いごこちの科学 NEXT ハウス

さらなる省エネ・省CO2が住宅の重要なテーマとなる寒冷地。 本企画は、独自の視点から住宅性能研究の最前線を開いている、東京大学の気鋭の研究者・前真之准教授に、「いごこちの科学」をテーマに、住まいの快適性能について解き明かしていただきます。 シーズン1に続く第2弾として2015年からは、それまでの連載の発展形「いごこちの科学 NEXT ハウス」としてリニューアル。
「北海道・寒冷地の住宅実例から考える室内環境について」をテーマに、断熱、開口部、蓄熱など、さまざまな視点から寒冷地における室内環境の改善ポイントを解説しています。東京大学大学院工学系研究科 建築学専攻・准教授 前 真之 (まえ・まさゆき)東京大学大学院工学系研究科
建築学専攻・准教授
前 真之 (まえ・まさゆき)


家の中の寒さや温度差が健康に悪影響を与えるという「ヒートショック」問題が知られるようになり、寒さは我慢するものではなく解決するものという認識が広がっています。新しい住宅で断熱・気密をしっかり取って暖かくすることは当然ですが、今ある寒い家も直していくことも重要です。今回は既存住宅の断熱リフォームについて、一緒に考えてみましょう。

「窓」と「床」が最大の弱点

この連載でも繰り返し取り上げてきましたが、日本の住宅においては、断熱・気密の強化がなかなか進みませんでした。図1は既存住宅でエアコン暖房をしている様子ですが、エアコンの暖気が床下に届かず、足元がひどく冷たいことがわかります。

図1 日本の家は窓と床の断熱・気密性能が不足している。エアコン暖房では足元が寒いまま
図1 日本の家は窓と床の断熱・気密性能が不足している。エアコン暖房では足元が寒いまま

日本の既存住宅では、窓と床が大きな弱点になっています。まず窓は大きな掃き出しの引き違いが一般的でしたが、ほとんどはアルミサッシ+単板ガラスなので断熱性は皆無です。

床も大引き・根太の上に薄い床材を置いただけなので、断熱・気密性能がほとんどありません(図2右)。また間仕切り壁と床の取り合い部分が隙間だらけなので、床下の冷たく湿った冷気が室内に容赦なく侵入してしまうのです(図2左)。

図2 昔の床や壁の作り方は断熱・気密の大きな弱点に
図2 昔の床や壁の作り方は断熱・気密の大きな弱点に

窓と床から侵入する冷気

このように窓と床の断熱・気密性能の欠如は、図3のように冬の室内環境を著しく悪化させてしまいます。長時間滞在するリビングなどの主居室は暖房していますが、断熱不足のせいで部屋がなかなか暖まらないため、エアコンは焦って高温の空気を吹き出します。その高温の空気は軽いので、顔面を直撃して強い乾燥感を感じさせてしまいます。また高温の軽い吹き出し空気は、床下から流入する冷たく重たい外気の層を打ち破ることができず、足元はずっと低温で冷え込んでしまうのです。

図3 日本の家は問題だらけ
図3 日本の家は問題だらけ

また断熱不足の窓や壁から、せっかくエアコンが送り込んだ熱がどんどん漏れ出てしまうので、暖房を切るとすぐに室温が急低下してしまいます。

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