイン性の高い輸入壁紙など種類は多様です。輸入壁紙は幅が50㎝ほどと国産のものより狭いので張りやすくDIYに向いています(ただし柄のあるものはリピートの合わせ方に注意が必要です)。
じつは意外とムズかしい?壁紙選び
新築でもリフォーム・リノベーションでも、壁紙を選ぶときはなんとなくワクワクするもの。事前に全員で話し合ってくるご家族も多いのでしょう。「居間の壁は落ち着いたイメージ。洗面所はエレガントな雰囲気で、子ども部屋は可愛らしくしたい…」など、私がお客様と打ち合わせをするときも、壁紙選びの日は普段以上に盛り上がります。
国産の壁紙の主流はビニル壁紙です。さまざまなメーカーから出ている壁紙の見本帳は、とにかく種類が豊富。施工性がよく、色やデザインのバリエーションや、防汚・消臭といった機能性に優れた商品が数多くあるのが特徴で、1冊の見本帳に700~800点が収まっています。カラフルでおしゃれな柄のサンプルチップでいっぱいですし、素敵な施工例写真も並んでいます。悩んで決めたお気に入りの色やデザインの壁紙で仕上がった空間を見るのは、家づくりのなかの大きな楽しみの一つでしょう。
ところが、いざ完成した部屋に入ってみると「あれ?なんかイメージしていたのと、色やデザインの感じがちがう…?」ということが意外と起きがちなのが、壁紙選びの難しさ。サンプルで何度も確認したはずなのに不思議ですよね。実は思い通りの空間にするためには、壁紙選びで抑えておきたいいくつかのポイントがあるのです。
面積効果:面積が大きいと、色は明るく鮮やかに見える
色には「面積が大きいほど、明るく鮮やかに見える」特性があります。これを「面積効果」といいます。これは裏を返せば「面積が小さいほど、暗くおとなしめに見える」ということ。「部屋の壁紙の色が、思いのほか明るくて派手になってしまった…」という話をときどき耳にしますが、それは色選びのときに小さなサンプルだけを見て、その印象で壁紙を決めてしまったことが大きな理由でしょう。
壁紙の見本帳のサンプルチップの大きさは、4×4㎝から6×8㎝くらいです。正直、この大きさでは壁に貼ったときの色のイメージを正確につかむのが難しいので、いくつか候補を絞ったら「A4サイズ」程度の大きさのサンプルを用意してもらいましょう。色味(色相)はそれほど変わりませんが、明るさ(明度)と鮮やかさ(彩度)が「選んだのってこんな色でした?!」と疑いたくなるぐらい違って見えることがあります。
また「自然光」で色を確認することも大切です。特に、10時〜14時の日中の時間帯の自然光で色を確認すると、壁紙の色の特性がよくわかりますし、光沢やエンボスなど表面の質感もより正確に見ることができます。
壁紙サンプルの見方にもポイントがあります。サンプルはまず垂直に立て、次に正面、少し横からと、角度を変えてゆっくり眺めます。壁に立てかけたり誰かに持ってもらうなどして、1メートル以上離れて見ると空間全体をイメージしやすいでしょう。
天井にも壁と同じ壁紙を張ることが多いですが、その場合、天井の方が色味が少し暗く感じられます。これは壁紙の凹凸で影ができることや、光の当たり方が壁と天井で異なることが原因ですが、質感やトーンは同じなので違和感はなく、無理に色を合わせようとしない方が自然です。
対比効果:サンプルの色の見え方は、見本帳の台紙の色次第
見本帳のサンプルチップだけで壁紙を選ばないほうがいいのには、もう一つ理由があります。それは見本帳の台紙の色によって、選んだ色の印象が変わる可能性があるからです。私たちはサンプルチップだけを見ているつもりでも、見本帳の背景となっている台紙の色も同時に見ています。
例えば下の2枚の写真の「TWP2518」という品番(白い台紙…下の列の真ん中、黒い台紙…一番上の列の向かって右端)のピンク色のサンプルチップを比較してみてください。同じ品番の壁紙でも、台紙が黒と白とでは少し違ったピンク色に見えますよね。
このように周囲の色の影響で色が違って見えることを「対比効果」といいます。特に面積の小さなサンプルチップは見本帳の台紙の色の影響を受けやすいので、壁紙選びでは注意が必要です。
漆喰や珪藻土などの塗り壁、ペンキなどの塗装仕上げなどの場合も、気をつけるべきポイントは壁紙と同じです。見本帳のサンプルチップで色の候補を選び、なるべく大きな塗り板見本をつくってもらって、比較・検討することが大切です。「面積効果」「対比効果」の影響を少なくして、よりイメージに合う壁紙を選ぶためにも、できる限り「A4サイズ」のサンプルで確認をしたいところです。
ちなみに、見本帳に貼られているサンプルチップは、各品番の実物を切り分けて貼っています。そのため柄入りの壁紙なのに、たまたま貼られているのが無地の部分だったり、柄が大きくてほんの一部しかわからないことがありますので、ご注意を。
カタログでは施工例写真も一緒に載っているので、そこから柄の有無を確認したり、模様のサイズ感を想像したりはできますが、後々後悔しないためにも、家づくりを依頼している建築会社さんやインテリアコーディネーターなどプロに相談するのがおすすめです。
自分たちの家がイメージ通りにできるのは嬉しいもの。住まいの心地よさは家族の心身の健康にとっても大切で、毎日のあなたの暮らしを支える存在でもあります。ご紹介したポイントを抑えて、納得の壁紙を選んでくださいね。