物の寿命には幾つかの要素がある。それらの要素のどれか一つでも欠けると忽ち物としての役割を終える。その一つめは強度(構造)である。構造上の欠陥は致命的なものとなるため、物造りの現場では特に注意が必要である。二つめは素材である。様々な素材が適材適所に使われることで、その寿命は長いものとなる。しかし、石油系のウレタンやプラスチック素材は経年劣化が著しく、ある一定の年数を経ると突然破綻を来すことがある。三つめは機能性である。機能に問題が生じるのは複合的な要因からの場合が多い。例えば椅子を例にとると、背や座のクッション材が反発力を失ったり、各部の接合部の不具合などで掛け心地が悪くなるのがこれに当たる。四つめはデザインである。流行の形や色に捉われたりしたものは、その流行が過ぎ去ってしまうと急に見窄らしく見えてしまうものだ。また、あまりにも先鋭的なデザインも時の経過と共に飽きられてしまうものだ。五つめに考えられるのが情熱ではないだろうか。造り手の情熱、そしてそれを販売する側の情熱、さらにそれらを購入した後、大切に使う情熱である。これらの要素を兼ね備えた物は必然的に寿命の長いものとなるのだ。

かつて日本では日常で使われる日用品の多くが職人の手によって生み出された。そうした物の中には、長く使う中で破損したり、機能面で問題を生じることもあった。しかし、そんな場合でもほとんどの分野でそれらを補修する専門の職人が居た。傘の張り替えや、鋸の目立て、包丁の研ぎ、鍋の穴を塞ぐ鋳掛け、布団の綿の打ち直し等々がある。中には陶器の金継ぎのように修復することで新たな価値を生み出すものさえあったのだ。こうした修理・修復の文化は日本独特のものと言えよう。

今回紹介するサワラ材を使った楕円形の飯台は、日本人の美意識を見事に具現化したものだ。古くから日本人は素材の持ち味を生かし、形態を単純化するのに長けた民族である。こうした美意識は北欧の人達が生み出すハンディクラフトの製品にも共通するものだ。かつて日本のほぼ総ての家庭にあったヒノキ材やサワラ材を使った多様な桶類。それらの桶は使い方を間違わなければ数十年も使えるものだ。現在では寿司店や割烹御用達の感があるが、もっと家庭用に見直されていいと思う。古くから使われてきた物には少しの手間を掛けても良い面が多くあるはずだ。

楕円の飯台(大)
楕円の飯台(大・小)
楕円の飯台(大・小)

そして、便利で快適な電化された現代生活では得られない小さな気付きや感動がある。熟達した職人の手によって生み出された美しい日用品には、使う人に美しい振る舞いを要求する力が備わっている。それは結果的に暮らし上手な人を生み出すのだ。伝統工芸と呼ばれるものの中には失われゆくものも多い。しかし、それらは使うことで将来に残し伝えられるだろう。「使えば残る」という意識を肝に銘じたいものだ。

同社製作の桐の米びつ
同社製作のお櫃

■楕円の飯台
メーカー:山一
サイズ:本体(大)/約W38.5㎝×D26.5㎝×H7.3㎝、蓋(大)/約W39.5㎝×D27.5㎝×H0.5㎝
    本体(小)/約W33.5㎝×D22.5㎝×H7.3㎝、蓋(小)/約W34.5㎝×D23.5㎝×H0.5㎝
重量:本体(大)/約400g、蓋(大)/約200g
   本体(小)/約310g、蓋(小)/約160g
材質:本体・蓋/天然木(木曽サワラ)、箍(たが)/銅
原産国:日本
価格:本体(大)/29,160円(税込)、蓋(大)/6,696円(税込)
   本体(小)/27,000円(税込)、蓋(小)/4,680円(税込)

<問い合わせ先>
(株)山一
https://yamaichi-kiso.jp
TEL.0264-57-2058