主居室から分離された水まわりの寒さは、ヒートショックの主因
暖房している主居室でもちゃんと暖房することができないのですから、暖房していない水まわりや廊下、寝室の状況は推して知るべし。最近メディアでよく報道されている「ヒートショック」は、建物内の温度差による血圧の急上昇が原因です。
図4に示すように、浴室や脱衣所などは裸で過ごすにもかかわらず、極端に室温が低い場合が多くみられます。特に昔のプランでは、こうした水まわりは廊下や玄関で主居室と大きく隔てられている場合が多く、室温を下げる大きな原因となっています。
寝室の温熱環境こそ要注意
また日本では、なぜか寝ている寝室を暖房しない場合が多いのも問題です。身体は布団に包まれて暖かいかもしれませんが、呼吸により室内の冷たい空気を肺に吸い込んでしまうのですから、低い室温は健康によいとは思えません。意識がなく体温の低下に気づけない就寝時こそ、きちんとした室温の確保が必要ではないでしょうか。
遅すぎた断熱基準の強化。日本の住宅の9割はほぼ無断熱
ここまで既存住宅の「惨状」を取り上げてきましたが、こうした断熱・気密が不足した住宅はどれくらいあるのでしょうか?
日本においてはオイルショック以降に省エネ基準が定められ、断熱の推奨基準が示されてきました(図5-1)。1980年に初めての断熱等級2(旧基準)、1992年に断熱等級3(新基準)が定められ、住宅着工数が多かった80年代・90年代に建てられた多くの住宅は、この断熱等級2か3程度と推測されます。
しかし断熱等級2・3のレベルは低く、特に熱の弱点になりやすい窓は、温暖地では最も断熱性が低い「単板ガラス+アルミサッシ」でOKでした。床の断熱も非常に薄く、実質的には「ほぼ無断熱」という低いレベルです。
9割の家は実質無断熱。ヒートショック解決は至難
1999年に断熱等級4(次世代基準)が定められ、ようやく温暖地でも複層ガラスの窓が求められるようになりました。ただし省エネ基準は義務ではなかったため、コストがかかる断熱等級4はなかなか普及しませんでした。その結果、制定後20年経過したにもかかわらず、断熱等級4は全住宅のたった1割に過ぎないと推定されています(図5-2)。
このように「9割の家が実質無断熱」という中で、ヒートショックなどの健康問題がクローズアップされ、寒さを元から解決しなければならなくなっています。いろいろと「お寒い」日本の住宅事情を直視しつつ、現実的で普及性のある対策を打つ必要に迫られているのです。
部分リフォームでも、暖かさは確保できる
もちろん、お金をしっかりかけて家全体をフルリフォームすれば、新築にさほど劣らない断熱・気密の確保も可能です。一方でお金のほうも、建て替えとあまり変わらないほどかかってしまいます。温熱環境改善のためにフルリフォームができる人は、現実的にはかなり限られるでしょう。
幸いなことに、よりコストのかからない部分リフォームにおいても、工夫次第で暖かい住まいにすることは十分可能。そのためには、しっかり目標を定めて生活範囲を明確にし、断熱・気密と暖房計画を適切に組み合わせることが肝心です。
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